ギルドランク
翌日、カイトはクルトと一緒に街道近くの森へと来ていた。
結局トリスはあの後戻って来ず、今日の朝も早々に一人宿を出て訓練をするようだった。
宿主にそう聞いたカイトは、昨日受けた依頼をクリアするべく、単身森へと赴いた。
トリスにだけ教えていた事をひどく気にしていたリースもついて来たがったが、今日は大事な工程があるとの事でしぶしぶ……本当にしぶしぶルルカとニーナと共に宿に残った。
……出るときに背中に突き刺さる視線がとても痛かった。
ぺしっぺしっ
不思議な感触にはっと我にかえり、足下を見ると、不思議そうな顔をしたクルトが見上げてきていた。
朝の事を考えていて、何時の間にか足も止まっていたらしい。
「ごめんごめん。大丈夫だから、先に進もう」
ほんとに大丈夫?
といったように首を傾げるクルトの頭を一撫でし、せめて何かお土産でも持って帰ろうと心に決めるカイトだった。
+*+*+*+*+*+*+*+*+
依頼のゴブリン討伐を果たし、街に帰ってきたカイトとクルトは、そのまま報告にとギルドへ来ていた。
「こんにちわ、カイトさん」
カウンターに近づくと、セニアがにっこりと微笑みかけてきた。
「クエスト報告ですね?それではギルドカードの提出をお願いします」
言われるがままにカードを差し出すと、彼女はそれを隣にあった石板の上に置いた。
ピッとあまり聞かない音がしたと思ったら、何か光が石板から走り……。
「おや?依頼より討伐数の方が多いようですが……」
「え、あ、あぁ、丁度小さな巣を見つけたもので、依頼ついでに……」
「なるほど。小さいとはいえ、単身でゴブリンの巣を潰してしまうなんて、さすがですね。これなら安心して伝えられます」
にっこりと微笑みながら、セニアは引き出しから何かを取り出し、そっと差し出してきた。
「ランクアップおめでとうございます」
差し出されたメダルを見ると、凝った意匠で狼の姿が描かれていた。
「これからカイトさんのランクはウルクとなります。比較的難しいクエストも多くなってきますから、受ける時は注意してくださいね」
「あの……たしかウルクって今までのランクより」
「ええ、2ランク上のものとなります。と、いいますか、昨日受けられたこのゴブリン討伐も、1ランク上のものだったんですよ?」
「えっ!?」
「今までの実績から、ランクアップ試験も兼ねての受注とさせていただいたんですが、討伐数自体はウルクの依頼と同じ数こなしてもらえたので、もう一度受けてもらう手間がはぶけてしまいました」
えへっと笑う彼女だが、カイトとしては驚きに空いた口が塞がらない。
「で、でも、上に報告するって……」
「ええ、ちゃんとしましたよ?そしたら、向こうでは既に別口から報告がきていたようで、ランクアップの方は決定になっていたようなんですよ。
で、どの位あげるかで、1つか2つかで意見が割れていたようでしたが、クエストの達成状況で決める事になったようなんですよ」
ほんとうならもう一つクエスト受けてもらうところだったんですが、手間が省けちゃいました……と、ホクホク顔でいってのける。
報告の速さやどこから報告が来たのか等、わからない事だらけで戸惑うカイトに、ランクアップによる諸注意を説明していくセニア。
「あ、そうそう。改めて自己紹介しておきましょうか。
セニア=ルリアリア。
当ギルドのギルドマスター兼受け付けをしています」
今までの優しげな微笑みの裏に、得体のしれない深みを見た気がした。