ほぼガールズトーク
椎菜の父はやって来ないまま、一週間が経過した。
「本当に、ダーク……なんだっけ。あなたのお父様はここに来るの?」
食堂で、アリサが何度目ともなる会話を始めた。
「どうして、来ると思っていたんだ?」
自然と、ミュウもそこにいるようになっていた。
依然緊張は解けないけれど、この三人でいることが心地よかった。
アリサは「中身は男」と言っていたけれど、あれから椎菜に何か言うことはなかった。
本当に中身は男かもしれないけれど、ひょっとしたら椎菜の緊張をほどこうとしてくれていたのかもしれない、とも思っていた。
だとしたら、感謝しなければいけない。
もちろん、アリサが男嫌いの椎菜のためにこんな格好をしているわけではないだろう。最初に言っていた通りなのかもしれない。
……もっとも、最初は適当に声をかけて、すぐに椎菜を女としての対象から外してしまったのかもしれないが。
おかげで、苦痛で仕方なくなるはずの学園生活も、わりと楽しめた。
とはいえ、外部との連絡はできないし、奥歯に毒が入っているし。
気分がいいとは言いがたい。
けど……。
ちらり、とミュウを見る。
すると、言葉を発することが苦手なミュウは、僅かながらの笑みを返してくれる。
その、ちょっとした優しい顔が好きで、ついミュウを見てしまう。
きっと、好きなんだ。
初めての感覚だけど、そう確信できるまでになった。
仲のいい女友達(一応)と、好きな人。
中学時代にはないシチュエーションに、数々のストレスも緩和されていた。
「コウも懲りないねー。ダン共々、今度、ぎっちり拷問してあげようか」
「よろしくお願いします。なんなら、死ぬまでやってもいいよ」
「それはありがたい。やっぱりどの程度までやるべきかが困るからね。でも、なんだかんだ古典的なほうがキクんだよね。口塞いで、悪臭漂う汚物と狭い部屋に閉じ込めるとかね」
「うわー、耐えられない……」
「一応、同じ学園の生徒に酷いことをするなよ」
ミュウが呆れたように忠告する。
「しないわよぉ。たぶんね。これ以上シーナを傷つけたら考えるけど。あんたはどうなの? ミュウは黙ってシーナが弄ばれてもいいっていうの? 監視カメラのハッキングじゃすまないよ」
その物言いに、アリサにはばれてる、と思った。
最初に言っていたけれど、拷問とは相手の思考を読み取り、それに最適な方法を考えると。
素人の椎菜のことなんてお見通しなわけだ。
しかし……ミュウの返答が気になる。
なんて言ってくれるかな。
期待しながら様子を窺う。
「僕は……」
こつこつ、と廊下を歩く足音。それがいくつも増えた。
珍しく騒がしい。
三人が音の方向を見ると、そこには見知らぬ男性がいた。
見覚えがある、と思っていると、アリサが口を開いた。
「ナギ先生じゃない。どうしたの」
歯に毒を仕込んだあの先生か。普通の格好をしているとわからなかった。
「来た」
「え?」
短い言葉に戸惑っていると、今度は慌てた様子のキヨとピーヤンが来た。
「来た!」
「だから誰が」
「来たよー!」
「だから……」
そこで、誰もが口をつぐんだ。
エレベーターの音が聞こえる。
誰かが上がってきた。
「俺聞いてない……」
顔を青くしているキヨと、こわばった表情の先生達。
到着の音とともに、食堂に現れたのは、椎菜の父だった。




