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警邏隊員が手分けして聞き込んだ結果、悪魔に狙われる可能性がある使用人が三名いた。いずれも戦争経験者で、敵国の兵を数名、あるいは数十名、殺したということだった。
殺人者であり被害者となり得る彼ら三名のみをアントニウス邸に残し、彼ら以外の使用人はリストールの町にある貴族の家々に分散して派遣することとなった。
そして、マルクァス、ミッシェル、使用人三名、そして、ルーヴァンスにそれぞれ数名ずつの警備がつき、物々しい朝の時間を過ごした。平生とは違う雰囲気に緊張を強いられ、時間がゆっくりと過ぎていった。邸宅を飛び出したセレネが戻ることもなく、今、昼時を迎えようとしていた。
「ヘリオスくん。そろそろお昼ご飯だそうですよ。起きてはどうですか?」
ルーヴァンスが、ベッドに横たわるヘリオスを揺り動かしながら言った。
当のヘリオスは、すやすやと気持ちよさそうに布団に潜り込んでいた。肌触りのいいシーツに包まれ、柔らかく大きな枕に顔をうずめ、目を覚まそうという気概を全く見せなかった。口をもごもごと動かして、言葉らしきものをけだるげに発した。
「うにゃ。あとで食べるよぉ……」
「あとにしたら、もう昼食でなく、おやつとか、夕食とか、別物になりますよ」
論点はそこではないと思われた。
「じゃあ、夕食でぇ」
「何時間眠るつもりですか」
ルーヴァンスが苦笑しつつ呟いた。マルクァスや使用人に頼まれてきたとはいえ、絶対に起こす必要があるのかどうか、判断がつきかねた。アントニウス家の皆々さまからは、まあ起きないだろうけれどね、という裏の言葉を十二分に感じ取れていたゆえ、気持ちよさそうに夢の世界を駆け回っているだろう目の前の少年を無理に起こすことはどうにも憚られた。
(……まあ、いいか)
がしゃあんッ!
グレイ氏がすんなり諦めたその時、鋭い音が響き渡った。
「うわっ! な、何? ちょ、ルーせんせえ、何? 何したの?」
流石の寝坊少年であっても、明かな非常事態とあっては平和ボケしていられなかった。未だ耳に残る破壊音の原因を求めて視線を巡らし、パッと明瞭な答えを得られないと分かるや、ベッド脇に佇むルーヴァンスへと疑問を呈した。
「いえ、僕は何も…… 今のは――」
破壊の足音は彼らの部屋の隣――セレネの部屋から聞こえてきた。
セレネは未だ帰ってきていないゆえ、そこに居るのは女児のみであった。幼い外見の精霊さま――ティアリスが眠っているはずだった。