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フンドシ勇者の誕生

 坂口知道、年齢・23才、職業・自称プロゲーマー、趣味・ネットのオンラインゲーム、好きなもの・俺が美しいと感じた物、俺が守りたいと感じた物、女性の肩がぶつかった時などに見せる「あっ、すいません」といった素に戻った時の表情。

 嫌いなもの・戦争、憎しみ、レジのお姉さんの愛想の無い挨拶。



 8畳程のごく普通な部屋、知道は自室にいた。部屋は踏み場こそあるものの、空き缶や雑誌が乱雑に置かれてある。

 カツカツカツとキーボードが鳴り響く部屋内。知道はネットサーフィンをしている。

 見ているサイトと言えば格闘技や野球、相撲にサッカーといったスポーツ系が多い。次の日の新聞に書かれているスポーツ記事のだいたいは、前日の内に知識に入っているぐらいの豊富な量となる。 

 そして毎回、一日の最後に見納めで見るサイトがある。それはオンラインゲームの攻略サイトだ。

 知道は趣味で格闘ゲームに精を出していた時期がある。どこのゲームセンターでも白熱した試合が行われ、連日連夜の大盛り上がりを見せていた。

 しかしゲームのジャンルは時代が進むに連れて多岐に広がっていき、ゲームセンターは過疎化してしまった。

 そして多くの人が格闘ゲームというジャンルから離れていった。知道も例外ではない。


 知道が今まで情熱を入れたゲームを捨て、次に目をつけたのが……オンラインゲームである。


 オンラインゲームでは常にたくさんの人がいる。今では日本はおろか世界から参戦している者も多数存在する。知道はかつてゲームセンターにあった熱気を思い出すかのようにのめり込んで行った。

 そして当然、オンラインゲームでは情報がとても大事な要素を絡んでいる。日々変わりゆく戦法、新たに見つかるアイテム、敵のパターン、己の鍛え方などがある。

 どれもランダム要素を含んでいたりすぐにアップデートされていたりで、覚えたところで意味が無いという意見もあるにはあるのだが、少しでも引き出しを持っている事で切り開かれる困難が少なくないのも事実な訳で。


 知道はオンラインゲームの攻略サイトを開いた。

 今日追加されている情報は……一件だけあった。

 内容は本当に細かいもので、『ドラゴン族の連続斬りで、一発目と二発目の間に3フレーム余裕がある。しゃがステを持っているなら5フレ。ただし赤字ならバクステ安定』と書いてある。

 この日本語だけ見ても、オンラインゲームを知らない人には良く分からない日本語の羅列にしか見えないだろう。

 少し解説すると、ドラゴン族は攻撃で連続斬りという爪を使った攻撃がある。その一発目と二発目の間に3フレーム、フレームとはコンマ1秒の事で要するに0コンマ3秒の隙があると。

 しゃがステはしゃがみステータスの事で、体を屈めた状態で出来る攻撃の事。赤字は相手のライフが底をつきそうになったときである。

 要は0コンマ何秒の行動について書かれてあるのだ。ならそれに反応することが可能かと言うと……残念ながら、狙っていても中々出来る物ではない。というか、相当の練習量をこなす必要がある。反応が出来たら出来たで、この場合は見返りは大きくない。

 ハイリスクでローリターンな情報。誰もが見向きもしないような行動ではあるが──知道は一生懸命手書きでメモを取っていた。


 人間、何かを極める事に美学を感じる。どんなジャンルにせよ、何かを極めた人間は一目置かれる存在になる。何を極めたかによって尊敬の眼差しで見られる範囲は決まってくるのだが、それでも人からそういう目で見られる人間は数少ない訳で。

 実は知道、その少ない存在なのである。昔からはまった事に対し、これでもかというぐらい神経と時間を割いてきた。知道がオンラインゲームを始めたとき、大物が来たものだと騒がれていた。


