閑話-星空の下
今回は微グロと若干のR18的な表現が出てきます。
苦手な人は飛ばしてください。
「あーーーっ! 楽しかった! 」
丸一日ルルカと二人で街中を巡ったニーナは、満足気に言うと、大きく伸びをした。
流石にこれだけ色々な場所に行くと、途中で何度か休憩を挟んだとしてもかなりの疲労感がある。
しかし、これだけ心地よい疲労感はそうは味わえない。
全身に巡る充実感に思いをめぐらせたニーナは、少しだけ寂しさを覚えた。
『もう暫らくしたら、私も兄さんたちと一緒にこの街から出ていかなきゃいけなくなる。
そしたら、ルルカとも暫らく……ううん、もしかしたら、もう会う事はないかもしれない』
きっと、いつかはここを尋ねて来れるかもしれない。
でも、明日の事なんて誰にもわからない。
……それは、村が焼かれたあの日に、いやってほど思い知らされた。
どうしても後ろ向きになってしまう思考を振り払おうと、懸命にいろんなことを考える。
でも、思い浮かぶのは、大切な友達との別れの事ばかり。
『前向きになろうって、元気出して、思いっきり生きようって決めたのに、肝心なところじゃいつもこうだよね』
情けない自分を笑いながら、なんとか違うほうに考えられるように思いをめぐらす。
きっと大丈夫。
なんとかなる。
だから、今は、一緒にいられることを喜ぼう。
お日様もほとんど沈みかけ、夕暮れの赤と空の濃紺が交じり合った、なんとも言いがたい複雑な色。
濃い青紫のような空の下、ルルカは家路についていた。
隣には、今日一日一緒にすごした大切な友達の姿。
一日中家族以外の人間と過ごすことも、この時間まで外に出ていることも、他にも色々と体験したことがないことばかりしている今日。
体はとても疲れているけれど、とても楽しくて、まだまだ遊び足りない。
『もっと、ずっと、今が続けばいいのに』
ニーナとずっと一緒にいられたらいいのに。
まだまだやりたい事はいっぱいある。
季節のお祭りにも一緒に行きたい。
何かあったら二人で相談したりして、そのまま年をとるまでずっと……。
でも、それはきっと無理な話なんだろうな。
幼馴染や、大きくなってから仲良くなった人でも、それからずっと一緒にいられる人間の数は多くない。
ニーナ達のように、村を襲われたり、戦争で焼け出されたり、新しい街や村の開拓に出たりと、生まれ育った所でずっと暮らし続ける事ができる人間はとても稀だった。
私の家はそれなりに裕福だから、少しの事じゃどこかに行く事は無いだろうけど、戦場が近くなったりすれば、他の街に移る事もあるだろう。
そうやって離れてしまえば、その後にどこで何をしているか調べるのはとても大変な事だった。
でもそれは今も同じ事。
きっと今回別れてしまえば、そうやって会えなくなる可能性の方が高くなってくるだろう。
寂しいけど、仕方のない事なのかな。
諦めるようにその言葉を反芻すると、ルルカはちょっとだけため息をついてしまった。
「よかったら夕食を食べにこない?」
と、夕食に誘われたニーナだったが、この間のように兄や姉がいない時に“あそこ”にいってしまうと、とても緊張してしまいそうなので丁重にお断りさせて貰い、代わりに帰り道の途中だからと家まで送らせてもらう事にした。
と言っても、守るどうのと言う話ではなく、単に話を続けたいだけだったんだけれども。
そんなこんなでルルカの家の近くまで歩いてきてたのだが、気がつけば辺りは真っ暗になっていて、通りの家の窓から漏れる灯りでてらされた所以外は全て、真っ暗な闇に覆われていた。
『なんか……ヤな雰囲気……』
微かに背中に走る悪寒に体を震わせ、「ちょっと急ごうか」とルルカを促し、通りを早足で通り過ぎる。
