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『……ふぅ。まったく。悪魔の忠告は聞くがよいぞ、ルー馬鹿。ほら、左へ跳べ』
幼き少女の声が注意を促した。
ルーヴァンスは何も考えず、素直に左へと跳んだ。短い付き合いながら、頭に響く声――悪魔アルマースの言葉は信頼に値すると識っていた。
どんっ!
大きな物音が響いて爆炎が燻り、大地が焼けた。
どんっ! どんっ! どんっ!
その後も、少年の周囲へと焔が連続で襲い来た。
それらの強襲を、ルーヴァンスは何とか避けた。
「なっ! 何だ! おい、アルマース!」
『だから気をつけろと言っただろう? 人間もそこまで馬鹿ではない。国境付近で襲撃が幾度も続けば対策も練る。あのように軍靴を響かせて歩兵隊がやって来たのも罠に違いない。いくら何でも存在を主張しすぎだ。お前が奴らに殺気を向けたところで、別働隊の魔術士どもが気配を察して力を放ったのであろう。お前がもう少し経験を積んでおれば奴らの存在にも気づいたはずだぞ。修練を後回しにして復讐にかまけるからこういうことになるのだ。そもそも――』
幼き声からは呆れの色が多分に窺えた。姿は見えずとも、肩を竦めて嘆息している様子が容易に想像できた。悪魔はしばし、時と場合を考えずに、くどくどと説教を垂れ続けた。
「……ちぃ。おい、アルマース! んな場合じゃねぇだろ! 行くぞ!」
ルーヴァンスは舌打ちして、悪魔に喝を入れてから左手を突き出した。襲撃を受ける前に描いていた血六芒星を中心に、強き力が呼び寄せられた。
「獄魔焔!」
魔界の焔が地上を駆け抜けた。
ぱちぱち。ぱちぱち。
草花に燃え移った火が燻り、どんどんと燃え移っていった。あっという間に辺りは火の海と化した。