 今までに書き込んだ内容を見返す知道。集中力が高まり、自分の息や時計の音さえ聞こえないぐらいに集中している。

 が、しかし──

 そんな知道の集中を乱す物があった。


「…………?」


 知道はふと、背中に何かの視線を感じた。

 振り返る。誰もいない。

 そもそもエロ動画を見ながら耳にイヤホンをした状況でも親が廊下を歩く音に気づく知道が、無防備な背中を見せるのはありえない事だった。

 ただならぬ違和感の中、いつもやっているオンラインゲームを起動させようとした。

 すっとカーソルを合せ、カチカチとダブルクリック。


「…………」


 反応無し。静かな部屋に、子気味の良いリズムでクリックする音が鳴り響く。

 しかし押しても押してもパソコンは全く反応を示さない。文字が青くなるような変化さえ起こらない。

 今日はパソコンの調子が悪いものだと思い、諦めようとした。

 その時──


〈あなたをこれから、異世界へ招待したいと思います〉


 淡々とした女性の声が耳に入った。その声はトーンが高く、年齢が少し幼いように思えた。

 もちろん身内では無い。知道の家族構成で女は母と姉の2人になる。が、母は家にいることがほとんど無い。姉も家を出て一人で暮らしている。

 知道は再び後ろを向いた。当然、誰もいない。

 知道はもう一度語りかけてくる言葉に集中をした。


〈突然で驚かせてしまって申し訳ありません坂口様。私は今あなたがやろうとしているゲームの向こう側の世界の者です。あなたを招待する理由は、あなたがこよなくこのオンラインゲームを愛して下さっているからです〉


 目を閉じ、耳を塞ぐ知道。

 ……それでも声は聞こえる。要するに声が耳から聞こえるのではなく、直接頭に伝達されているようだった。


〈あなたがいつもやっていますオンラインゲーム『ナイトウォー、世界の旅路へ』のアイコンがあるでしょう。そこを指で直接押してみてください〉


 知道はすっと目を開け、人指し指を出し、パソコンに向かってゆっくりとアイコンを押した。

 パソコンの液晶が乱れた。

 しかし、何も起こらなかった。


〈……あー、ごめんなさい。これはよくパソコン初心者の高齢者が間違える、あるあるなミスでした。

 念です念。ゆっくり異世界への思いを念じてください。私のあなたを導きたいという思いと、あなたの異世界へ行きたいという思いが重なり合うとき、異世界への扉が開きます〉


 と、半ば投げやり気味の少女の声。少し恥ずかしいのか、何度かわざとらしい咳をした。

 知道は汚くなった画面をハンカチで拭いてから、ゆっくりと目を閉じた。そして静かに、異世界への思いを心で描いた。

 身体が少しずつ軽くなり、光によって満たされていくような感覚に溺れていった。





 数分後、知道は目を開けた。すると、見覚えのある景色が視界に入った。

 どこか懐かしい、暗くて岩場のような絵がある場所……。

 知道はすぐに思い出した。それはいつもやっているオンラインゲームの、はじめからを選んだ時に出る画面であった。


〈どうやら無事に来れたようですね。ようこそ異世界へ〉


 相変わらず姿を現さず、頭の中に話しかけてくる説明口調の少女の声。

 そして──


「ふんっ、『知ってた』。バカやろうが!」


 そんな少女の声に対し、知道はドヤ顔で相手を見下さんばかりに言い放った。


〈えっ……、何かこいつ気持ち悪い……。というか、知ってたとはどういう意味でしょうか?〉


 本音を織り交ぜながらも、しっかりと対応する女の声。

 知道はイライラが募っている様子だった。何故なら──


「ネットの情報網をなめるんじゃねえぞ。何人が異世界に行ったぐらいの情報は上がっていてるんだよ観念しやがれ! そして──何でもっと早く俺を連れて行かなかったんだよバカやろう!」

