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閑話-それぞれの想い

だいぶ遅くなりまして申し訳ない。。。


風邪と仕事のダブルパンチでノックアウト寸前でした。。。


皆様も体調にはお気をつけください。。。

青く澄んだ空。


時折ゆったりと風にゆられて流れて行く雲。


気持ち良さそうになく小鳥の声。



いつもと同じ風景、いつもと同じ場所。



いつもであればゆったりとした時間の中、寛ぎながら目覚めのお茶を飲んでいる人間がいたはずのその場所は、今日だけはいつもと違う空気に包まれていた。



ベッドやソファーに所狭しと並べられた衣服の数々。


少し派手な見た目の物から清楚な物まで、様々な物が並べられている。


その並べられた服を前に、一人考え込む少女。



「あれ……よりきっとこっちのほうが……でももしかしたらこっちのほうが……でも……ううん……」



今から戦に出るという騎士さながらの真剣な面持ちで、一人悩みながらあれやこれやと手に取り吟味するその少女。



「ねぇ……何か言ってあげたほうがいいんじゃない?」

「一応今回並べている服はどれを着ていってもおかしくない物を選んでいるわ。

お嬢様が納得して選ばれた物を着て行くのが一番よ」



数日前、お嬢様が賊に攫われたのを助けたカイト様。


二度も命を救われたからと、改めてお館様が感謝とお礼の品を下さろうとしたがらしい。


しかしそれを丁重にお断りしてしまったらしいあの人は、その場にいたルルカからも「お礼がしたい!」と詰め寄られたらしく、その後加勢に入った奥様と三人がかりで説得された彼は、渋々お礼を受け取る事になったらしい。


更にそのどさくさに紛れてお館様からのお礼とは別に“お嬢様からの個人的なお礼”をもらう事になってしまったらしく、今日はその“お礼”を買う為に二人で出かけるとの事だった。



その全ての経緯を大いに喜ぶお嬢様と、してやったりという様な顔をした奥様から聞いた私達はその当日、こうして彼女が着る服を決める場に、こうして付き合っている。



正直に言えば今ここにあるどの服も、今日街を歩くだろう人達のどの服よりも高価で、かつ高い技術で作られた物なのだが、「そんな物は基準にならない」とばかりに全てを並べ、考え込んだお嬢様。


これが始まってだいぶ経つが、未だに決まりそうにないのは流石に……まずいのではなかろうか。



隣の少女は恐らくそういう意味で声をかけてきたんだろう。


確かに、もうそろそろ出かける準備を始めないと、そもそもの見て回る時間がなくなってしまう。


だが、以前に思い人との初めて一緒に出かけた時の事を覚えていた私は、静かにお嬢様が服を選ぶのを待っていた。



高価だから、素晴らしい物だから。


そんな理由ではなく、「自分がいいと思って選んだ物を、大事な人に見せて気に入ってもらえる」事の喜び。


他の何者にも変えられないそれを彼女が得る為には、できるだけ自分で選び、納得した物を着て行くのが一番なのだ。


理屈ではない。



だから私は待った。



彼女が服を選ぶのを。




……空腹に鳴くお腹に耐えながら。




*+*+*+*+*+*+*+*+*





「ごめんなさいね、カイトさん」


しかしその言葉とは裏腹に、申し訳ないという表情は微塵もなく、むしろ楽しんでいるように見える。


年齢を聞いた事はないが、それでも16歳の娘を持つ様には全く見えない、優しさがにじみ出る美しい顔を持ったその人は、恐らく……いや、確実にこの屋敷で一番手強い……戦ってはいけない人だという事を、先日身に染みて理解した。





ルルカとニーナを救い出した翌日の朝食後、執務室へ呼ばれて『お礼の品』について話された時。


自分は確かにそれを断った。


……最初は。


トルネも納得した……はずだった。



しかし、この人にとっては“そちらの方”がついでだったらしい。


納得し、引き下がったトルネに変わって出てきた彼女はこう言った。


「それでは、命を助けられたルルカが納得しないでしょう。


最初の時はよくわからないままだったかもしれないけれど、今回は間違いなく、『自分と友達を目の前で救ってくれた』のだから。


しかも、お友達の方は身体を汚される寸前だったという話でしょう?


