仄冥い迷宮の最奥で
グロ注意のバトルパートです
出てきた巨体の魔物は、ミノタウロスを想像していただけると。
キィン!ギィン……ガギンッ!
家一件が入りそうなほど広い空間で、身の丈が2リルム(3m60cm)程もありそうな巨体と、4人の冒険者が剣を切り結んでいた。
重たい一撃をひたすら耐える盾を持った男と、魔物を取り囲み攻撃を加えていた3人の冒険者の周りには、夥しい量の血と、大量の肉片が転がっていた。
そのただ中で切り結ぶ、巧みな連携を駆使して攻撃する冒険者と、巨体を縦横に振るい攻撃を寄せ付けない魔物の戦いは、ある意味おとぎ話の様な物にも見えた。
必死に指示を出しながら耐える盾剣士と、隙をつきつつ攻撃する仲間たち。
だが、幾度も浴びせられる攻撃にビクともせず、手に持った巨剣を振り回す魔物にはまったく衰えが見えない。
時折聞こえてくる「ダメ!硬すぎる!」という声や、「諦めるな!」という声に滲む焦燥感は、戦い続けてかなり経つ事を示す様に、疲労の色で濃く染まっていた。
それでも攻撃の手を休めずにいた冒険者達だが、リーダーと思われる盾剣士が、魔物の攻撃を弾け(パリィ)ずに体制が崩れた事で、その連携が徐々に崩壊しはじめた。
よろめいた盾剣士を武器を握っていない手で殴りつけると、吹っ飛んだ盾剣士には目もくれず、そのまま剣を振り回し、周囲に集まった冒険者達を薙ぎ払う。
咄嗟に剣を盾にしてやり過ごした様だが、全員が距離を取られ、痛みに呻く。
魔物はそのうちの一人、少女へと間合いを詰めると、右手の大剣を大きく振りかぶり真っ直ぐに打ち下ろ――――そうとして、唐突に襲った右眼の激痛に身をよじらせた。
その眼には、一本の矢が、深々と突き刺さっていた。
更に何本かの矢が立て続けに飛び、身体の節々へ突き刺さっていく。
矢の痛みに怒った魔物は、一際大きく雄叫びを上げると、猛然とその矢を射た人物――カイトへ向けて突進してきた。
それを冷静に横への移動で避けたカイトは、尚も矢を射て牽制を続ける。
とりあえず今は、他の冒険者が体制を立て直すのを待つのが先だ。
そう考えたカイトは、確実に魔物の攻撃を避けながら、一本、また一本と、矢を魔物へと突き立てていった。
そして、魔物が更に怒ってできた隙を突き、狙い澄まして放たれた矢が、残った左眼へと吸い込まれる様に突き立つ。
再度訪れた激痛に身をよじらせた魔物。
今が好機と弓をなおし、腰の剣に手をかけたカイトは、一直線に魔物へと駆ける。
音で反応したのかこちらを振り向いた魔物が、剣を思い切り横薙ぎにふるった。
カイトはそれをすんでの所で止まり、やり過ごすと、そのまま剣をその振り切った腕へと向けて思い切り振り下ろした。
ーーーーザンッ!!
その一撃は、魔物の腕を的確に捕らえ、その強靭な皮膚と筋肉を切り裂き、一刀の下に切り離した。
空を舞った腕と、舞い散る血飛沫。
今迄味わった事のない激痛に、再度大きな咆哮を上げ、身体ごと魔物はカイトへぶつかった。
その巨体で押され、吹き飛んだカイトは、強かに背後の壁へと打ち付けられる。
「ぐう…っ!」
そのまま迫ろうとした魔物にクルトが飛びかかった。
小さな身体を駆使し、牽制しながらなんとか時間を稼ごうと粘るクルト。
小さな身体に思う様に当てられず苛立った魔物は、未だ繋がっている左腕で大きく薙ぎ払うと、クルトを振り払った。
そのクルトの粘りのおかげか、カイトを見失った魔物は立ち尽くし、必死に辺りへ耳を澄まして気配を探っているようだ。
しかし、既に復帰していた冒険者の一人が背後へと回り、手にしていた剣を強かに膝裏へと突き刺した。
その衝撃に片膝をつく魔物。
背後へと闇雲に振るわれた拳は、無防備な冒険者へ届く事は無く、その間に立ち塞がった盾剣士の盾で守られる。
それによりさらに崩れた魔物の体制を立て直す間を与えず、接近したカイトが首へ剣を突き立て、そのまま上へと切り上げた。
その鋭い剣線によって半ば断ち切られた首は、さらに振り下ろした剣によって、綺麗に両断され、首は空を舞った。
ーーードウッ!と大きな音をたて、床へと崩れ落ちた魔物の身体を避けながら、カイトはなんとかなったなと胸をなでおろした。
足元で尻尾を振るクルトの頭を撫で、よくやった。ありがとう。と声をかけると、嬉しそうに目を細めながらさらに強く尻尾を振る。
その姿に癒されていると、横合いから先程の盾剣士が声をかけてきた。
「助かったよ。君がいなければ全滅していたかもしれない。ありがとう」
そう言って手を差し出してくる男。
「俺はウォルト。君は、一人でこの迷宮に?」
「カイトだ。実は、生き別れた妹達がこの迷宮に来ていると聞いてーー「兄さん!?」ーー!?」
遮られた声に驚き振り向いたカイトの視線の先には、先程の魔物の攻撃で吹き飛ばされ、身体をボロボロにした女の子が、確かにこちらを見ながら、瞳に涙を浮かべていた。
再開したカイトとリース。
生き別れた兄妹の再開、それは新たな冒険への幕開けと……なる?