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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
4.魔に惑いし者の盲進
105/186

4-24

「そう警戒せずともいい。アルマースは他と比較して友好的な悪魔だと言う。歴史上、いくども人界に干渉している。当然ながら情報も多い。だからこそ、君と約していることも予想できるのだ」

『事実だ。信じてよい』

 悪魔自身の肯定を受け、ルーヴァンスはようやく肩の力を抜いた。それでも、険のある瞳はそのままだった。生まれた村が焼け落ちた日から修羅道を歩んできたのだ。如何なる人物であっても手放しで信用は出来なかった。

『すまないな。どうにも疑い深くてね。可愛げのない小僧だが、よければ仲良くしてやってくれ』

 世話焼きの親御のように、悪魔が軍人たちに声をかけた。幼き印象を受ける高めの声音からすると、兄思いの妹と例える方が適切かもしれない。

 その妹御の言葉を受けた反応は、それぞれに違った。ルーヴァンスは顔を顰めて、女性はニッコリと微笑み、青年は苦笑して、少女は無表情のまま肩を竦めた。

 しかし、三つ星の軍服に身を包んだ残りの一人は一切の反応を示さなかった。

『ん? 無視か?』

 悪魔が訝った。

「あー。指令はおめーの声、聞こえねーんだ。術士じゃねーからな」

「おや? アルマースが私に何か言っているのかな?」

 青年の言葉を裏付けするように、男性がぼけた言葉を吐いた。演技のようには見えなかった。事実、声が聞こえていないのだろう。

「結婚をご所望。指令と少年の」

 少女が端的に極端な誇張を口にした。確かに、一生を共にする約束までしたならば仲の良さも究極に至っているだろう。

「言ってねぇよ!」

 直ぐさま、ルーヴァンスが否定した。

 一方で、軍人たちは落ち着いたものだった。普段通りの軽口に過ぎなかったのだろう。偽りのプロポーズ話に冗談交じりにノってみたり、適当に笑って返したりしていた。

 アルマースもまた小さく含み笑いを漏らしていた。

 心労をためているのはルーヴァンス少年ばかりのようだった。

「……お前ら、結局何なんだ? 何の用なんだよ?」

 ついに、ルーヴァンスの方から歩み寄った。

 男性は苛立たしげな少年を見つめ、ニコリと柔らかく微笑んだ。そして、大きな手の平をすっと差し出した。

 彼の周りでは、女性が、青年が、少女が、或いは笑って、或いは肩を竦めて、或いはただ佇んで、ルーヴァンスを迎えていた。言葉ではなく態度で、それぞれの方法で、少年と悪魔に手を差し伸べていた。

「私たちは、ロディール国軍所属特別編成術士隊――通称サタニテイル術士隊だ。そして、私の名はマルクァス=アントニウス。魔術士隊を含めた術士団に司令を出す立場に在る。ルーヴァンス=グレイくん。私は術士団司令官として君の力が欲しいのだ」

 結婚はできないけれどね、と口にして、マルクァス=アントニウスは声を立てて笑った。

 十年と少し前のある春口のことだった。


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