兄弟水いら……ず?
予想以上に前話のリースの一撃が好評だったようです。
「いい雰囲気だな……」
「そうね。心配する必要は無かったのかも」
テントの中でそっと隙間から二人を伺う影。
「だが、最初は本当に驚いたよ。助けてくれた凄腕の彼がリースの兄だったなんてな」
「ええ、本当に。あの動きは、相当な熟練者で無ければできないわ。……狙って眼を穿つなんて」
その瞬間を思いだしつつ身震いする女性。
「あぁ。それなりに大きさはあったが、動き回っている対象の一部分に命中させるなんて芸当は、なかなかできない」
弓が本職ではないとはいえ、何かしらの手段でそれが実行できていたら、あそこまで苦戦する事もなかったかもしれない。
それも含めて、彼はかなり凄腕の冒険者だったと言う事だ。
「でも、それにしては名前を聞かなかったわね。あれだけ腕があれば、それなりに名は売れる筈なのに」
「あぁ、そういえばリサは罠を調べていてあまり話を聞いていなかったんだっけな。……彼は、少し前まで奴隷だったそうだ」
その事実に驚くリサ。
「奴隷なのにあの腕……って事は、そうなる前は何してたってのよ?」
「リースの村で狩りをしていたんだと」
……っは、冗談じゃないわ。
散々訓練をしても、彼ほどの腕を身につけられる人間はそうはいない。
村の狩人が奴隷になって、開放されたら凄腕の冒険者になっていたとか、どんだけよ。
己が今迄してきた鍛錬を全てバカにされた様な気がして、リサは唇を歪ませた。
「だが、彼はそれだけの努力をしている様だ。毎日朝晩千回づつの素振りを2年続けているようだし、森で様々な動物を弓で狩っているそうだ」
今度は千回という回数に度肝を抜かれるリサ。
御伽噺の中でなら、それ以上に剣を振る人間は山ほどいるが、実際に2年間朝晩千回づつ剣を振れる人間はそうはいない。
実際自分では500も振れば腕が上がらなくなるだろう。
「それだけ、努力してきたんだろう。リースやトリスも、あの年ではなかなか見ない程の腕を持ってる。
……それだけ、過酷な日々を続けてきたんだろう」
「そう……ね。村を盗賊に焼かれて、それでも生き延びてこうやって再開出来るくらいだものね」
それとなく視線を焚き火の方に向けたサラは、そこにもう一人の人物が加わっている事に気がついた。
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「よう」
顔を上げると、そこにはトリスの姿があった。
何も言わずカイトの隣に座ったトリスは、ふっと笑うと「生きてたんだな」とつぶやいた。
「俺はさ、もう正直生きてるなんてこれっぽっちも思っちゃいなかった。
……薄情だよな。
あの日お前のおかげで命が助かったってのにさ」
「……いや、無理もないよ。
俺だって、逆の立場なら諦める」
「ならよ、ずっとお前が生きてる事を信じ続けて、冒険者になってまでお前を探し続けたリースを、大事にしてやれよ」
当たり前な事を言うなと、軽く小突いてみせる。
「しかし、よくもまぁあそこまで腕を上げたな。
これでも俺達も結構腕には自信あったんだぜ?ベルクさんに鍛えられた後、ニーナと三人でいろんな所を巡ったんだから」
「あぁ、そうだろうな」
「そうだろうなって……まったく。そんな俺達や俺達より腕が上の二人が一緒にかかっても、なかなか倒せなかったあの化け物を、お前は一人で相手してたんだぞ?」
別に、一人で倒したわけじゃないよ。と笑いかけるカイトに、呆れた顔を向けるトリス。
「お前わかってないのか?
決定打がなくてジリ貧になってた俺等が、お前が入っただけで数分もかからずに倒しちまったんだぞ?」
まったく、自覚がないやつはこれだから。
ぼやくトリスに微笑みかけるリース。
「トリスは、自分が助けに行くはずだった兄さんに助けられたから、もやもやしてるだけでしょ?」
「ばっ……か、ちげぇよ!」
顔をそらしたトリスの頬は、心なしか赤かった。
「ふふっ。じゃぁ、私は先に休むね。後よろしく」
去っていったリースの背を目で追いながら、何故かため息が出る。
「3年たったけど、変わったような変わってないような、不思議だな」
「そう思ってるのはお前だけさ。……変わったよ、俺達は」
微かに苦笑しながら言うトリスに顔を向け、あぁ、成る程と一人納得する。
「そうか、トリスがお兄ちゃんで、リースがお姉ちゃんだもんな」
「……?あぁ、ニーナに会ったのか。そうだな、じゃなきゃ、ここに俺たちがいるなんてわからないもんな」
「驚いたよ。ニーナもあんなに元気になっててさ」
「あそこまで動けるようになったのは最近だ。少しづつ、体も丈夫になってきてるみたいだ」
昔と変わらず、妹の事を考える時は優しそうな笑みを浮かべるトリス。
「まぁ、ちょうどいい頃合いだしな。
そろそろトリスも妹離れしてもらわなくちゃ」
「俺はそんなに過保護じゃねぇぞ」
じっとりとした視線を向けてくるトリス。
「それでもだよ。俺は出来れば、きちんとリースの事を一番に考えてもらいたいからな」
トリスはそれを聞いて首を傾げる。
「どういうこった?」
「隠さなくてもいい。リースと付き合っているんだろう?
流石に結婚の約束まではしてないよな」
ニヤニヤとした視線を向けるカイト。
「は?おまえ、なに勘違いして……」
「隠すな隠すな。じゃなきゃ、ニーナがお姉ちゃんなんて呼ぶわけないだろ」
「いやいや、それはただ単に呼びやすいからであってだな」
好い加減素直になれよと問い詰めるカイトの態度に辟易しつつ、「お前の方はどうなんだよ?」と話をそらしてみた。
まったく期待をしてなかったわけじゃないが、その一言で微かに顔を曇らせるカイト。
「お、おお?お前、まさかいい人がいるのか?」
軽く突っ込んで聞いてみると、歯切れ悪く「いや、うん、どうなんだろうな」などと言い出した。
「まさかお前がなぁ。しかし、なんでそうはっきり言えないんだ?まさか、怪しい関係とかじゃないよな」
リースが怒るぞ?と軽く脅すと、迷宮の中の事を思い出したのか、軽く顔を青ざめながら、「いや、やましい事をしたわけじゃなくて」と弁明し始めた。
「ここにくる途中で、国境を越えたんだが、その時にモンスターに襲われた人達を助けてだな」
その時に助けた商人の娘がどうも俺の事を好いていてくれているらしい。
「おいおい本当かよ!で?なんてとこの娘なんだ?」
「クラスト商会」
その名前を聞いた途端トリスはあんぐりと口を開けて、信じられないようなものをみる目でカイトを見続けた。
「お……ま……クラスト商会って言ったら、ラスティカの街で一・二を争う所じゃねぇか。しかも確か一人娘だったろ?」
どんだけいい相手に惚れられてんだよ。
「まぁ、うん、でも、色々と考える所もあってさ。ずっと居続けるわけにもいかないし」
その言葉を問いただそうとするも、街に帰ったら話す。としか言わないカイトにそれ以上聞けず、その後交代の時間まで、暖かな焚き火の前で、二人は静かにこれまでの事を語り合った。
1話と2話を改稿させて頂きました。
カイトの年齢についても書き足したりしているので、気になる方は一度目を通しておいていただければ。
ちなみに今の時点でカイトとトリスは18、リースとニーナが16です。




