何処とも知れぬ地で
その日、何度目かの街に着いた日、
売られる為にと近くの川で身体を洗わされ、
連れていかれたのは、それまでにはあまり見た事がない、大きな屋敷だった。
何人もの人間が働き、忙しく行き交うそこは、明らかに裕福な、そう、領主の住むような、そんな雰囲気のある場所だった。
お前からはなにも喋るなと言われ…すでに反抗する気もない…連れていかれた場所には、その屋敷の主であるらしき、風格のある男が待っていた。
「ディルケン、久しぶりだな。お前から訪ねてくる事があるとは」
「今回は、面白い商品があったからな」
若干嫌そうに…奴隷商人が直接来たからだろう…そういった男に、悪びれもなくそう言ったディルケンはカイトに目を向けた。
「確かに見た目はそう悪くは無いようだが、別段力がありそうでもなし、特徴もなさそうだが?」
そう言った男にディルケンは笑ながら、
「俺もパッと見は確かにそう感じるがな、これでなかなか、役に立つようだ。こいつを拾ったのはだいぶ東の農村の近くなんだがな、どうやらその農村を襲った盗賊を、結構な人数、弓とダガーで倒したらしい」
「…ほう…?」
値踏みするようにカイトを見るが、鼻で笑うと、
「そんな腕があるようには見えんがな…お前、名前は?」
「…カイト…」
「カイト…お前は、何が得意だ?」
と、問いかけて来た。
少し考えたカイトは、
「弓を少し…狩りができます…」
「ふむ…それだけか。で?この小僧をいくらで買えと?」
ディルケンはニヤリと笑うと言った。
「1エルム」
「バカな。たかが子供、それも狩りしかできない子供に1エルムとは…」
「しかし、それだけの価値はあると俺は見た。長年の、勘だ」
「………」
それを聞いてじっとこちらを見て来る男。
なおも訝しげに見てくる男に、
「今は確かに弓しか使えないかも知れないだろうが、教え込めば使い物になるかも知れんぞ?」
「しかし、1エルムはボリすぎだ。50レルム」
「80」
「…いいだろう。80レルム。ただし、使えなければ二度と貴様の所からは買わんからな」
そう告げた男にディルケンはニヤリと笑うと手を差し出した。
こうしてカイトの未来は、また別の人間の手に握られる事となった。
1エルム=10万
1レルム=1000円
80レルム=8万円
他の奴隷の平均が30レルム、力のある奴隷や普通の女が50、見た目のいい女が80、特に良いものが1~1.5エルム
そう考えると、ディルケンはだいぶ足元見てますね、はい。