 異世界に来て早々、がんを飛ばす知道。その姿はまるで警察が無理矢理に事情聴取をしているような傲慢さを放っている。

 もちろん、こんな態度は少女は今までに見たことが無いわけで……。


〈なんでこいつ……この人はこんなに偉そうなんだろう……。

 まあ、とりあえず話を進めましょう。私の名前はラルハート・キュリアと言います。キュリと呼んでください〉

 と、キュリと名乗る少女は少し引いた様子で答えた。


「キュリと呼べだと? 最初っから慣れなれしいな」

 眉をひそめる知道。

〈そしてこれから異世界への設定を登録していくわけですが〉

 特に気にする様子もなくキュリは話を続けた。

「見事なスルースキルを持ってるなこいつ」

〈まずはこのゲーム上での名前と年齢、職業や身長等を入れていただきます。当然、3次元での本当のスペックを書く必要はありませんが、現実と近いほうが違和感なくプレー出来るので正直に言うことを推奨します。ハンドルネームからどうぞ〉


 ぶんっ──という音と共に、ゆっくりと知道の目の前にデジタルな縦横40センチぐらいの画面が現れた。50音順でひらがなが『あ』を先頭に並んでいる。

 それを少し懐かしい様子で見つめる知道。


「こういう入力系って懐かしいな、カーソルを一個一個合わせていくやつ。今は全部キーボードが主流だからな。昔は細かい入力に結構時間かかったな」

〈あ、分かります。私も最初はそうでした〉

「お前には言ってねえよ馬鹿が」

「…………」


 吐き捨てるように言う知道と、驚いて何も言えないキュリ。

 そして知道は人差し指を出し、たどたどしい手つきで名前を入力していった。その間、キュリは無言で時々舌打ちをした。


「ほいっ、出来たぞ」

〈はい、それでは『知道』でよろしいですか?〉

「よろしい」

〈それでは年齢はいくつですか?〉

「23」

〈23ですね。それでは、身長を入れてください〉

「182ぐらいだったかな」

〈わあ! 大きいですね。私は小さいので羨ましいです〉


 キュリは少し尊敬ともとれる声を出した。

 知道はため息をつきながら、首を横に振った。

「分かってねえなー。今の時代はちょっと低めぐらいの方がモテるんだよ。これをジャニーズの法則と言う」

〈あの人達は背が低いからモテてるわけでは無い気がしますが……〉

「うるせえ」


 知道は作業に集中した。

 そして順調に、その他の細かい設定を入れていった。

〈はい、それでは最後から二番目の設定です。異世界での職業は何を希望しますか?〉

「そんなもん剣士に決まってるだろ。俺には剣士以外見えねえし、聞こえねえわ」

〈他には銃使いや弓使い、黒魔法使いや白魔法使い、槍もありますし〉

「あーー、あーーーー、聞こえない、あーー、あーーーー」


 耳を塞ぎながら叫ぶ知道。

〈子供ですかあなたは……。というか、剣士にこだわる理由とかあるのですか?〉

「まあ特に凝り固まったような理由は無いが、あるとすれば無難に強いからだな。3次元で個別武器最強といったら間違いなく銃だが、その影響もあってか2次元になると銃より剣の方が強いっていう設定が多い。よってどのゲームでも剣っていったらバランスが良くて強い確率が高いんだよ」

〈2次元は魔法使いも強い気がしますね〉

 知道は顔をしかめながら首を横に二回ぶんぶんと振った。


「魔法使いとか、MPに媚売りながら暮らしていく生活なんてまっぴらだね俺は」

〈なんかカッコいいこと言ってますが、要はMP管理がめんどくさいという事ですね〉

「まあ、まだ黒魔法使いはまだ良い、まだ許せる。だが白魔法使い、テメェは絶対に駄目だ。

 理由はシコシコと後ろでブツブツ詠唱を唱えながら、勝ったときには前衛でボロボロになった奴と同じ報酬を貰うってのはおかしいだろ。そんなもん女がやれ、女が!」

〈女は後方支援をやれと?〉


 キュリは少しの怒気を含めながら不機嫌そうに言った。

 それもそのはず、ここで自分が引いてしまえば全ての女の子プレイヤーに悪いと思ったのである。

 知道の態度は……反省のかけらも無く、相変わらず大胆不敵なオーラを漂わせている。


「ああ、そうだ。女が戦うってのがゲームだけでなく漫画やアニメでも増えたけど、俺は嫌だね。戦いの美学っていったら男と男が鍛え抜いた裸と裸をぶつけ合ってこそだと思うわけよ」

