雨女、雨男
「今までの運動会体育祭は全て雨」
「予備日も含めて、ね。遠足や修学旅行もずーっと雨。初めて行った夢の国も雨で、同級生に本気で恨まれた」
「そうそう。海へ遊びに行っても山へ遊びに行っても雨。かといって、スキーに行ったら雪ならぬ雨。何の役にも立たない男だ、と馬鹿にされたなぁ」
「役に立たないといったら、誰もが嫌いなマラソン大会のときは、大晴れだったわね。雲一つない快晴っぷりに本気で泣きたくなった……」
「あるある。重要な試験のときは大雨のくせに、受けたくない試験のときだけピッカピカの晴れマーク。なんの嫌がらせだよ、と本気で思ったもんだよ」
ここで、私たちはお互いに外していた視線を初めて合わした。
「同志っ!!」「同志よっ!!」
友人に「お前にぴったりの相手、紹介してやんよー」と笑いながらセッティングを(こっそりと)されたとき、「お前のデートは大雨で潰れる呪いをかけてやるっ」(つまりはデートの日にお出かけの予定を入れてやる-)と、言い切ったものだが、ごめん友人。その呪いは解除しとく、お前のデート日には予定をいれないでおく、家でじっとしておくよ。良く晴れた休日にDVD観賞、引きこもりっぽいけど、雨女だと日常茶飯事の出来事です、だって出かける準備をしたら、雨降るし。
さて、自己紹介が遅れましたが、私は生まれながらにして雨女体質。物心ついたときから、重要な行事、遊び、旅行、その全てに雨がぺったりと貼りついている過去付きです。ついでに嫌な行事のときも雨だったらいいものの、そういうときに限って晴れる、という、全く持って良いとこなしの体質です。百害あって一利なし、とはまさにこのこと。
おかげさまで、重要イベントが常に雨なんて嫌だーっ、と、根性なし男性に先日振られましたよ、勇気を出して告白したのにっ!! えぇい、そんな根性なしだと見抜けなかった自分が甘かった、あんなのよりももっと根性がある男を捕まえてやるーっ!! と、泣きながら友人に愚痴ったのがつい先日で。面倒くさそうに「なんとかしてやるから、泣きやめって」と、明らかに適当を言っていたと思っていたけれどっ。
雨女に雨男を紹介するって、どんだけ適切な人を連れてきてくれたの、ありがとうっ!! 一生、足を向けて眠れません。てか、交友関係内に雨女、雨男の両方がそろっているって、友人よ、お前の記念日もほぼ全てが雨で埋まっていませんかそうじゃありませんかっ!? ごめん、本当にごめんっ。
友人にバカにされている? いえいえ、ある意味そうかもしれませんがね。
でも、ほら見て下さいよ、目の前にいる雨男さん。近年流行の草食系男性っての? のほほーんとして、苦笑がよく似合う……典型的な貧乏くじをいつでも引いていそうな、そんな感じの眼鏡さん。
うんうん、いい感じに好みっ!! 特に眼鏡っ!! さすが友人、いい仕事をするっ。性格はまだわからないが、お互いに雨耐性へのスキルポイントはMAX振ってあると思われる、つまりは雨の中デートを楽しめるはずっ。よしっ、これは買いっ、絶対に買うっ!! 買うのが無理なら狩るっ。
いやね、お出かけ全てが雨ってのは別にもうあきらめたのよ、だからせめて一緒に出掛ける人は雨の中でも楽しんでくれるような人がいいなー、というのがね、やっぱり、乙女としての夢があるわけでして……これはもう、期待してもいいよね、雨女に雨男っ。割れ鍋に綴じ蓋。昔の人はいい言葉を残してくれてるよねっ。
「と、まぁ、お互いに同志である、ということがわかったわけで。とりあえず、一緒に映画でも見ない?」
「お、いいねぇ。まぁ、どうせ外は雨だし。選択肢は映画かゲームセンターぐらいだもんな」
「そうそう。室外でする遊び、というのに、とんと縁がない」
「遊園地系も行けないし」
「海で泳いだり、スケートとかスキーとかもできないし」
「お互いに難儀だよなー」「難儀よねー」
ま、体質ばかりはどうしようもない。俺は目の前の彼女に苦笑する、はっきりいって苦笑は習い性の一つになってしまっている。
さて、このたび、雨女の女性を紹介してもらっている雨男です。待ち合わせの喫茶店、目の前に座っている雨女の彼女ははっきりいって好み。雨女、という語感からは全く似つかわしくないぐらい、明るい雰囲気を持った女性です。紹介してくれてありがとう、友人よっ。
思えば幼いころから記念日は常に雨。雨男体質がばれてからはクラスメートに弄られ続ける日々。いじめにあわなかっただけマシかもしれないが、彼女も出来なかった。常に雨の中を出掛けることになるのはイヤだ、と、はっきり断られたのだ。これが性格がダメだとかならわかるが、体質だけはどうしようもない。今度は心が広い女性を好きになるのだ、と愚痴ったら、友人が彼女を紹介してくれた。雨男と雨女の両方を交友枠に入れているあたり、意味なく交友関係が広いな、友人よ。
確かに雨女体質の女性ならば、デート日が常に雨でも気にすまい。心配なのは、お互いの体質が掛け算で天気の悪さを加速させなければいいが、というところだろうが。そういや、家を出るとき、雷が鳴るほどの豪雨だった……が、気のせい気のせい。一人で出かけるときでも、大概そんな天気。おかげで水不足にはなりません。
「じゃあ、とりあえず店を出て近場の映画館に」
「うん。何を見るかは映画館についてから、決めるってことで」
簡単に打ち合わせをし、今日はひとまず割り勘(いやまぁ、まだお付き合い開始、というわけじゃないし、な)、会計をすまして店を出る。お互い、雨に対して完全防備。……なんか豪雨が激しくなっているような気がするが……うん、気のせい気のせい。
「何の映画があると思う?」
「そだなー。面白そうなのなら、何でもいいけど。あえて言うなら天気が良さそうな映画がいいかな」
「あ、それわかるっ。せめて観るものぐらいは良い天気のもんがいいもんね」
「そうそう。映画館内なら外が雨が降っているかどうかって気にならないし」
雨女と雨男。まぁ、常にデートは雨の日になるだろう。さすがに天災なみの豪雨が続いたら考えざるえないが、たかが豪雨程度ならば、問題ない。いや、問題にしないっ。
映画館の中ならば、「晴れ」の気分を味わえるわけ、だしな。
いつかそのうち、二人でいれば「晴れ」の気分になれるようになれば、外の天気などは、関係なくなる……というのは、さすがにちょっとくさい、かな。
そんな二人が映画館を出た後、ピッカピカに晴れている空を見て心底驚いた、とか。
二人で一緒にでかける日に限って、雨が降らなくなったとか。
……まぁ、つまらない蛇足。