新しい生活-2
小屋の掃除も一段落し、思わず溜息が出た所で、帰って来ない小屋の主に業を煮やしたのか、あの使用人が声をかけて来た。
「君、名前は?」
「カイト…といいます」
それまで特に会話らしい会話をしていなかった為、虚を突かれたカイトは、少し緊張しながら返事をした。
「ふむ…私の名前はフィリップだ。この屋敷で、使用人として働いている。奴隷の管理も私が受け持っていた。君が来る迄はいなかったがな」
冗談を交え、ニヤリと笑いながらそう言った使用人…フィリップを見て、緊張しているのがわかったのか、気分をほぐそうとしてくれたのか、おかげでカイトはすこし気が楽になった。
「君は運がいい。この屋敷の主、アベル様は、とてもお優しい方だ。他の所と違い、君にも人としての生活はさせてくれるだろう」
優しく微笑みながらそう言われ、ほっと胸をなでおろしたのも束の間「だが…」と続けた彼の目に射竦められ、思わず息を呑む。
「だからと言って、怠けたりなどしたら、当然罰はある。いくら優しくとも、甘やかしはしないだろう。覚えておく様に」
身体に緊張を走らせ、かすれた声で返事をするのと同時、小屋の扉が開き、一人の男が入って来た。
「おうフィリップ!相変わらず真面目にやってそうだなぁ!で?なんでうちでこんなガキをいじめてやがんだ?」
そう言って入って来た男は、簡素なレザーアーマーを着込み、腰にショートソード、背中に弓を背負った、どう見ても冒険者か狩人にしか見えなかった。
なんでこんな所に?などと思っていると、
「今日、旦那様が買われた奴隷を連れて来たんですよ。ここに連れて来る様にと言われたので。」
「ほー…見た目はひょろっちそうだが、使えるのか?」
「さぁ…少なくともバカではなさそうですが…使えるかどうかはあなた次第でしょう」
それではこれで…と、小屋を出ていったフィリップを送り出したあと、冒険者のような人がこちらを振り向いた。
「とりあえず…メシだ!腹が減っちゃなんにもできやしねぇ、お前も腹が減ってるだろう?こっちにこい!」
引きずられるように連れていかれたカイトは、少しだけ、明日からの生活が不安になっていた。