表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

帝国

今回はサクッと短く。

暗く、冥く、昏い場所。


壁にかかる照明があるにも関わらず、その部屋の奥には尚暗い闇が横たわっていた。


その暗闇の手前。


辛うじて輪郭が見える場所で、初老の男が跪き、報告を続けていた。


「……の工作が完了。徴兵部隊は人数をさらに増やしながら、国境に近いクルクスの街に集結中です」


元の明るい茶色がほぼ消えた白髪の逞しい体をしたその男は、依然戦士としての体を有するであろう逞しい体を小刻みに震わせながら、己の主へと報告を続けた。


「最終的に、予定日より少し早く準備は完了するかと思われます」


その結論に満足したのか、暗闇の奥がゆらりと揺れた。


「……ご苦労。下がって休め」


たった一言。


その一言がつぶやかれた瞬間、男の体は言いようのない怖気に襲われ、体をぶるりと震わせた。


「……は……ハッ!」


その身に宿る氷の様な冷たさに震え、それを意思の力でなんとか抑え込んだ男は、ゆっくりとその体を主から遠ざける。


そしてその体を手の届かぬ程後ろに下げると、ようやく踵を返し、足早にその場を去っていった。





配下が消え、シンとした静けさがあたりを支配する中、玉座の男は耐えかねたかの様に笑みを漏らす。



「く……くっくっく……ようやく……ようやくだ……。


これで準備が整った。



後は攻めるのみ……。



さすれば我が悲願……ようやく……」




もしもその場に配下の……いや、この男以外の人間がいれば、間違いなく気を失っていただろう。


それ程迄に濃密な負の気配を部屋中に撒き散らしながら、男は密かに嗤い続けた。




もう少しで、この世界を壊せると。







***********









「ゴルト帝国……ね」


「お?カイトはゴルト帝国の事知ってんのか?」


珍しく御者台に登っていたトリスが、カイトの呟きを耳ざとく聞き付け声をかけてきた。


兵士達と別れた翌日、女同士で話があると言われ追い出されたのだ。


渋々上がったトリスだが、御者台では流石に鎧を磨く事はないようで、ピカピカに光った鎧をつけながら大人しく座っていた。



だが、やはり暇な物は暇なようで、何かにつけ話しかけてきていた。



「あぁ、いや、名前だけ……ね。アベル様のお屋敷でたまに聞いた事がある位」


アベルは皇国の重鎮でもある。


結果他国の事情にも精通し、その内容が時たま風に乗って聞こえてくるのだ。


だが、それでも『小耳に挟む』程度の物でしかないが。


「あーそっか。ずっと屋敷にいたんだもんな。


……ゴルト帝国はな、5年位前に帝王が変わって以来、着々と力を付けては他国を侵略している武力国家さ。



……俺たちの村を焼いたのも、帝国の奴らだったらしい」


あの後街に辿り着いて衛兵に説明した時に教えて貰ったというそれは、カイトにとっては始めて聞く情報で……。



そうか、帝国が俺たちの村を……。



優しく暖かだったあの村を壊し、果てに生まれ育ったフルト国を亡国へと変えた元凶。



再開した後に聞いて初めて知った生まれ故郷の喪失。

その元凶の名前を知り、体に力がこもる。


「この2~3年で大きく領土を広げ、今もまだその手を伸ばしてるらしい。


もしかしたらこの国も……」


言わなかった言葉の先は、言われずともわかる。

出来ればそんな事にならなければいい。

その楽観視も、現実の前には無力で。



「帝王ってのがまた随分とヤバい奴らしい。


帝国の猛将すらも恐れさせる、邪悪な王って話だ」


それ以上の話は全く漏れてこないと言う。


帝国からくる行商人も皆一様に口はかたく、なかなか口を開かぬそうだ。


『猛将も恐れる』と言う事を漏らした商人でさえ、その後二度と姿を見る事はなかったと言うから、余計にその噂に拍車をかける結果となっているようだが。


「他国からの商人は一切受け入れず、旅人は国家に所属して出ていく事ができなくなる。


おかげで今は帝国からくる商人だけが、やっとこ話の通じる数少ない人間って話だな」


余りにも情報の少ない国家は、それだけで畏怖の対象となる。


今現在、密偵を中に潜り込ませているのはかなり力のある所だけに限られているとか。


「まぁこれも全部、ギルドにいる人達に教わったんだけどな」


そう言って少し照れたように笑ったトリス。



ちょうどその時背後の幌が開き、中からリースが顔を出してきた。


「ねえ兄さん。今日はどこかの街に泊まりましょうよ」



この事を中で話していたのだろうか?



確かに野宿が多ければなかなか風呂にも入れない。



年頃の女の子にはきつかったかなと思ったカイトは「了解」と答えると、脳内の地図を開き、近場に街はあったかなと行き先の検討をし始めた。



そのおかげか、背後のリースがまるで『戦場に向かう』かのように覚悟を決め、威圧感をはなっている事に気がつく事はなかった。



もっとも、隣のトリスは気がついたようで、ビクッと体を震わせ、御者台の端へと一瞬で後ずさった訳だが。



そして一行はここから一番近い街、リリアルトへと向かう事になった。



女性陣の決意と気迫とともに。

とりあえず書きたい物を書きたいように。


そう考えた結果、この竜騎士と同時進行でもう一作書く事にしました。


といってもそちらの更新はかなりスローペースになるかと思われますが。


竜騎士のペースを落とさない程度にちょろちょろと書いていくつもりなので、よかったらそちらでも感想などいただけると感謝感激。


内容は、VRMMOものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