暗くなっている場所を抜け、ほっと一安心したのも束の間、背後の暗闇からスッ……っと抜け出した影が二つ。
その影は音も無く二人に忍び寄ると、いきなり二人に襲いかかった。
片手に湿らせた布を持ち、それを口と鼻に当てると、もう片方で暴れないように体を拘束する。
『えっ!? なに!?』
突然の事に混乱し、うまく体を動かせない。
旅をしている間に、魔物の気配などを感じる事はできるようになっていても、体の方は鍛えられていなかった為に、どうしてもその拘束から逃れる事が出来ない。
さらに湿った布に鼻と口を覆われている為に呼吸もままならず、徐々に意識が混濁していく。
薄れゆく意識の中、なんとか隣のルルカの方に目を向けると、同じように拘束されている。
必死に暴れて抵抗するも、背後の男はそれを苦にする事も無く拘束し続けている。
やがて徐々に力の抜け始めたルルカの目が、同じように私の方を見つめてきた。
『ごめんなさい……』
守ってあげられなくて。
そんな気持ちを込めてルルカを見つめると、彼女も同じ事を考えてる気がした。
そこで限界が訪れ、意識を暗闇の中へと手放した……。
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……あれからどれ位経ったんだろう。
そこら中が痛む体を動かし、辺りを見回す。
窓が無いのか、その建物の中は薄暗く、隣の部屋から漏れてくる明かりで辛うじてどこになにがあるかわかる位。
体を縛られて転がされているようで、まだ乱暴などはされてはいないようだ。
どうやら背後にはルルカもいるらしく、時折くぐもった声が聞こえてくる。
私と同じように布をかまされているのだろう。
……と、扉越しに声が聞こえる。
「……から、……りあえず、二人を……」
聞き取れないのがもどかしく、少しでも聞こえるようにと扉へと必死に扉へと近づく。
「お嬢様の方は大事な金蔓だ。あまり手荒に扱うなよ」
「じゃぁ、もう一人の方は 」
「適当に楽しんだら奴隷として売り払え。身体は貧相だが、顔はまぁまぁいい方だ。それなりに売れるだろう」
「へっへっへ……久しぶりの女だな……」
「無理して壊すんじゃねぇぞ。中身も壊れちまってたら、適当な娼館に売るしかなくなっちまうからな」
そこまで聞いた所で、身体の震えが止まらなくなる。
今回の目的がどういった物にせよ、きっと私は犯されて、売られてしまうだろう。
私はお嬢様と呼ばれるような人間では無い。
これから襲いくるであろう恐怖に体を震わせ、必死に心を落ち着ける。
「屋敷の方には既に取引条件を書いた紙を投げ込んである。
お前は明日の早朝にはガキを連れてここを引き払え。
落ち合う所はいつもの所でな」
「わかりやした。んじゃ、それまでは楽しませて貰う事にしますかね」
「俺は少し出てくる。あまり無茶はするなよ」
そのすぐ後、扉の開く音がして、一人出ていったようだ。
嫌だ……嫌だ……。
顔も知らない相手に襲われて好きにされた挙句に奴隷として売られるなんて、そんなの考えるだけでも吐き気がする。
でも、きっと私はこれから……。
「……っし、時間もあまりなねぇみたいだしな。早速楽しませてもらうか」
聞こえたその言葉に体をビクンと震わせる。
誰か……誰か助けて……!
兄さん……姉さん…………カイトさん……!
恐らく今、一番頼りになる人間の顔を思い出し、涙を噛み殺しながら、ニーナは心の中で必死に助けを求め続けた。
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トリス達を鍛えた後、いつものように屋敷へ戻ると、なにやら中の様子がおかしい。
屋敷の雰囲気自体が張り詰めているというか、ピリピリとした空気を感じる。
……何かあったのか?