その子の為にも、何かしらの『お礼』は受け取っておくべきですよ」



それが、男の甲斐という物。



そう断言され、「夫からでは受け取り辛い物でも、娘からならそうでもないでしょう? 娘自身に選ばせてあげれば、そこまで高価な物は渡されないでしょうし」


とまで続けられると、断る方が悪い気がしてくる。



流されるままに「じゃぁ、ルルカからという事であれば……」と返事をすると、獲物を捉えた獣の様に満足気に微笑んだ……ような気がした。



しかもその後、何故か再度やる気を出したトルネが「娘が出すのに私が出さないのはおかしい」と言い出した。


2度目はアリシャも口を出し、正論と自論に世間体などを巧みに組み合わせた話しを続けられ、最終的にそれはカイトに「うん」と言わせるまで続けられた。


結局『両方から受け取る』という、何故か最初に断った時よりも悪化してしまうという事態に陥ったカイト。


……部屋を辞した後、アリシャに「これを狙っていたのか」と聞くと、「夫の方はついでです」と朗らかに返された時は、今後この人には逆らうまいと、心底思った。






「けれど、あの子もずいぶん迷っているみたいね。


こういう事は初めてだから、なかなか決められないのかしら」



アリシャが少し呆れたようにルルカの部屋がある方を見上げながら呟いた。


「待つのも男の度量の内とは思うけれど、待たせ過ぎるのは淑女の嗜みから外れてしまうわ。


……時間もなくなってしまうし、呼んできましょうか。


少しお待ちになっていてね」



そう言って2階へと続く階段へと歩き出した。




その後ルルカを伴いアリシャが現れるまで一人、カイトは玄関前でぽつんと待ち続けた。






*+*+*+*+*+*+*+*+*






「今度はあっちに行ってみませんか?」


広場から少し外れた所に出ている露店を指差し、隣にいる“彼”を誘う。



“彼”は優しく微笑みながら頷くと、私と一緒に歩き出す。



『あぁ……幸せ……』



以前から、“彼”がこの街から去ってしまう前に、一度でいいから一緒に街を歩きたいと思っていた。


その為にニーナに協力を仰ぎ、どうやって約束を取り付けようかなどと相談もしたけれど、あの日の出来事があったおかげ?で、こうやって苦労する事なく一緒に過ごせている。


『神様……ありがとうございます』


同じく攫われ汚されかけたニーナからすれば堪ったものではないかもしれないが、それはそれ、これはこれ。


実際に大きな被害が出なかったのならば、得をした分喜べばいい。


誰に似たのかきっちりと損得をわきまえた彼女は、『母親』という、ある意味神のような人間がついているとは思いもよらず、チリンと鳴った鈴の音に合わせて軽やかに歩を進めた。





『は……(はか)られた……?』



微妙に冷や汗をかきつつ、少し前を進むルルカを見る。


『特別』に『母親』から今回の資金……と言う名のお小遣いを貰ったルルカは、意気揚々と広場にある色々な店を巡りながら、カイトへの『お礼』を買おうと頑張っていた。



いったいいくら貰ったのか、武具屋に入っては「あれなんかどうですか」と言いながら壁にかかった高そうな剣を指差したり、「これには魔法が込められてるらしいですよ!」と言いつつこれまた高そうな短剣を持って来たり。



剣はこれがあるから、魔力があっても使い方がわからないから。


そう言ってなんとか断りつつ、何か一つは貰っておかなければ後が怖いと思い、新しい外套を買って貰ったりはしたのだが、その後も勢いは衰えぬまま、数軒をはしごして今に至る。



まぁ……喜んでくれているのならそれでいいんだけど。



涼やかな薄青の上衣を纏い、レースを上品に配した膝下迄のスカートを軽やかに舞わせながら歩く彼女は、その顔いっぱいに浮かぶ幸せそうな笑顔もあいまって、町行く若い男達を次々に振り向かせている。


……そしてその男達は決まって自分を見ると、ため息と共に殺意の篭った視線を向けてくるのだが。



その視線をなんとかやり過ごしつつ店に入れば、今度は決まってそこの主人が、ニヤニヤとこちらを見てくる。



元々この街で名のしれた家の娘、しかもなかなか家からでなかった人間がこうして男を連れて楽しそうに街を巡っていれば、嫌でもそれがどう言う事かわかってしまうのだろう。


通りがかる商店などでは、「もってきな」と果物まで渡される始末。



……この数日後にこの街を出て行く事をこの人達が知ったらと思うと……ゾッとする。



この街で自分の悪い噂が立つのは間違いないだろう。



そもそも女の子に物を買わせている事自体があまりよく見られないんじゃないか?



