誰ですか
「ケネディ」
ぼそり、とミュウが言った。そのケネディとやらが、どちらをさしているか。
いつまでも大人の上からどかない少年に、大人の方が何語かでまくしたてる。
「え、なんて言っているの?」
「二人とも、たまたま母国語が一緒なの。ピーちゃん……料理を作ってくれる、ピーヤン・ロンド先生と、生徒のケネディ。あなたと同じ年よ」
あれが、ミュウが適当な名前を言っていた先生か。
「ピーちゃんはハーフだけど、ケネディは生粋の人。だからかは知らないけど、あんまりソリがあわないみたいねー」
他人事だからか、のんきなことを言っている。
「ホラ、ケネディ。早くどいてやれ」
ミュウが、小柄なケネディをひょいと持ち上げる。
金色の髪と、真っ白な肌。淡い緑の瞳に戸惑う。
「ミュウがいて助かった。……あれ」
そう言いながら立ち上がると、ピーヤンは椎菜を見た。
「初めまして、だね。よろしく。ピーヤン・ロンドです」
本名かどうかわからないが、そう言って手を差し出してきた。
「ど、どうも」
髪は茶色で、肌もケネディほど白くはない。
「あ、あの。ハーフって聞いたんですけど、日本とのハーフですか?」
「そうだよ。日本語もペラペラだけど、ケネディ相手だとついつい」
料理をしている、と聞いていたので、アリサっぽいキャラを想像していた。
三十代前半の、俳優のような顔立ち。日活ナントカとか。
よく知らないけど。勝新太郎の若いときみたいな、シブい顔。に、洋を足した顔。
だが、実際は「いたって普通の人」だ。
……騙されない。ここに普通なんてものは存在しないのだから。
「名前、変わってますね」
「うん、三秒で考えたし」
「なんで料理も担当しているんですか?」
「料理男子はモテるって」
「……おいくつですか?」
「五十五」
「ごじゅ……」
いくらなんでも嘘だろ、と淡い茶色の瞳を見返すが、真意は読めなかった。
「……いつも、おいしいご飯ありがとうございます……」
これ以上はやめておこう、と握手したままの手を引いた。
そして、もう一人の北欧系男子。
ケネディを見る。
おとなしそうに、猫背のケネディはミュウの側にべったりだ。