嫌な予感を抱き、カイトは屋敷の主人の部屋へと足を運んだ。
「ただいま戻りました」
そう声をかけつつ部屋へと入ると、明らかに憔悴した顔のトルネとその妻の姿があった。
「……お……おお、カイト君!実は……実はな、娘が……ルルカが攫われてしまったようでな……」
必死に動揺を押し殺し、それでも声の震えを隠しきれないトルネ。
「……今日は、確かニーナと遊びにいくと聞いていたんですが……」
「あぁ。私達も確かにそう聞いていた。
それで、帰りを待っていたんだが……日が沈みきっても帰ってこなくて心配していたんだ。
そしたら、屋敷へとこれが……」
差し出されたそれには、
【娘は預かった。
返して欲しくば、金5000枚を積んだ荷馬車を連れ、明朝に街の外れの巨木の前に来い。
遅れれば、娘の命の保証は無い】
「金……5000ですか……」
「あぁ……金自体は、なんとかできるかもしれん。
今は、商業ギルドへと使いを出している。
事情を話し、私の抱えている商品の在庫などをギルドに買ってもらえれば、なんとか揃う事はできるだろう」
「……ニーナ……は、一緒なんでしょうか」
これにはルルカの事しか書いておらず、一緒にいたはずのニーナについては一切触れられていない。
別れた後ならまだいいが、たしかリースが「ニーナがまだ帰ってきてない」と怒っていた。
あの後帰って来たのならばいいが……。
「……出てきます」
「どこへ……?」
「こういった物が届いた以上、ルルカの身柄は取引の時間までは保証されているのでしょう。
……ですが、ニーナの事についてなにも書かれていない以上、そちらの保証は……ない」
まずは、リース達の宿へ行き、ニーナの所在を確かめた後、攫った物達を探す。
取引の時間までに見つからなければ……取引場所の近くに身を隠しておく。
「……そうか、わかった」
カイトは身を翻すと、屋敷出て、リースのいる宿へとひた走った。
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「ん……うう……んん!?」
薄暗い闇の中、目を覚ました私は、見慣れない……と言うか、初めての状況に戸惑い、辺りを見回そうとして、身体が縛られている事に気がついた。
しかも口には何かが詰め込まれていて、うまくしゃべる事も出来ない。
それを吐き出そうにも、口に詰め込まれたそれの上にさらに布が被せられて後頭部で縛られており、どうやってもしゃべる事はできそうにない。
混乱する頭を必死に落ち着け、辺りを見回す。
なんとか寝返りを打つ位はできそうで、薄暗い部屋の中を見回すと、扉の前にもう一人、同じ様な格好で頃がされている人影があった。
誰だろう……ニーナ……なのかな?
あの時同じように羽交い締めされていた彼女。
自分がここにいるなら、きっと目の前の人影は彼女なんだろう。
気がついてもらおうと必死に「う~~! う~~~!!」と唸ると、どうやら気がついてくれたのか、顔をこちらへ向けようと体をよじらせる。
しかし、それと同時にそのそばにあった扉が開かれ、いきなり眩しい光が飛び込んでくる。
思わず目を閉じた私は、「なんだ、もう気がついてたのか」と言う言葉に身を震わせる。
その聞き慣れない男の声には、明らかに嗜虐の色を滲ませていて、身体が勝手に震え始める。
「ふん、両方起きてたのか。まぁいい、今用があるのはこっちのガキだけだ。お嬢様の方は、まだ別な用事があるからな」
そう言って、目の前の……恐らくニーナの服を強引に掴むと、グイっと引っ張りあげた。
「ん~!」と、苦しそうな声を上げるニーナ。
「へっへ……これから先どう生きるのかはしらねぇが、俺が教えといてやるよ。男の受け入れ方ってやつをな」
声に滲む加虐の喜びに背筋を震わせる。
実際にそれがどういう事を示すのかはわからないが、少なくとも碌でもない事であるのは間違いない。
ニーナが出すうめき声にも涙の色が混じっている。
「流石に俺も、ここでこのままヤる程鬼じゃねぇ。
こっちのベッドの上でたっぷり可愛がってやるよ」
そう言って、抱えたニーナを隣の部屋へと連れて行く。
「んーー!んうーーーー!!」
必死に叫ぶも、詰め物をされた口では大きな声も出ない。抱えられたニーナの、涙でゆがんだ顔が扉の向こうへ消えて行くのを、私はただ見送るしかなかった。
再び暗闇に包まれた室内で、私は必死に助けを求めた。
初めてのできた友達を、こんな形で失いたく無い。
誰か……誰か助けて……!
