新しい生活-1
「ついて来なさい」
そう言われ連れて来られた場所は、広大な敷地の端にある、大きな森の側に建っていた小屋だった。
意外にも綺麗な見た目の小屋に連れて来られ、何をするのかと戸惑っていたカイトに「入りなさい」と促され、自身もその小屋に入ろうと…扉を開けた、おそらくこの屋敷の使用人らしき人物は、中を見て、眉間に皺を寄せた。
何故動きを止めたか気になったカイトは、そっと脇から中を覗き込む…と…
…き……きたない……
思わず「…うっ…」とうめき声をだす程に、小屋の中は酷く…で済むのだろうか…散らかっていた。
足元には元が何かもわからぬ、辛うじて食べかけの食料か?と見られる“ナニカ”や、新しく何かを作っているのか?よく分からない部品などの欠片や塊、着古された衣服などが積み上がり、文字通り“脚の踏み場も”なかった。
他にも、何故ここにあるのか分からぬ鍬やら木の棒などが立ち並び、「倉庫か?」とも思いたくなる小屋で、いったい何をするのだろうと、チラリと件の使用人の様子を伺うと、眉間に深く…本当に深く皺を寄せ…
「片付けます。手伝いなさい。」
抑えきれぬ怒気を孕んだその声に、カイトは只、頷くしかなかった。
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何をどうすればいいのかわからないカイトに、「アレはこっちに」「それはあっちに」等と支持を飛ばし、部屋を片付け続けていた使用人“フィリップ”は、やっと片付いてきた小屋内部を眺め、はぁ…と溜息をついた。
ここに住む男は、いつ訪ねてもこんな風に部屋を散らかし、その度に自分が掃除をしていた。俺は掃除夫では無いのに…などと考えつつ、今日からこの屋敷に住む事になる奴隷…カイトといったか…を、横目でチラリと伺った。
主に呼び出され応接間に赴けば、例の“奴隷商人”が持って来た奴隷を買ったと言われ、ここに連れて来て渡すように命じられた。
別段奴隷を買う程困っている事があるわけでもなし、唐突に買う事になった奴隷を、どうせあの薄汚い商人にあれこれ言われ買わされたのだろう、そのどうにも平凡な少年を見て、ほんの少しだけ憐憫の表情を向け…しかしそれが仕事なのだと言い聞かせ、あれこれと支持を出す。
実際、使えない少年では無いようだ。
言った事には素直に返事をし、どうやら文字も少しは読めるらしい…先程本の整理をしていた…まぁ、教え込めば使えるのだろう。しかし、この小屋の主に果たしてそこ迄の期待ができるだろうか…と考え、フィリップはまた少し頭が痛くなった。