元々特に物欲もなく、結局はアベル様の屋敷に戻って使用人になるのだから、そんな高価な物も必要がない。


だから大抵は断っていたのだが……。



基本的に思考が後ろ向きになっている事に気がついていないカイトは、その後もルルカの言うがまま、ひたすら街をめぐるのだった。





*+*+*+*+*+*+*+*+*





「表の掃除が終わったら、買い物に行って来てくれるかい?」


掃き掃除をしていたニーナは、かけられた声に一旦手を止め振り返った。


「欲しい物はこれに書いてあるから」


受け取った紙には細かく内容が書かれている。

野菜や果物など、今日の夕食だろうか?

色々な物が書いてあった。


「これがお金。んじゃ、頼んだよ」


宿に入って行く女将さんの背中を見ながら、どの順で店に向かえばいいか考えてみる。


野菜が先がいいのか、それとも他の物がいいのか。


重い物は後にしたいし、ぐるぐると歩き回りたくもない。



……あぁ……そういえば、確か今日はルルカがカイトさんと出かけるって言ってたな。



きっとこの街中のどこかを、二人で歩いてるんだろう。



……その姿を想像すると、胸の奥がズキリと痛んだ。



最近はいつもこうだ。



“あの日”から、日に何度も彼の顔を思い出してしまう。



そしてその度に、同じ様に胸の奥が痛むのだ。


時に苦しく、時に切なく。


自分の胸を蝕むこれが、いっそ病気だったらいいのにと、本気で考えてしまう。



……いけない。


考えない様にと思っているのに、きっかけがあるとすぐにそう考えてしまう。


早く掃除を終わらせて買い物に行こう。



私は必死に気分を変えようと、箒を握る手に力を込めて、宿の玄関を掃き続けた。






*+*+*+*+*+*+*+*+*






「次はどこに行きましょうか」


楽しそうにそう言ったルルカの言葉にビクンと体を震わせる。


……ま……まだ行くのか……?