〈なんで裸なんですかね……。でも、女剣士ってかっこ良くないですか? なんか高貴な感じがして〉

「女剣士なんか、同人誌でオーク辺りに捕まって「オ〇〇〇には勝てなかった……」オチしか思いつかんな」

〈こいつ最低すぎる……。もう設定全部塗り替えて名前チンカスさかぐち、身長233で職業白魔法使いにしてやろうかな……〉

 キュリはみるみる不機嫌になって行き、遂には敬語を忘れていた。

 言わずもがな、最初の設定は大事である。知道は前衛に関してはスペシャリストとも言っていいが、後衛に関しては全く知識も無く、寧ろ嫌悪感さえ抱いている。

 知道は取りあえずキュリの機嫌が直る方法を考慮して発言した。

「あ……ごめんなさい。うそです、女剣士大好きですはい。オ〇〇〇にも勝てます」

〈まだ言うかこの男!〉

 キュリは声を荒げた。

 ──これ以上怒らすと本当にチンカス君になってしまうかもな……

 そう思った知道は、本当にこれ以上怒らせない方が良いと判断して姿勢を正した。

 キュリはコホンと一つ咳をして、何とか落ち着きを取り戻した。

〈まあ、とりあえず最後にアバターを作りましょう。これはこれから入るオンライン上での顔や服装になります。一度作ったものは変更が出来ないので気をつけてください。時間は30分以内でお願いします〉

「30分過ぎるとどうなるの?」

〈えーっと……パソコンがフリーズする可能性が……〉

「メタ発言やめろ」

 知道は少し厳しい口調で言った。

 そして知道はデジタル画面のアバターの覧をじっと見つめた。画面に埋めつくされない程のパーツが数多く並んである。目だけ見ても、釣り上がった、少女漫画みたいなキラキラ、流し目、眉毛極太など多数存在する。

「へえー、結構量あるんだな。パーツパーツも驚くほど上手く出来てる」

 そう言うと、キュリは初めて少し嬉しそうな声を出した。

〈ふふ、ありがとうございます。これは合計1兆通りのアバターは有名ですからね。いや、私もなぜか嬉しいですね〉

「ああ、別にテメーを褒めてるわけじゃないからな」

〈…………………〉

 無言のイライラを出すキュリ。言葉に出して表現するより感情が伝わってくる。

 それを無視して、知道は手馴れた手つきで顔の選択をしていった。

 髪は短く切り上げ、眉毛が濃くて目は細くてするどい視線で、軽くアゴヒゲを生やし黒のスーツに身を包んだダンディで少し悪っぽい顔を作り上げた。

〈ちょっとヤ〇ザっぽいですが、かっこいいですね〉

「まあ毎回同じような顔を選んでるからな。このコンセプトは、昔は悪かったけど今は少し余裕が出てきた、色気がある感じのオッサンだからな」

〈石〇軍団にいてもおかしくないですね〉

「レッツ政治家って感じだな。つか時間がかなり余ったし、ちょっと他のパーツも見ていって良いか?」

〈え? ええ、どうぞ〉

 キュリは少し困惑して時計を見たが、まだまだ時間が余っていたので許可した。

 それを聞いて、知道は新たなアバター作りへと取りかかった。

 身長148、髪はピンクで少し長めで右上後頭部にお団子を小さく乗せて、目は大きくて少しウルウル、ほっぺたは常に薄く赤色、クビに大きいなリボンをつけて、少し肩幅の大きな服を着て、大きめのふりふりした大きなスカートを着用。

 多少あざとい感じの、可愛い女の子が出来た。

「なんかノリで作ってたら、めっちゃ可愛いのが出来たな。女言葉で言うと「超きゃわいーい♪」って感じの」

〈そんな女言葉はありませんが、確かにかわいいですね。センスありますね知道さん〉

「こういうモブで可愛い女キャラで、イケメン主人公のパーティに紛れ込んで、ある程度恋愛フラグを立ててから隙をついて「リア充爆死しろ!」って爆弾投げて抹殺するキャラで行こうかな」