誰か……そう思い浮かべると、必ず出てくる頼りになるあの人の顔。
きっと、あの人ならなんとかしてくれる。
お願い……カイトさん……ニーナを……ニーナを助けて……!
何時の間にか溢れ出した涙で顔を歪ませながら、必死に願い続ける。
カイトさん……お願い……神様……!
その時、どこか意識の片隅で、鈴が鳴ったような気がした。
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『チリン……』
宿へ着き、そこにいたトリスにニーナがまだ帰ってきていない事を聞いたカイトは、トルネの屋敷で聞いた話を伝えた。
部屋にいたリースを呼び、トリスと3人で手分けして探すことにすると、カイトは宿を飛び出した。
街の中心部ではないだろう。
そこだとどうしても人目に付く。
街の外れか、入り組んだ路地裏辺りか。
まずは近くにあった路地へと飛び込もうとしたカイトだったが、唐突に頭の片隅で鳴り響いた鈴の音に足を止めた。
幻聴にしては余りにもハッキリと聞こえたそれを訝しみ、周囲を見渡すカイト。
だが、周りに鈴の音がでる物などありはしない。
やはり幻聴だったのか?
再び走り出そうとしたカイト。
しかし、また鳴り響いた鈴の音に今度こそハッキリと足を止め、その鈴が鳴った方へと顔を向ける。
暗い、暗い路地の向こう。そこに、ぼんやりと光る影の様なものが在った。
“ソレ”は、まるでカイトを導くかの様に路地の向こうへとスーッと進み始める。
罠かもしれない。だが、他に手がかりがない今は、それに乗るしかない。
一瞬躊躇したカイトだったが覚悟を決めると、その光の後を追って路地の奥へと駆け出した。
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ーードサッ!
乱暴にベッドへと放り投げられた身体は、その硬いベッドの上で弾み、横につけられていた壁へと強かに体を打ち付けられる。
「うぅっ!」
思わず声を漏らしてしまう。
情けなく涙を流し、震えた声で哭いたその声に興奮したのか、私を投げた男はぐっと体を近づけると、私に臭い息を吐きかけてきた。
「クック……残念だったな。あのお嬢様が一人でいれば、おめぇもこんな目に会わずに済んだんだろうが。
まぁ、運がなかったのか、それとも、付き合う人間を間違えたのか、そういう事だと思って諦めな」
そう言うと男は、懐から鈍く光る刃物を取り出した。
思わず後ずさる私を押さえつけ、着ていた服へ手を伸ばすと、その服を刃物で切り裂いていく。
「ンーーーー!ンンーーーー!!」
「うるせぇ!静かにしろ!!」
怒鳴られた声の強さに怯み、思わず身体がビクンッと震える。
竦んだ身体に手を延ばし、上半身の服を無理矢理引き千切ると、服からこぼれた胸の膨らみに手を這わせる。
「へへっ……以外とあるじゃねぇか」
這わされる手の感触が、まるで身体に涌く蛆の様に思え、気持ち悪さで身体が震える。
「ふぅ~~……うぅ~~」
情けなく出てくる鳴き声に興奮したのか、さらに荒々しくなる手の動き。
そして、その手が私の下半身へと延ばされ、履いていた下着に触れた。
脱がそうとする手の動きに必死に抵抗し、身体をよじらせる。
「ああ"!もう邪魔だ!大人しくしろ!!」
パァンッと張られた頬が焼ける様に熱くなる。
殴られた。
某然と意識が抜け、身体の力が抜けた瞬間、
男はそばにおいていたナイフを手に取り、下着へと刃先を伸ばして、その一端をジャギッっと切り離した。
『ーーバンッ!!』
その瞬間、大きな音を上げて開かれた扉から人影が飛び出し、私にのしかかっていた男へと飛びかった。
その人影は男へと飛びかかると、大きく振りかぶった拳を顔面に叩き込み、仰け反った身体へと再度拳を叩き込んだ。
「グホッ」
