過酷な現実-1
「うぅ……ぐ…っ…」
ここはどこだ…?
ガタゴトと揺れる振動が身体に響く。
何処かに移動しているのはわかるが、自分がいつ、どうやってこの場所に来たかがわからない。
身体を起こそうとした所で身体の至る所に激痛がはしった。
「うああぁぁぁぁっ!」
「ダメよ!まだ寝てなきゃ!!」
そう言って誰かが俺の身体を抑える。
誰だ!?いや、ここはどこなんだ!?
意識が徐々に覚醒するに連れて激しい痛みと疑問が浮かんでくる。
俺は確か、村を襲う盗賊から妹達を守ろうと…っ!?
そうだ、妹は!?
盗賊はどうなった!!?
再び身体を起こそうとするが、身体を襲う激痛のせいで思うように動かせない。
「あぁ…が…ううぅ…ぐぅぅぅ…!」
誰か、誰かあの人達を呼んで来て!!
ぼやける意識の片隅でそんな声を聴きながら、カイトの意識は再び闇に閉ざされていった…。
「ふむ…意識を取り戻したか。なかなか頑丈な奴だ。」
道端にボロボロになって倒れているのを見た時は、もう死んでいるかと思ったが…なかなか悪運が強いらしい。
しかし…この小僧がアレをやったというのだろうか…?
あの時の事を思い出して彼…ディルケンは寒気を覚えた。
街道を西に進んでいた彼は、街道沿いに横たわる幾つもの死体を横目に黙々と馬車を進めていた。
「…盗賊か…」
戦場はもっと東。本来であればこんな場所に盗賊が現れる事は滅多にない筈だが、それでも絶対とは言い切れない。
事実、この周囲を取り締まっている騎士の連中に捕まりさえしなければ、戦場に近い場所よりも安全に獲物を捉える事ができるだろう。巻き添えを食う事もない。
だが、これだけの人数がそうそうやられるものなのだろうか?
戦える大人達は皆戦場へと駆り出されている。
残った老人や女子供では盗賊に勝てる筈もない。
だからこそ"自分達のような仕事"もこうやって、堂々と街道を進んでいけるようなものなのだから。
ポツポツと転がっていた死体も途切れ、そのまま街道を進んでいた彼は、その先に一人の少年が行き倒れているのが見えた。
全身をボロボロにして、至る所から血が流れ出している。片手には弦の切れた弓、反対の手には無骨なダガーが握られていた。
「…盗賊…にしては若い…」
そう言えば、街道沿いの死体には何本か矢が刺さったものがあったが……
「まさか…こんな子供が……?」
いや、あり得ない。いくら盗賊とはいえ、戦場に出たこともあるだろう大の大人が、こんな少年にそうやすやすとやられるだろうか…
だが、現状ではそれしか考えられない。
隊列を止め、その少年の様子をみようと…万が一にも死んではいるだろうが…近寄ると、かすかにその少年が身じろぎをしたように見えた。
「…おい、こいつに手当をして、馬車に放り込んでおけ」
不思議そうにしている手下に指示を出し、再び馬車に乗って走り出す。
8割…いや、9割がた死んでしまうだろうが、
もしも生き残れたら、いい"商品"になるかもしれない。
そう思考する彼の顔には、この商売をしている人間特有の邪悪な笑みが浮かんでいた。
再び目を覚ましたカイトは、大人達に連れていかれ、彼らの長であろう人物の前で跪かされていた。手と脚は鎖で繋がれており、自由に身動きする事ができない。
「お前、名前は?」
「…盗賊に名乗る名前はない…」
間髪おかず出した答えに一瞬虚を突かれたのか、目の前の男が目を丸くし、次いで大笑いしはじめた。
「何がおかしい!?殺すなら早く殺せ!奴隷になどなる気はない!!」
男はそれを聞いて、今度はとても…本当に意地悪な、嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見た。
「残念だがそれはできないな」
「何故だ!?」
「それはな、俺がその、奴隷商人だからさ。」