〈やめなさい〉

 キュリは呆れるように言った。

「いやしかし、これ結構面白いな」

 そして知道はまた新たなアバターを作り始めた。

 身長162、大きめの味気ない丸い帽子、黒く長い髪で背中まで一本のみつあみが伸びている、大きめの反射しない伊達メガネを着用。目はキリっとしているが少し大きめ、首から下は大きめの学者が着るような黒色の服に胸に小さな赤いリボン。

 少し身長が高めの、少し地味ではあるが、図書館にいそうで頭の良さそうな女の子が出来た。

「ちなみにキャラ設定としては頭が良くて、何かを教えるときは指をくるくる回してしまうのがクセな。普段は頭が良くて冷静沈着だが、自分の知らない事になるとかなり動揺してしまう。そしてニヤリと笑いながら主人公の悪態をついてくるちょっとドSな面もある」

〈聞いてない聞いてない〉

「ちなみに俺が好きなタイプでもある」

〈まあ、かわいいキャラではありますね。どこかでそういう人に出会えると良いですね〉

 と、キュリが言うと、何故か知道は少し寂しそうな顔をした。

「いや、出会う事は無いだろう」

〈なんでですか?〉

「その子と俺の相性が超絶に悪いらしい。会話が成り立たないと、作者が言ってた」

〈お前こそメタ発言やめろ〉

 今度は厳しめの口調でキュリが言った。

 身長189、頭はてっぺんがハゲのアフロ、憂いを帯びた涼しい目、ピンク色の眼帯、引き締まった裸の上半身に、うすーい胸毛、下半身フンドシに膝に絆創膏。

 もはや説明不要の変質者が出来た。

「ぷっ」

〈ぷっ〉

 二人して少しの間、無言で笑いあった。

「ぷぷっ……こ、これ、これ良くねえか? 何か始まった瞬間にゲームクリア出来た気分になれそうだ」

〈ふふっ……いや、むしろ始まった瞬間ゲームオーバーかと……ふふ〉

 二人は大きな声で笑いあった。

「いやー、お前もなかなかやるな」

〈いえいえそちらこそ〉

 探り探り、二人は堅くエアー握手をした。

〈遊ぶのは良いのですが、時間にはお気を付け下さいね〉

 と、突然キュリが警告した。

「ん?別にまだ半分ぐらい残ってるんじゃね?」

〈時間のカウントは途中から早く出来る使用になっていまして、知道さんが早いうちに作り終えていたので、早送りを作動させていました〉

「で、あとどれぐらい残ってるの?」

〈えっと、……あと3秒ぐらいですかね……〉

「え、ちょっ!!!!」

 知道の驚きの顔と共に、周辺の景色が一瞬で真っ黒になった。

 動揺する知道。しかし焦った所で事態が変わるはずもなく……

「おい、何があったの! 何が起こったの? 何が起ころうとしてるの!」

 と、力いっぱい叫ぶ知道。

〈えー、今から異世界の世界へと突入して行くわけですが……、心の準備は出来ていますか?〉

 キュリは無理矢理、業務的に話を進めて行った。

 当然進めて欲しくない知道は叫ぶ。叫ぶ。ただ叫ぶ。

「いや心じゃなくて見た目が出来てないって! いや、ある意味出来すぎてるんだって! あらぬ方向に出来すぎているんだって!」

〈そ、それでは一緒に参りましょうー〉

 キュリは半ばヤケクソ気味に話を進めた。

「キャンセルキャンセルキャンセルキャンセルキャンセルキャンセルトランセルキャンセル!!!」

〈えーと……どうか、世界をお救い下さいね〉

「BBB!! BBBB!!! BBBBB!! BBBBBBBBビービービービー…………」

 もはや他人の言葉を聞く余裕も無い知道。


 そんな知道の魂の叫び虚しく、再びその身は光に満たされていった。

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