過酷な現実-2
曰く
お前は街道沿いに倒れていた
それを拾い
手当をして
看病をしてやった
あのままならば確実に死んでいただろう
その命を救ってやったのだから、それをどうしようが俺の勝手だ
そのあまりの暴論に異議を唱えようとすると、抑えていた大人から殴られた。
お前はもう奴隷なのだと。
その身体に奴隷の証も刻んであると。
そう言って改めて見せられたのは、己の右手。
その甲には見慣れぬ刺青が刻んであった。
自分が気を失っている間に、自分が人である事を辞めさせられていた。
反論しようとすると殴られた。
奴隷が勝手に口を開くな…と。
そして聞かされた。
今いるのは、俺の慣れ親しんだ場所ではなく、そこから10ラギオ(200km)も離れた、大陸の中央部にさしかかる場所だと。
これから俺達は、山を越え、100ラギオ(2000km)先にある大陸中央部の国、ウィラスの首都、オフィリスへ向かうのだと。
まさか自分が4日も気を失っていると思ってもいなかったカイトは、その日、もう、今迄の日常には帰れぬのだと、そう理解した。
そして、あての無い、未来の無い、旅が始まった。
傷が治る迄は馬車に乗って。
傷が治ってからは、外で歩かされた。
お前より高く売れる女を馬車に載せるのだと言われて。
たまに村や街に着くと、
奴隷の中の何人かが連れていかれたり、
人数が増えたりもした。
口減らしの為や、身寄りの無い子供が売られて来たんだそうだ。
逆に、買われていった者もいた。
俺の看病をしてくれていた女の子も売られていった。
地方の領主の慰み者になるんだ…と、誰かが言っていた。
そうやって売られていくものは多かった。
男でも、その手の類で売られていく事も何度かあったようだ。
大抵は、力仕事をする為に売られていったようだが…
そうやって、周囲の人間が入れ替わっていくうちに、希望や、そもそもの思考能力すら奪われていったような気がする。
延々と歩かされ、
少し仲良くなった人間も売られていき、
たまに野宿をする事になった日などは、
奴隷の中から何人かの女の子が連れていかれ、相手をさせられていた時もあった。
見た目がいいモノは手を出さずに高値で売るが、そうで無いモノはどうせ娼館に売られる。それなら俺たちが教え込んでやる…そう下卑た笑い声を聞いた事もあった。
最初の頃は、
妹や、トリス、ベルク等、村の人達の事を考える事もあった。
同じ奴隷の事を庇ったりする事もあった。
しかし、時が経つに連れ、何度も同じ事が起こるに連れ、感情が麻痺していったのだろうか、なにも思う事がなくなっていった。
ただひたすら、自分はどこにつくのだろうと
自分を買う人間はどこにいるのかと
いつ、この歩くだけの日々が終わるのだろうと
そう考えるだけになっていった