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『何をぼけっとしている。それもお前の望みの一つだろう? まずはそうだな。恋敵の精霊を殺すとするか?』
「やっぱりそっちの方向になるの!?」
流石は悪魔だ。さきほどから殺人の予告しかしていない。
『なに。精霊は人ではない。殺しても問題はないだろう?』
「ないってことないと思いますけど…… っていうか、ボクはアリスちゃんのことも大好きだし、その選択肢はあり得ませんから!」
つい先頃まで強ばっていたセレネの身体は、すっかり緊張を解いていた。悪魔というのはこうもボケている存在なのだろうかと首を捻った。姿が見えないにもかかわらず頭の中には幼さの残る声が響く、という邂逅はとても奇妙であったが、それ以外については、友と冗談を言い合っているかの如き心地になってきていた。
セレネは相手を悪い人間、いや、悪魔ではないと判断した。ゆえに、思い切ってコミュニケーションを試みることにした。
「時に悪魔さん。つかぬことをお伺いしますが、貴女はこの町の事件に関わっている悪魔さんなのですか?」
人が悪魔に相対しているという割には、あまりにも丁寧で暢気すぎる尋ね方だった。
悪魔はしばらく黙り込み、唸った。
『うーむ。肯定も否定もしかねるな。私自身はお前の町に興味がない。しかし、数千年来の悪友に頼まれたもので断れず、こうしてお前に近づいたという訳だ。ゆえに私は、この町の事件において重要な位置には居ないのだ』
興味がないというのに頼みを聞く姿勢といい、馬鹿正直に質問に答える素直さといい、随分と人が好い、もとい、悪魔が好いことであった。
「その悪友というのはどなたなのですか?」
『私の友の名をお前が聞いても仕方がないと思うが……』
それはそうかも知れないと、セレネが小さく頷いた。うーんと腕を組んで、何か別の、事件を見事解決へと導くような、有効な質問を模索し始めた。
その時、頭の中でぽんっと音がした気がした。
『ああ、そうだ』
先ほどのぽんは、良いことを思いついた、というように悪魔が手を打ったらしい。魔のモノは自発的に情報を提供しようと話し出した。
『奴と組んでいる人間の名ならばお前も馴染みがあるだろう。あいつの名は確か――』
「まったく…… 余計なことをおっしゃる方ですね」
悪魔の言葉を遮って、人の声がセレネの耳朶へと届いた。聞き覚えのある声だった。
セレネは声のした方を振り向いた。
「おはようございます、セレネ様。貴女は悪魔と通じる才能がお有りのご様子ですね。どうかご協力の程、よろしくお願いいたします」
パドル=マイクロトフがそこにいた。彼はニコリと微笑み、丁寧に礼をしてから、少女の顔に手をかざした。
「……ん……」
セレネの意識は暗く、深く、混濁した。