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再会はきらめく星の散る中で

300000PV、30000ユニーク、お気に入り950件達成しました!


今後も応援よろしくお願いします!

「兄さん!?」


“彼”は、確かに自分をカイトと言った。


それは、3年前に行方不明となった兄と同じ名前。


自分達を逃がし、ただ一人盗賊の追っ手と戦った、兄の名前。


その名前を聞いた時、反射的に声が出てしまった。


そうと決まったわけではないのに。


しかし、振り向いた“彼”は、


引き締まった体をもつ、素晴らしい剣の腕を持った青年は、


兄と同じ、くすんだ茶色の髪と、優しさが滲み出している様な瞳を持っていた。



そして間違いなく、“彼”は私をこう呼んだ。



ーーーーリース……と。








「リース……?」


確かに、俺を呼んだ気がした。


微妙に変わった声。


伸びた身長。


あの頃の面影を残すのは、自分と同じ髪の色と、勝気さを残す瞳。


だが、それで十分だった。


それ以上の理由は必要なかった。


彼女は、俺の事を“兄”と呼んだ。


なら、きっと彼女は、自分の知る“彼女”の面影を残す少女は、紛れも無く、俺の只一人のーー。


「リース?」


だから俺は呼んだ。


この世界に只一人の、妹の名前を。







きっと、死んでしまったんだと思っていた。


でも、それを認めたく無くて、トリスに頼み、旅をしていた。


色々な街へ行き、多くの人を訪ねて。



少しでも特徴が似た人がいると聞けば、そこへ行った。


何度も、何度も。



そして2年が経ち、3年経った。



奴隷が生きている平均年数は2年だと言われている。



売られてすぐ死んでしまうものが後を立たないから。



だから、買い戻すなら2年以内にと言われている事も、聞いた。



それでも諦められずにもう1年探した。


それでも見つからず、諦めようとした。


この迷宮探索が終われば、冒険者を辞めようと。



だが、彼はこの迷宮に現れた。


彼を探さずに、彼を忘れようと決めた、この迷宮に。


なんの偶然なんだろうか。


なんの因果なんだろうか。


考えても考えても整理できない頭の中身を全て放り投げ、


私は彼へと走り出した。







彼女は、俺の声を聞いて、少し迷った様だ。


無理はない。


きっともう、死んでしまったと思っていただろう。


そんな俺が、いきなり目の前に現れたんだ。


混乱するだろう。



それでも彼女は、その瞳に涙を浮かべ、こちらへと走り出した。



涙を堪えようと、口をへの字に歪ませ、


ただ俺の姿だけを見据え、



駆け寄ってきた。






私は、勝手に出てくる涙を堪え、一歩づつ彼へと近づいた。


今迄永遠の様に感じられた彼との距離が、一歩づつ近づいていく。


もうちょっと


あと数歩で手が届く。



私は、その数歩を駆け抜けた。




彼女は、必死に距離を埋めようと走ってくる。


只々、俺に向かって。


もう、手が届く。



そして私は、




そして彼女は、




俺を、




彼を、









ーーーーーー思い切りぶん殴った。









力の限り殴られた俺は、そのまま壁際まで吹っ飛んだ。


あまりの勢いに壁が所々崩れる。


驚いたクルトが、俺の元に駆け寄り心配そうに覗き込む。


最も、思い切り殴られた俺の視界はチカチカと星が瞬いており、うまく正面すら見えない。


どうやら隣にいたウォルトと言う男は、いきなりの出来事に言葉を失っているようだ。



大きく響いた音に、ようやく目を覚ましたトリスともう一人の女性は呆気に取られている。


視界だけはなんとか回復したけれど、まだたちあがれそうにない。



そんな俺に、妹はツカツカと歩み寄ると、魔王の様に睥睨してきた。




ーーーー怖い。




心底そう思った俺は、流れる冷や汗を止める術も無く、死刑執行を待つ囚人の様に彼女をただただ見続ける。



クルトもその殺気に体を強張らせ、ふるふると震えている様だ。




殺気をみなぎらせた魔王が、ゆっくりと口を開く。



「3年……3年よ?……あなたが帰って来なかったあの日から……3年……。


私が……私達が……どれっだけ心配したと思っているの……?


馬車だけ渡して……一人だけその場に残って……カッコつけて姿を眩ました挙句に……

冒険者になって迷宮に潜ってる……?


あんたがそうやって生きている間に、私達が、どれだけ、苦労して、心配して、あなたを探していたか、わかっているの!?」




俺は、ただひたすら、彼女の怒りが収まるまで、地に額を擦り続けた。







*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+







その後、なんとか回復しきったトリス達三人がかりで必死に彼女をなだめすかし、


ようやくそれまでの俺の生活を話し終え、


納得した彼女が怒りの鉾を収める迄に、


どれだけ時間がかかったのか見当もつかない。



誤解が解け、顔を真っ赤にしながら謝ってきた彼女達と一緒に、戦った広間の奥にあった宝物庫の中の物を全て袋へと詰め、なんとか地上へ戻った時には、既にとっぷりと日が暮れていた。



とりあえずここで野宿して、明日になったら戻り始めようと決めたカイト達は、入り口脇の茂みに隠しておいたテントや食料を引っ張り出し、野営の準備を整えた。



焚き火に火をつけその周りを取り囲み、今日あった出来事を振り返る5人。


……と言っても、話の種になるのはもっぱら、魔王と化したリースと、ひたすら謝り続けるカイトの姿だったが。


腹を膨らませた5人は、二人づつ時間をずらしながら休息を取りつつ、夜の見張りをする事になった。



そして今は、カイトとリースが、焚き火の前に腰を落ち着けている。



リースの膝にはクルトが丸くなっており、その背を気持ち良さそうに撫でている。


もっとも、クルトの方は先程のリースの恐ろしさが忘れられず、細かくカタカタと震え続けているのだが……。



そんなクルトを膝に載せたリースは、そっと俺の方に視線を向けると、



「……さっきは、ゴメンなさい。痛かった……よね?」


と、謝ってきた。



痛いなんて物じゃなかったが……、


「気にしなくていい。俺も心配かけてたんだ」


というと、リースははにかみながら、

「うん」と返すと、少しくすぐったそうに首をすくめた。


「どうした?」

「ううん。なんかね、やっと、また会えたんだなって思ったら、急に恥ずかしくなっちゃって」


そう言って頬を染める。


……さっきのアレが恥ずかしかったんだろうか。


確かに、アレは女の子にあるまじき行いだったような気がする。



「ま、まぁ、きっともう、今までみたいに離れるような事はないだろうから、うん。


……気にする必要はないと思うぞ?」

「?うん、そうだよね、もう、私を置いて行ったり、しないよね?」

「あぁ、約束する。もう、一人にはしないよ」



そういうとリースは、嬉しそうに笑いながら、


「ねぇ、もっと、いろんな話聞かせて?兄さんが過ごしてきた、3年間の話」


と、カイトに甘えてきた。

妹って、怒らせたら一番怖い存在なんじゃないかなって、お兄さんは思うのです。

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