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地に足を付けた二者へ向けて、司令官と呼ばれた男性と他二名が近づいてきた。
金髪碧眼の男性は、ロディール国の濃紺の軍服の上に薄手の黒いコートを羽織っていた。常に張り付いている微笑がどこか胡散臭かった。
彼の後ろに控えるのは、ライトブラウンの髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ二十歳前後に見える青年と、長く黒い髪を緩く二つ結びにした、黒い瞳を有する十代半ばから後半くらいに見える少女だった。いずれも男性と同じ軍服に身を包んでいた。
唯一違うのは右肩に刻まれた白き星形の数で、男性は三つ、青年と少女は共に一つしか刻まれていない。それは彼らの階級の差を現していた。有体に言えば、ロディール軍において男性が上司で青年と少女が部下という立場だった。
ルーヴァンスが改めて頬を膨らましている女性に瞳を向けると、彼女もやはり濃紺の軍服に身を包んでいた。その右肩には星が二つ刻まれている。具体的な階級名は不明だが、男性よりは下で、青年や少女よりは上の立場にいるらしい。
そこまで観察を終えて、それでもルーヴァンスは身を硬くして逃げる算段を立てていた。自国ロディールの軍人が相手だとて、自分を助けてくれた者が相手だとて、油断はできないと考えていた。彼はボルネア軍を屠る復讐の旅路の中で、ロディール軍人が村々から過剰な食糧を搾取したり、慰安婦として女性を連れて行ったりする場面を何度も見た。直接剣を振り下ろすことは決してなかったにしても、小さな小さな集落にとって彼らの暴挙は充分すぎる悲劇だった。目の前に居る者たちがそういう手合いではないと何故信じられよう。
警戒の色が消えない少年を瞳に入れて、男性が苦笑した。
一方で青年は、いまだに頬を膨らませて無言で不満を主張し続けている女性へ嘲りの笑みを向けた。
「いい年した経産婦が、んな餓鬼くせえことしてっとウゼーぞ。死ねよ」
淡い茶髪や明るい緑の瞳という、全体的に明るい色合いの見た目に反して、青年の口からは明らかな暴言が飛び出した。性格がすこぶる悪いらしい。なかなかに捉えどころのない見た目と性格のようだった。
その青年の背後で少女がすっと腕を上げた。何か質問があって手を上げているようにも見えたが、そうではなかった。高く掲げられた腕は、ほどなくして勢いよく振り下ろされた。つまり、青年の頭頂部を握った拳で殴った。
がんっ。
「いって!」
鈍い音に続いて、小さな悲鳴が上がった。