その衝撃を堪えられず後方へと倒れこんだ男の体を掴むと、ベッドから引き摺り下ろし、床へと強かに叩きつける。
「無事か!ニーナ!?」
床へ組み伏せた男へとのしかかり、動きを封じたその人は、私を真っ直ぐに見つめて声をかけてきた。
某然とその流れを目で追っていた私は、その声で我に返ると、その人ーーカイトさんの姿で、助かった事を知り、そのまま、大きな声を上げて泣き始めてしまった……。
側に転がっていた縄で男を縛り上げたカイトは、男から体を離すと、ニーナの元へと歩み寄った。
赤く腫れた頬と、無残に切り裂かれた衣服。
その姿に過去の、奴隷だった頃に見た幾つかの光景が重なって見える。
あの時は、何もできなかった。
ただ、連れていかれる女の人を見送り、唇を噛んで耐えるしかなかった。
しかし、今回は、今回だけは、なんとか間に合った。
その、過去に出来なかった事を成し遂げたある種の達成感と、大事な友の妹を救えた安堵感に身を浸しながら、ニーナを縛っていた轡と縄を取り払う。
その途端、安堵し、泣いていたニーナは、身体が自由になると、すがりつく物を見つけたかの様に、カイトへと身を預けてきた。
自分の胸の中で泣きじゃくる彼女に一瞬慌てるも、カイトは優しく彼女を抱きしめ、頭を撫でながら、「もう大丈夫」と、何度も何度も語りかけた。
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暫くカイトの身体へ身を任せ、泣きじゃくっていたニーナは、落ち着いてくると自分の身体が何もまとっていない事に気がついた。
下半身にまとわりついていた衣服の切れ端も、縛られていた縄がなくなった事で下へと落ちている。
顔を赤くするニーナだったが、カイトが側にあった毛布をそっとかけてくれると、「ありがとうございます」と返し、その毛布を身体へと巻きつけた。
『あぁ……やさしいんだな……』
恥ずかしさに顔を赤く染めつつ、そんな事を考えてしまう。
これは、ルルカが好きになってしまうのも仕方が無いかも。
「あの、よく、ここがわかりましたね」
あのぎりぎりの状態で、攫われてそんなに時間も経っていないはずだったのに。
「間に合ってよかったよ。トルネさんの屋敷に帰ったら、ルルカが攫われたって聞いて……一緒にいたはずのニーナがまだ宿に戻っていなかったから、もしかしてと思って、探していたんだ」
そこまで言われて、私は反対の部屋に囚われている友達の事を思い出した。
「あっ!そうだ、ルルカ!彼女もここにいるんです!」
その部屋に行こうとするカイトさんへとついてルルカの元へと向かう。
まだ、一人になるのは怖い。
扉を開け、ルルカの元へ行くと、最初扉が開く音に体を竦ませた彼女は、次いでかけられたカイトさんの声に驚き、私と同じ様に泣き始めた。
……あぁ、わかる。安心しちゃうんだよね。
私が無事だった事もあって、大きな声で泣き始めた彼女の拘束をカイトが解くと、またも私と同じように、カイトさんへとすがりつき、泣きじゃくる。
しかし、その姿を見た瞬間、私の胸の奥が『ズキン』と痛んだ気がした。
それに一瞬驚きながら、その胸の痛みを訝しんでいると、不意に背後の扉から人の声が聞こえてきた。
「……つまり、今回の仕事はその攫ったお嬢様と、引き渡した後のあんた達の護衛……と」
「あぁそうだ。今回は目当ての女だけじゃなくてもう一人捕まえてある。そいつの方は好きにしていい」
「ひょー!さっすが旦那、わかってらっしゃる。今回は色々と楽しめそうだぜ」
その、複数人の声と足音に驚いた私は、気がつかずに足元にあった棒切れを蹴飛ばしてしまう。
ーーカランッカラン……。
「お?もう楽しんでんのかね?泣き声も聞こえるし。こっちの部屋ですかい?」
「……あぁ、確かに、縛って放り込んでいたのはそっちの部屋だが……」
