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『ほぉ。こやつは…… 十二分に見習うがよいぞ、ルーヴァンス』
アルマースが感嘆してから、年若く未熟で生意気な少年を揶揄した。声には嘲りの色が濃かった。
ルーヴァンスは頭に響く悪魔の声に対して多少の反感を抱きながらも、支援者の実力には素直に感心していた。
支援者は方々から迫る弾丸を或いは避け、或いは弾き、そうしながらも、腕に黒き弾丸を生み出した。闇色の球体からは、未熟なルーヴァンスでも分かる程の圧倒的な力を感じた。
「空虚な闇」
一点の黒が大地へと降り注いだ。黒は草原をかき分けて目標へと向かった。
或いは炎で、或いは水の刃で、繁茂していた草木はその背を低くしていた。そこに辛うじて身を隠していたボルネア軍の魔術士たちへと漆黒の闇が迫った。飢えた獣のような黒が、逃走の間も与えずに襲い掛かった。
すっ。どさっ。
静かに、只静かに、大地に肉片が転がった。
黒き弾丸は、まるで炎が雪を瞬時に融かすように、人体をあっさり消し去って見せた。それぞれ、黒へと触れたところが即座に存在を失った。或る者は頭部を、或る者は頭部以外の部分を、或る者は全身を失い、悲鳴すら上げずに骸と化した。
漆黒の輪舞がしばしの間つづき、ようよう空を彩っていた炎弾が姿を消した。ボルネア軍の魔術師が全滅したのだ。
すると、ルーヴァンスを抱いて中空を漂う金色の女性は、右手をすぅと持ち上げ、地平線にて軍靴を響かしているボルネア軍の歩兵隊へとかざした。伴って、闇色の飢えた獣は方向を転換した。
「膨張」
ずんっ。
女性の呟きを受けて黒が肥大化した。大きく大きく成り、空を、大地を、全てを飲み込まんばかりに巨大に変じ、漆黒の獣はあっさりとボルネア軍の歩兵隊を飲み込んだ。
侵略者たちは迫りくる闇に対するほんの少しの不審感を表したのみで、悲鳴も何も、肉体すらも残さずに、人界から消え去った。
ぱちん。
小さな、しかし、鋭い音が響いた。女性が指を鳴らした。その結果、虚ろな闇は、ようやく満足したとばかりに小さく笑んで――そのような印象をルーヴァンスに与え、こちらも消えた。
あとには静かな草原と、ルーヴァンスと女生と、そして、何時の間に現れたのか、数名の男女のみが残った。
「終わったかな?」
「ええ。司令官どの。対象を救助し、敵は全員殺しましたわ」
大地から見上げる男性へと向けて、女性がにっこりと微笑んだ。
「ご苦労。流石は『魔を統べる華』くんだね」
苦笑と共に男性が女性を賛美した。
しかし、女性が彼の言葉に喜ぶことはなかった。彼女は、背の黒翼をゆっくりと羽ばたかせて大地へと降り立ち、不機嫌そうに頬を大きく膨らませて見せた。
「その呼び方は可愛くないので嫌いです」
ぷいっとそっぽを向いて不平を吐露しつつ、女性は――魔を統べる華と呼ばれた者は、抱いていたルーヴァンス=グレイ少年を大地に下した。