気づけば仕事もう嫌だ
……………………………暇。
神様、私にインターネットを恵んで。
「暇ならこの仕事ね。はい」
やることがなくなったと思ったら、また仕事が増えた。次の仕事内容は……寿命の前に死んだ人の転生先?なんだこれは。
「その名のとおり、転生先を決める仕事。まったく。最近の神様ってたるんでるよね。手違いやらなんやら知らないけど…神ごと抹殺したい気持ちになるよ」
おいぃぃぃいいい!?神様、それ言っちゃだめ!例え思っても、口に出してはいけない!他の神様から報復をくらうよ!!
「僕がそんな弱いと思ってるの?返り討ちにしてあげるよ。だから安心して仕事をするといい」
安心できないぃぃいい!!
「安心しなくていいから、仕事をするといい」
安心したいっ!これ、人間の本能だと思うよ。
「今の君は人間でもなんでもない、ただの騒音発生器だ。いいから、さっさと仕事しろ」
……ちぇっ。……ん?
「神様ーこの世界ってどんなとこー?」
「どうでもいい。テキトーに決めろよ」
うわテキトー。自分だって他の神様のこと言えないじゃん。そういうテキトーさからミスに繋がるのだよ、ワトソン君?
「ワトソンじゃないし。さっさと仕事しろだし」
はーい。テキトーテキトー。世の転生者の皆さんごめんなさい。テキトーに決めさせていただきます。恨むならこいつ(神様)を恨め。
「こいつとか言うなよ。また潰してあげようか?」
神様の手のひらで私は再びジャパニーズ土下座を披露した。つか、なんでこんなでかいんだ。大きさは変幻自在なのか。
「君には関係ないよね?はやく仕事しろよ」
だから、仕事する義理は……はい。わかりました。
神様の手のひらがトラウマになりそうだ。
あれから何時間たったかなー?
つか、転生者多すぎ!周りの風景も変わらないし、お腹も空かないし、体内時計が狂ってきてるぜ。気持ち目がしょぼしょぼする。
飽きたなー。面倒いなー。神様も大変だなー。人の人生に関わる仕事なのに、全然集中できないやー。ごめんよー、転生者たちー。
あー、仕事やんなきゃー……。
終わったー。かなりやってたはずなのに、全然疲れてないやー。気持ち的には、文化祭終わった的な疲労感と達成感を味わっているというのに。
「んー!」
上半身を回して骨を鳴らそうとする。だが鳴らない。そうか、死者は骨ないか。普通に違和感なく動けるのに骨ないとか、不思議だねー。また、やることなくなったなー。でも、もう仕事はしたくないなー。なー。暇だなー。なー。
「君、五月蝿いよ。五月蝿すぎる。そんなに暇なら下界に降りて家族にでも会ってきたら?」
一瞬、耳を疑った。
「……良いのですか?」
「こうも五月蝿くされちゃ、仕事が進まないしね」
「ぅいっしゃぁぁあああ!!」
「五月蝿い」
おっと失礼。乙女にあるまじき叫び声をあげてしまいましたわ、おほほほほ。
でも嬉しいね!妹元気してっかな?弟はサッカー部のレギュラーになれたかな?兄はいい仕事見つけたかな?お母さん、あのドラマはどうなっていますか?私が死んだ時点で、全二十話のうち十三話くらいだったはず。ああっ!思い出したら見たくなってきた!!お父さん!私のパソコン覗いてないよね!?
「じゃあ、さっそく行ってきます!」
「そうだ。当然だけど、自分の正体をばらしたらだめだよ。君はとても曖昧な存在だから、なにが原因で消えるかわかんないんだ。どうしても返事に困ったら、自分の名前はアンジュだとでも言っておきな」
ええー。私そんな曖昧なんだ。下界に降りたことが原因で消えたりしないよね?でも一度死んでるからかな?あまり生への執着はないや。まあいいや、アンジュね。了解ですよ。
「でもどうやって降りるの?」
ここにはなんにも無いよ?下界を見るような物もない、ただ白いだけさ。
「うん。こうやって」
そう言って、神様は私の首を掴み、持ち上げた。
「ガッ…ちょっ……苦し……」
ちょっ待って!!本当に苦しっ!
…あれ?骨ないのに肺はあるの?実は苦しくないけど、脳みそがそう感じるように命令したの?……いや、絶対苦しいって!この苦しみは本物だ!!つか、首締められてんのに、なんでこんな冷静に考えられるんだ!?
「はい、逝ってらっしゃーい」
神様は私を宙へ放り投げた。急に空気が入ってきたことに肺?が驚いく。目尻に涙が溜まる。
「ゴホッ!…おおう……って、は?」
下ろしていた瞼を上げた私は、驚いた。
なんと、宙が裂けたのだ。そこにブラックホールでもあるかのように私の体は吸い込まれていく。
「ちょっ…神様!」
最後に見たのは、誰もが見惚れるだろう笑みを見せた神様だった。
暗転