楽しそうに話す声と、若干の訝しみを覚えている声が聞こえ、部屋に繋がる扉へと人影が近づいてきた。
カイトさんはそれに気がつくと、私へルルカを預け、腰に下げていた剣の柄へと手を延ばす。
ここに至って状況を理解したのか泣き止んだルルカと一緒に、身を竦ませて成り行きを見守る。
逃げようにも逃げ道はなく、空いては何人いるかもわからない。
もしもカイトさんが負ければ……。
不吉な考えが頭をよぎると同時に、扉から人影が姿を現した。
ーーダンッ
それと同時、強く床を蹴ったカイトさんが扉へと駆け寄り、そこに現れた人影へ問答無用で斬りかかった。
不意を突かれたその人は、斜めしたから切り上げられた剣で胸を深く切り裂かれ、
「えっ?」と言う声と共に崩れ落ちかける。
その身体を背後にいた男に蹴り上げると、カイトさんは向こうの部屋へと飛び出した。
扉の向こう、狭い室内から、戦いの音が聞こえる。
剣を弾く音に、人の呻き声。
その恐怖に身を竦め、震わせていたが、しばらくすると音が聞こえなくなり、やがて扉からカイトさんが姿を現した。
「もう大丈夫」と言う彼の衣服には、所々返り血が飛び、赤く染めている。
そっと延ばされた手に反射的に身を逸らしてしまう。
しまった!と思った時にはもう遅く、彼は驚き、次いで悲しそうに「ごめん」と苦笑していた。
『助けてくれたのに、私はなんて事を……」
慌てて謝ろうとすると、となりにいたルルカが、下ろしかけた彼の手を取り、両手で包み込んだ。
「また、助けられちゃいましたね」
そう言って、彼の手を胸元へ引き寄せる。
抱きしめるように抱えたその手を優しく握る彼女の姿にまたもズキリと痛む胸の奥。
その後、この建物の扉から駆け込んできた兄達の手によって、無力化されていた人攫い達が運び出されると、私達はそれぞれの家へと戻った。
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「カイトさんって、本当に強かったんだね」
その日、どうしても一人になるのが怖くて、姉と同じベッドで寝る事になった私は、ベッドの中で姉と語り合っていた。
「あぁ、そうか、ニーナは兄さんが戦うところは見た事がなかったものね。
……あの強さは反則よ」
ちょっとだけ苦々しそうにそう呟いた姉の声には、憧れと嫉妬が見え隠れしている気がする。
「あっという間に何人もいた人達を斬り伏せちゃったんだもの。
最初は、ダメかも……とか思っていたのに」
どんなに強い人でも、複数の敵が相手だと勝つ事が難しくなる事は良く知っていた。
それを、あっさりと倒してしまったカイトさんは、相手よりも遥かに強い力を持っていたんだろうと思う。
「まぁ、それだけ努力してきたんだろうけどね。
じゃないと……私やトリスはなんだったのって話になるし」
軽く不貞腐れたような声に軽く笑みをこぼしつつ、改めてカイトさんの事を考える。
すごく強くて、優しくて……でも、ちょっとだけ傷つきやすい、そんな人。
あの、延ばされた手を取れなかった時の顔を思い出しながら、そんな事を考える。
トクン……と高鳴る鼓動。
少し苦しいけど、なんとなく心地よいそれを感じながら、ニーナはそっと目を伏せた。
えー、はい。
閑話らしくない閑話のお話でした。
これはちょっと書いておかなきゃいけなかったんですが、他に挟める時が見当たらなかったので、あえて閑話として載せる事になりました。
まぁちょっとね、内容的にアレな部分もあったと思うんですが、その分その後の所などは楽しんでいただけると思います。
この次で2章の閑話が終わり、3章が始まる事になります。
なんとかかんとか仕事も落ち着いてきたので、頑張って更新して行こう……と覚悟をきめとります。
ただ、更新ペースは保証できかねますので、その点ご理解ください。。。
……カイト君は何本フラグ立てる事になるんですかねぇ(白目