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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
4.魔に惑いし者の盲進
104/186

4-23

 青年は顔をしかめてライトブラウンの頭をさすり、少しの痛みに耐えながら背後を振り返った。

 彼の視線の先では、少女が表情筋を全く動かさずに佇んでいた。喜怒哀楽のいずれを表すこともなく、薄く小さな唇を開いた。

「言い過ぎ。謝るべき」

 端的な言葉だった。それゆえにどこか迫力があった。そして、正当性を確実に含んでいた。

 青年は痛いところを突かれたとでも言うようにぐっと息を呑みながらも、往生際悪く反駁を試みた。

「でもよ、事実じゃね? 謝るとか意味わかん――」

 がんっ!

 此度は、少女の拳が直線軌道を描いて青年の顔面へとめり込んだ。

「謝る、べき」

 少女はなおも言葉少なに主張した。先に振るわれた暴力しかり、いまだ構えられている拳しかり、言外の圧力を多分に秘めていた。

 青年は顔をさすりつつ、数秒のあいだ黙り込んでからスッと手を上げた。降参のポーズを取って折れたのだ。

「へーへー。さーせん」

 おざなりな謝罪だった。

 しかし、いつものことなのだろう、少女はあっさりと身を引いた。相手が一応でも義理を果たした以上、更なる追求を試みる気はないようだ。

 謝意を向けられた本人――ブロンドを輝かせている女性もまた、気にしたそぶりはなかった。

 青年の暴言を契機として始まった騒動はこうして幕を引いた。

「バイザウェイっスけど、指令。こいつが例の奴なんスか?」

 続けて話題に上ったのはルーヴァンスのことだった。女性の不満顔よりもまずそちらの話題を優先すべきという意見も大いにあるが、もしかしたら、あるいは、万が一、全員と初対面であるルーヴァンス少年の緊張をほぐそうとした可能性もゼロではない、かもしれない。しかし勿論のことながら、平素通りのただのじゃれ合いである可能性が一番高い。

 予想を裏付けするように、男性が肩を竦めて苦笑した。ようやく本題に入れるか、とでも言いたげだった。しかし、直ぐに気を取り直したようで青年の瞳を見返してコクリと頷いた。

「ああ。諜報部の報告によれば、名はルーヴァンス=グレイくんだ」

 ビクリと、当のルーヴァンスが身を硬くした。彼の素性など、生まれ育った村が滅びた今となっては知り得ないのではないかと思えたためだった。

 しかし実際は、国が管理する名簿にて所在確認や生死確認がされていた。

 ゆえに、調査に長けた軍部の人間は、各地で目撃された風貌や年齢、所在不明者リスト情報などから統合し、密かにボルネア軍を相手取っている某かはルーヴァンス=グレイ少年その人である、と断定したのだった。

 更には――

「術の威力などからして、契約しているのはバランス型の特一級悪魔で、恐らくはエグリグルの悪魔アルマースだろうとのことだ」

 ビクッ。

 先ほどとは比べものにならないほど、ルーヴァンスの肩が跳ね上がった。

 ルーヴァンス自身のことならば人界に閉じたことゆえ、調査は可能だと割り切れよう。しかし、アルマースは魔界の住人だ。軍の諜報部とはそこまでに情報通なのだろうか。

 ルーヴァンスは訝るように、恐れるように、男性を見つめた。


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