スマート王子爽やかに登場
グレイプニルに来てから、初めての夜を迎えようとしていた。
ずっと部屋にこもって片付けをしていたので、アリサ以外誰とも接触していない。
お昼ごはんは、持ってきたお菓子でしのいだ。けれど、夕飯は食べなくちゃいけない。お腹が空いた。
どこで食べればいいのか。
昼間にしおりを見て分かってはいたが、男ばかりの場所で食事をするなどどうしてもしたくなかった。
しおりには『夜九時まで自由解放』とある。ということは、何も全員そろって食べる必要がないのであろう。
誰もいない時間を見計らって行くしかない。
八時五十分、エレベーターに乗って食堂へ向かう。
予想通り、誰もいない。ほっとして、カウンターの方へ行くと、まるでホテルビュッフェのように、温められたお皿に食材が並べられていた。
最後なので、当然残りは少なかったが充分だ。
小分け皿にとりわけ、テーブルにつく。大好きなパスタを口に運びながら、今日起きたことを考えてしまう。
なーんで、こんなところにいるんだろう。
明日から、何すればいいんだろう。
強がってはいたものの、もちろん不安だ。アドレスは消されるし、外に出られるかも分からないし。
ふぅ、とため息をつきながらスープを口に運んでいると。
「新入生?」
唐突に、声をかけられた。しかし、あたりを見回しても人などいない。
拷問で死んだ人の霊?
非科学的なことを考えながら、きょろきょろとあたりを見ると、空中に何かが浮いていた。
「妖精?」
ぽかんと口を開けながら言うと、その小型な何かは黒く煌く体を左右に振った。
「そんなわけないでしょ。空中探査機だよ。試作品だけど」
今度は、パソコンと黒いリモコンを持った男がちゃんと出てきた。
秋風のような、冷たさを感じる整った顔の、少年、いや青年だ。
空中探査機というものは、彼の手におさまる。
「空中探査機……凄い」
「試作品だけどね。まだ長時間飛ばない」
やばい、男と二人っきり。
しかし、こんな所でビクビクしていたら、相手の思うツボだ!
思うツボがなんなのかは自分ではわからないけど!
気合を入れて、その男に向き合う。
「初めまして。私は……シーナと言います。今日入学したの」
「マスターの娘、だよね。よろしく。キミと同い年のコウ。情報分析担当です」
そして、優しく、爽やかに笑う。
ようやくマトモな人に出会えた!
男嫌いとはいえ、アレだけの奇人たちに会っているからか、普通の男だともう何も感じなくなってきた気がする。
まさかの一日目にして、苦手克服とは。
「情報分析、って何するの?」
「ま、主にハッキングとかね、色々」
思いっきり犯罪行為ではないか、と言いたいが、父のやっていることなので何も言えない。
「私は、一体何を勉強するんだろう……」
パソコンの技術もないし、もちろん武術も。ならばなぜ、この学校に入れられたのか。
「さあ。僕らは知らされてないけど、色々助けるから遠慮なく言って」
「ありがとう!」
まだ距離があるけれど彼とならちゃんと話せる気がする。
ほっと胸をなでおろしかけたその時。
コウは椎菜の元に近づき、じっと見つめてきた。
「な、何?」
何かついているのだろうか。
慌てて口元を拭うが、何もついていない。
「結構、あるね」
何を意味しているのかわからずコウをただ見つめていると。
そこで、椎菜は気絶してしまった。




