気づけば目の前美人さん
気がつけば、辺りは真っ白で目の前に金髪美人がいた。中性的な顔と体つきで、一瞬男か女かわからなかった。しかし、よく見ると美人さんには喉仏があった。男だ。
美人さんはそっと微笑み、こう言った。
「君は死んだよ。勿論、間違いでも何でもない。正真正銘、自業自得だ」
……what?
その日はとても平凡だった。
一週間が終わり、連休にむけて体を休めようと妹と共に我が家への帰り道を急いでいた。二人で愛用のママチャリから降りて横断歩道を渡っていたら(勿論、青信号だ)トラックがこちらに向かっているではないか。咄嗟に妹を突き飛ばし、自分も急いで逃げようとするも、二つの自転車に足を取られて気づけばドーンだ。これのどこが自業自得なのだろうか。妹を庇ったのは無意味だとでも言いたいのか。つかこれ誰だ。
「ぐちぐち心の中で呟くのやめてくんない?五月蝿いんだけど。あとこれとか言うのもやめろよ。僕は、てめえなんかがタメきいていいような相手じゃねえんだよ」
そう言ってこr…彼は私を掴み、握りつぶそうと……って、でけえ!?えっ!?何これ、どゆこと!?
「ほらまた、これって言った。君、莫迦だね。莫迦な子に用はないよ」
いや、貴方のことじゃないから!!貴方のことでもあるけど…って、待って!!潰さないで!死んじゃう!死んじゃうって!!…あれ?死んだ後で死んだらどうなるんだろ…って!本当にまt
「……ここは何処だ」
目が覚めたら、また真っ白だった。ただ白いって地味に怖いなあ。なんて周りを見回すと、私を潰したはずの美人さんが何かの作業をしていた。
「……おはようございます。…何やってんすか?」
美人さん以外、特に面白そうな物はなかったため話しかけたが、返事は帰ってこない。……別にいいもんね。ちょっと寂しいとか思ってないもんね。あーあ。暇だなー。つまんないなー。転生イベント起きないのかなー。暇だなー。つまんないなー。なー。
「……五月蝿いんだけど。ちょっと黙ってくんない?」
黙ってますよーだ。
「それが五月蝿いんだけど。そんなに暇なら僕の仕事、手伝いなよ」
「……仕事…ですか?」
仕事…してたんだ。へえー。
「うん。こいつ等の寿命決めて」
「あ、はい。寿命を決めればいいのですね。了解しまし……寿命?」
「うん。はい。よろしく」
彼は何処からか紙を取り出し、私に押し付けた。反射的に受け取った私には目もくれず、再び作業に戻ろうとする彼に慌てて飛びつく。しかし、華麗にスルーされ、地面とキッスすることになった。
「ぃって!!じゅっ、寿命って、どうゆうことですか!?」
駄菓子菓子、これはスルーできない問題だろう!?寿命ってどゆこと!?
「五月蝿いなぁ。僕さ、黙ってって言ったよね?」
「いやいやいや。言ってたけど、言ってたけれども!!寿命決めるって、あんた何者ですか!?つか、寿命って、そんな簡単に決めていいんですか!?」
「一度に訊かないでよ。ウザイよ」
「残念!その程度の悪口には慣れているのです!!…で、あんた何者ですか」
彼は、とても優しい目をして微笑む。ここに絵描きさんがいたら、即座に画材を引っ張り出すだろう。しかし、先ほどの失言の後ではただの胡散臭い笑みにしか見えない。
「訊き方がなってないよ、アンジュ君?」
「私はアンジュじゃないです。
もう一度訊きます。
貴方はいったい何者ですか」
私がそう言うと、彼は不敵に笑った。そして、ゆっくりと口を開き「教えない」と、妖艶に……って、はぁ!?
「え?誰が教えるって言った?」
……ええ、言ってませんね。教えるのおの字も言ってませんね。はい!
「……寿命は、だいたいどれくらいにした方が良いですか?」
うん。彼は神様か天使ってことにしておこう。うん。
「テキトーに決めて。もう話すことは無いよね。集中したいから、静かにしてよね」
テキトーですか。嗚呼、なんて可哀想な子供たち。お姉さんは、ちゃんと考えて決めるからね。
「五月蝿いよ。君話聞いてた?本当に莫迦で使えないね。なんで死ななかったの?」
残念!私はもう、死んでいる。きゃーかっこいー!
「ねえ、黙れって言ってんだけど」
はいごめんなさい。
私は彼の手のひらでジャパニーズ土下座を披露した。
「……あれ?」
新たに生まれてくる子供たちの寿命を一人ひとり時間をかけて考えていると、ふと天(ここか?)から舞い降りてきた一つの疑問。それは、自分の体はどうなっているのだろう、という寿命には全くもって関係ないものだった。
今、近くに鏡がないため、顔まではわからないが、手や足は人間のもので、胸は…まな板だ。何故だ。生前はそれなりにあったはず…!
「ねえねえ、神様?私今どんな感じ?」
ほら、胸とか。顔とか。私ちゃんと女に見える?
「うざい感じ。あと、まな板」
……へいへい。おとなしく仕事に戻るとしますよ。
さて、この子の寿命はどうしよっかなー。
「……てゆーかさ、神様の仕事を手伝うって、本来天使の仕事じゃないの?」
寿命決めも残り僅かになったころ、再び舞い降りる新たな疑問。
寿命?途中からは神様の言うとおりテキトーに決めたよ。数多すぎるんだもん。
で、そう。神様の仕事を手伝うのは天使の仕事で、私はさっさと転生イベントで転生すべきだと思うの。私が神様を手伝う義理はないしね。
「天使?何それ。まあなんでもいいけど。
転生ならさっきしてあげたじゃない。そうしなかったのは君だろ」
なんでもいいっておい。知らぬは一生のなんとやらだぞ。
「は?いったい、何時、何処でそんなイベントがあったのですか」
私が神様にされたことって、潰されて、悪口言われて、仕事手伝わされただけだと思うんだけど。
「それ」
「は?」
「だから、潰してあげたじゃない」
「まさかのアレが転生イベントですか!?」
「五月蝿い。黙れよ」
はいはい……まさかのねー。潰されるとか、最悪のイベントじゃない。まったく。乙女心がわかってないんだから。
「つるぺたのくせに乙女心とか言うなよ。つるぺたのくせに」
「二度言うな!二度!」
「なら、君も僕に何度も言わせないで。さっきから黙れって言ってるよね?」
………サーセン。