既に10軒近く周り、そのほぼ全てで細々した物を買っていたのだが、どううやら今回貰った“資金”はなかなか無くならないようだ。


外套に道具袋、剣の手入れ道具等、結構な数を買って貰った筈なのだが……。


『何か一つと言っておいた方がよかったか……』



自分の迂闊さにを呪いつつ、なんとかやり過ごせないかと考えてみる。


「……かがっすかー。甘くて美味しいハチミツ付きだよー」


不意に聞こえて来た声の方を向いて見ると、広場の端に見慣れぬ屋台が。


今まで見た事がなかった物の存在に興味を惹かれ、ルルカに声をかけて近づいてみると、どうやらお菓子?というかおやつの屋台のようだった。


「おう兄さん。可愛いお嬢ちゃん連れてるねぇ。羨ましい限りだ」

「これ……は、なんですか?」


かたそうなパンを何かに浸し、焼いているように見える。


「これかい?これはな、堅焼きパンをカウの(ミルク)に浸して柔らかくして、もう一度焼いたものさ。


最後にハチミツをかければ甘くて美味しいおやつの出来上がりさね」


今まで聞いた事も無かったそれは、甘く優しげな香りをはなっている。


「美味しそうですね~」


同じ意見なのか、美味しそうなソレを見入っているルルカ。


「違う違う。美味し“そう”じゃない、“美味しい”んだよ。


どうだいお一つ?」


「じゃぁ、自分とこの子に一つづつ」


そう言って財布から銅貨を何枚か取り出した。


「えっ!い、いいですよ。自分の分は自分で……」

「いいからいいから。たまには僕にも出させてくれよ」


貰ったソレーー屋台にはフレントと書いてある。それが名前だろうか?ーーを受け取ると、代価として銅貨を渡す。


「毎度あり!おつりは……と」

「おつりはいいよ。できたばかりなんだろう?頑張って」

「お、兄さん太っ腹だねぇ!気に入ってくれたら今後も贔屓(ひいき)にしておくれよ!」


ありがとやしたー!っという大きく響く声を背に、広場の椅子に並んで座り、二人で口に含んでみる。


「美味しい!」


一口頬張れば、温めたミルクの風味が香り、ついでハチミツの優しい甘さが口いっぱいに広がる。


柔らかくなったパンに十分染み込んだソレは、意外とボリュームがあったものの、その美味しさにペロリと全て平らげてしまった。



これは人気が出るかもしないな。



子供にも大人にも受けが良さそうなソレは、今はまだあまり知名度も良くないかもしれないが、きっとすぐに人気が出てくるだろう。


隣で幸せそうに頬張っているルルカの笑顔が、それを示しているような気がした。






*+*+*+*+*+*+*+*+*




『おいしいー!』


口いっぱいに広がる甘さをかみしめながら、カイトに買ってもらったおやつを頬張る。


ついさっきお昼を食べたばかりだというのに、すんなりとお腹に入っていってしまった。


あまり食べ過ぎると太ってしまうかも……とは考えてしまうが、おいしいものはおいしいし、食べてしまったものは仕方ないのだ。


また今度運動すれば大丈夫よね……と自分に言い聞かせながら、最後のかけらを飲み込む。



一息ついた私は、少しだけ喉の渇きを覚え、確か近くにリラの実のジュースを売っている店があった事を思い出した。


以前ニーナと遊んだ時に見つけた店で、微かな酸味と甘味が合わさった、さっぱりとしていてとても美味しいジュースを出しているお店だ。


店主が自分で作ったという事で、その店でしか味わえないそれは、木製等のカップさえ持って行けば持ち帰りも可能。


更にそのカップさえお店で売っているという用意の良さで、同じ年頃の女の子達にとても人気があるようだった。


「カイトさん……近くに美味しい飲み物を売っている所があるんですが……」


そう切り出すと、皆まで言わずに頷いてくれるカイトさん。


えへへ……と笑いながら、私は彼をお店へと案内した。








そのお店には、店の外からでも買えるようにカウンターができていて、今日もそこで何人かの人が飲み物を買っていた。


同じように一人分を持ち帰れるお店は殆どなく、ちょっと喉が乾いた時等に皆買いにくるようだ。


私はその列に並びながら、ふと通りの向こうを見知った人影が通った気がして顔を上げた。



……あ……あの後ろ姿は……。




「ニーナ?」







*+*+*+*+*+*+*+*+*





掃除が終わった私は、買い物をしに街へ出た。


細々したものは自分で持ち帰り、大きなものやかさばるものは宿へ配達を頼む。


いつものようにこなしながらも、頭は微妙に上の空。



考える事といえばやっぱり……。




今頃どこで何をしているんだろう。



きっと楽しんでるんだろうな。



そう考えては、ちょっとだけ気分が落ちてしまう。



あー、いけないいけない。



いつから私はこんな子になっちゃったのかなぁ。



家から出た時に、強くなるって決めたのに。


兄さんにも、姉さんにも迷惑かけないようにって。



ダメだなー……なんて事を考えながら歩いていると、いつかルルカと来たお店の前にいた。



手軽に持ち帰りができる飲み物を売っているそこは、今日もそれなりに賑わっているようだ。


これから暑くなるし、きっとどんどん人も増えていくだろう。



そんな事を考えていると、その中に見知った人影が……。



できれば、今は会いたくなかった人“達”。



見つからないように即座に回れ右をして、こっそりとその場を離れようと……したかった。



でも、二人並んで楽しそうに話している所を見てしまうと、逃げ出したくなる様な、向かっていきたくなる様な、不思議な気持ちになって……気がつけばかなり近づくまで、私はその場から動けなかった。



ハッと気がついて即座に回れ右。



急いでその場から離れようと……





「ニーナ?」





したのに、かけられたその声で、足が止まってしまう。


その人に、名前を呼ばれた。


それだけで高鳴ってしまう鼓動。



私は、必死に冷静を装いながら、振り返った。






*+*+*+*+*+*+*+*+*





私が声をかける前にその姿を見つけ、反射的に声をかけたらしいカイトさん。



その声に気がついたのか、ニーナが振り返ってこちらを見た。



「あ、あれ?ルルカにカイトさん!


