新しい生活-3
「で、お前は何ができるんだ?」
唐突に切り出され、言葉を失ってしまう。
食事をしている手も止まってしまった。
誰かが狩ってきたのだろうか?ラビやホーン等の肉と、ライと呼ばれる植物の種子を煮込んだ物を差し出され、「こんな物しか無いが、好きなだけ食え」と言われたのは四半刻程前。
ここ数ヶ月とは比べられない程良い物を出され、戸惑っていたのも数瞬、鳴った腹の音に顔を赤くし、貪り様に食べていた結果、鍋の中はほぼからになっていた。
カイトの食べ様を面白そうに見やり、自身も負けじとかっくらっていたその男…ガゼットといったか…は、落ち着いた所を見計らい、そう切り出してきた。
彼としては別段おかしな問いではなかっただろう。むしろ、当たり前の疑問でもある。
と、言っても、彼の所に連れてこられたからには、やる事はそうあるわけでもなく、その中の何をさせるかを考える為に聞いた迄だ。
だが、世間一般ではとてもおかしな事でもあった。
奴隷と言えば、言われた事に絶対服従、アレをしろ…と言われれば、有無を言わさずやらされる。当人ができる、できないは関係無く。
この人は、あまり奴隷を扱った事が無いのだろうか?
まだ奴隷になって数ヶ月しかたっていないカイトでさえ知っていることを知らないのだろうか?
「言われた事ならなんでも…」
とりあえずそう答えると、ガゼットは少し困った様な顔をした。
「ん~あ~…お前は、ここで何をやるか聞いたか?」
黙って首を横にふるカイトを見て、嘆息するガゼット。「あのぼっちゃん…軽い説明くらいしとけよ…」と、一人愚痴ると、改めてカイトを見やった。
「よし、ならここでの仕事の説明から始めるか。俺はここで、森から出て来るモンスターの退治、それと肉類の食料の調達をしている。お前がここに来たのは、その補佐と言った所だろう。まぁ、今迄俺一人でどうにでもなっていたから、人出が必要って訳でもないんだがな」
「モンスター…が、出るんですか?」
その言葉に、内心ヒヤリとさせられる。
モンスター…人を襲う怪異
と、言っても、全部が全部、人を襲う訳でも無い。
先程食べていたラビやホーン、以前村で狩っていたボア等、草を食べて生きる比較的穏やかな物も多い。
人語を解する物もいる位だ。むしろそちらのほうが多い。
だが、問題は、その少数派、人を襲うモノたちのほうだ。
人を襲う。それが出来る程の力を持つ怪異たち。それらを総じて“モンスター”と、人は呼んでいた。
つまり、この森には“人を襲うモンスターが出る”という事。
その事を理解し、緊張するカイトを見て、何故かニヤリと笑うガゼット
「成る程、確かに頭は働く様だ。だが、心配しなくていい。もう滅多な事じゃこの森からモンスターが出て来る事はない。基本は2日か3日おきに森に入って、獲物を狩ってくる。後は、裏手の畑の世話やら…後は、薪割り位か」
それを聞いて安心した。そうでないならば、四六時中モンスターの襲来に気をつけていなければいけない。休む間もなく警戒し続けるのは、死ねと言われるも同義だ。
いくら、奴隷になったからといって、簡単には死にたくない。
「だから…お前が何ができるか聞いたんだ。あしでまといは連れて行きたくないからな」
ほっとしていたカイトにそう告げるガゼット。若干ニヤニヤとした意地悪な笑みを浮かべている様な…
「弓と、ダガーを少し。でも、いいんですか?刃物持たせたりしちゃまずいんじゃ?」
ちょっとムッとしたカイトが少し投げやりに答えると、なおも面白そうに笑うガゼット。
「お前位のガキが刃物持った所で、何も怖くはない。素手でも叩きのめせる」
さらにムッとしたカイトに、さらに追い討ちをかけるように
「それに、お前の右手の“ソレ”がある限り、ここから出たとしても、何も変わらんぞ」
…そう、奴隷になった事でつけられた、この右手の“奴隷の証”は、一生涯奴隷である事を刻む物。
本来首筋等に多くつけられるそれは、主人に解放の証である、別な刺青を彫られる迄、奴隷である事を示される。
もしここを自力で出た所で、別な人間にそれを見られ、捕まれば、また容赦なく奴隷である事を強いられる、魔の鎖。
その事を思い出せさせられ、俯くカイトに、少し言いすぎたとちょっと申し訳なさげなかおそをしたガゼットだったが、気を取り直したようにまた説明を続けた。
「まぁ、そうゆうこった。ダガーは生憎持ち合わせがないから、代わりにショートソードを使え。俺の予備を貸してやる。弓もな。矢は自分で作れ。それから、これから薪割りはお前の仕事な」
狩りは今日はやって来たから、薪割りと、獲物をいくらか干し肉ようにしておいてくれ。
そう言い残し、後は任せたとごろ寝をはじめたガゼットに、ほんとに大丈夫なんだろうか、この人は?と、どうにも釈然としない気持ちで、仕事を始める為に表に出るカイトだった。
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それから、矢のように月日が過ぎて行った。
ガゼットの行ったとおり、モンスターが出る事はなく、数日置きに入る狩りでも、苦労する事もなく獲物を獲っていった。
元々狩りをしていた事もあり、ガゼットの力量もあってか、必要がない程獲ってしまった事もある。そんな時は全て干し肉にするか、街に使用人が売りに行っていたようだが。
畑の方も特に手がかかる事は無く、とった野菜も自分達が食べるだけの物なので、特に気負いなどもなかった。苦労したのは薪割り位だろうか。
だがそれも、2年を過ぎた今は、全く苦も無く出来るようになり、毎日の様にやっていたせいか、体つきも一回り…いや、2回り程も大きくなっていた。
もう子供と言われる事もないだろう。
時折暇を見ては稽古をつけてくれたガゼットのおかげで、ショートソードの使い方も少しはマシになっていた。
そこらの野盗数人位なら、苦もなく圧倒出来る程に。
弓の方もだいぶ腕が上がり、空を飛ぶ鳥も射落とせる様になっていた。
これは、もともと不器用だったのだろうか?ガゼットよりも腕が上がり、彼を苦笑いさせていた。「俺は必要ないんじゃないか?」という冗談とともに、毎度の如くサボろうとする言い訳に使う様になっていたが…。
しかし、新たな日常になっていたそれらは、とある一人の人物によって、粉々に打ち砕かれる事となる。
とある、一人の“お姫様”によって…
まだまだ書く文章量がわからず、部の長さが短くなってますが、徐々に量をあげていけたらな…などと思っています。