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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
4.魔に惑いし者の盲進
119/186

4-38

 とっ。

 妻と使用人を背に庇い、マルクァスが一歩前に出た。

「おや。自己犠牲とは、偽善でございますね。卿」

 パドルの顔に嘲りの笑みが広がった。

 対するマルクァスは、肩を軽く竦めて自嘲した。

「そのようなつもりはない」

 そう口にして、彼はキッと厳しい視線を、悪魔と共に歩むことを望んだ人の子に注いだ。

「私は君を止めたいのだ、神父」

 その願いは間違いなく心からの想いであって、そして、実現不可能な愚行だった。しかし、それでも願わずにはいられないとき、人は神を呪い、悪魔を求めるのだ。

 だからこそのサタニテイル術であり、今のパドル=マイクロトフが、かつてのルーヴァンス=グレイが居たのだろう。

 なれば、今の彼は、誰もが辿り着き得る姿とも言えた。

「止まる必要が、ありますか? 罪人は滅さねばなりません」

 それは、ある意味では正しい願いなのだろう。

 しかし、今の彼はきっと、苦しみの中で罪人を呪った当時の彼とは違う。大切だと想えた者を失い、神に、信仰に絶望し、力を欲した彼とは違う。

 悪魔の言葉に惑わされ、望まぬ願いを望み、彼は迷子になってしまっていた。

「さあ、愚かなイルハードに祈りましょう。今度こそ、人界を正しき姿へ!」

 パドルが祈りの姿勢をとると、神ではなく悪魔が力を奮った。

 魔の風が巻き起こり、自然の刃と成した。

 ひゅっ!

 刃は空間を引き裂きながら、人の子へと迫った。

「くっ」

 マルクァスは目を閉じて、腕で顔を庇った。

 しかし当然ながら、人の腕が真空によって生じる凶刃を防ぐ理屈はなかった。

 次の瞬間には血が流れ、床に首が転がる――はずだった。

 ぱぁんッ!

「なっ!」

 しかし、場には破裂音が駆け抜け、パドル神父の驚愕の声が響いた。

 彼が放った力の波は、願いを果たすことなく霧散したのだ。

「無事ですか!?」

 ちょうどその時、ルーヴァンスが姿を見せた。

 彼は場の状況を瞬時に察して――

「助かりました! あとはお任せを!」

 某かに対して感謝を口にした。

 ヴン。

 そして彼は、応えぬ筈の神――イルハードの力を受け、両の手に刃を生み出した。

神刀イルハーズ・ブレイドツヴァイ!」


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