どうしたの?こんな所で二人して」


「ルルカ……とトルネさんに、この間のお礼がしたいからと言われて、一緒に街を回っていたんだ。トルネさんは一緒じゃないんだけどね」


「へ、へー!そうなんですか!じゃあ、私の分のお礼も一緒にしておいてもらわないと」



……あれ?



確かこの間お礼をする話は伝えておいた筈なんだけど……。



話を合わせてるだけかな?とか思っている間も、話はどんどん進んで行く。



「……そうそう。なんだか色々買って貰って申し訳なくて……」


「いやいや、カイトさんはそれだけの事をしてくれたんですから、そこは素直に受け取っておいてくださいよ」


……やっぱり気のせいだったのかな?


ニーナも楽しそうに話してるし。


「……そうですよ!私の恩人でもあるわけですし。……私からお礼として渡せる様なたいそうな物は持ってないですけど、その代わりにルルカからいっぱい貰っておいてください!」



そう言って笑いながら話しているニーナの頬は若干赤らんでいて……あれ?



……赤らんで?



ついついじっと見てしまった私の視線に気がついたのか、こっちを見たニーナと視線が合って……瞬間、ニーナがすぐにに視線をそらした。


「あ、あ、私、宿の買い物があるんだった。お邪魔ですし、私はこれでいきますね。それじゃ!」




途中で口を挟む暇もなく走って行ったニーナの背を見ながら、私は……私は、もしかして……と、想像をして……




ーーすぐにその想像を打ち消した。









ーーバレた?



背中にどっと冷や汗が出てくる。



特に、怒っていたわけでも、睨まれていたわけでもない。



ただ、一瞬視線が合っただけ。



ただ、それだけだったのに。



私は、その一瞬の重さに耐えきれず、視線をそらしてーー逃げた。



バレたのかな?



バレたら……どうなっちゃうのかな?




自分の唯一の親友。



自分の心の中に居る一人の人。



できればどちらも失いたくない。



そう思っている欲張りな自分が、少し嫌いになった。







*+*+*+*+*+*+*+*+*








「どうだったね?」


夕食が終わった後、トルネに呼ばれた俺は、トルネの私室へと足を運んでいた。


涼やかな風が吹き込むテラスの側で、椅子に座り向き合っている。



「なんだか……とてもいっぱい買って貰ったような感じで……」


「ふむ……ルルカの話では、まだ全然資金に余裕があったという話だったが……」


その言葉に冷や汗が出る。


「まぁ、その話はいいとして……少し確認しておきたかった事があるのだが」


真剣な表情と声音に、ふっと居住まいを正してしまう。


「……なんでしょうか?」


「……あの日の事だ。


確か君は、『鈴の音』と、『ぼんやりとした光』に導かれて、小屋に辿り着いたといったな?」



そう、確かにあの日、鈴の音が鳴った方向に振り向くと、光が在って、それに導かれるままあの小屋に辿り着いた。



再度、その時の事を振り返りながら詳しく話すカイト。


結局あの時は光の正体も何もわからずじまいだった。


光も、気配があるのかないのかわからないような、ぼんやりとした存在だった気がする。



それを全て伝えると、トルネは軽く頭を抱え込んだ。


「……そうか……そう……か。



それ以前に、同じ事を経験した事は無いのだね?」


「はい。今回が、初めてです」


「そうか、わかった。ありがとう」


そう言うと、トルネはブツブツと呟きながら、書斎に続く扉をくぐって行った。


まさか、あの子が……とか、そんな声が聞こえた気がした。

これで閑話は終了となります。


次からは第3章。

ほのぼの恋愛ステージです。


竜騎士の中で一番ほんわかした所になる予定なので、そちら方面がお好きな方は期待……はあまりしない方向でお待ちください(汗

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