森の中の迷宮
初迷宮です。
今作品の中での迷宮の存在等も解説しています。
鬱蒼と生い茂る森の中、黙々と歩を進めていたカイトの前に、暗い穴を覗かせる洞穴の様なものが現れた。
事前に聞いた通りなら、これが迷宮の入り口な筈だ。
まるで生き物を飲み込む様に大きく口を開けた洞穴は、誘う様に怪しくそこに存在していた。
「迷宮とは、モンスターの巣やファミリー等とは違う、人工的な産物です。
迷宮の始まりは、過去に名を馳せた高名な鍛治師や、錬金術士、魔術師等が、自分で作成した魔法武器や魔法道具を保管し、守る為に作られたそうです。
その道具達を狙う盗賊たちに奪われない様に、様々な罠や魔物等を配置し、守ったと言われています。
しかし、現在それらを造った者達はみな死に絶え、ただ宝物を守る番人だけが存在しているのが今の状況です。
基本的には中に存在する魔物達は外へ出ては来ませんが、後から住み着くモンスターもいる為、放置しておくには危険が多く、その為新しく見つかった迷宮には、最深部迄到達する事と、中に存在する魔物を全て討伐し、入り口を塞ぐという二つの依頼をギルドで設け、迷宮を潰して貰う事になっています。
中に存在する宝物関連に関しては、全てそれを発見した者に所有権がある事としていますので、迷宮を探索する冒険者は後を絶ちません。
その代わり、熟練の冒険者でも命を落とす危険が大きい罠や魔物も多く住み着いている為に、中に入るにはそれ相応の覚悟をしていただく必要があります」
昨日ギルドで聞いた迷宮の概要を思い出しながら、改めてカイトは気合を入れ直し、その洞穴の中へ足を踏み入れて行った。
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「……ッセイ!」
強く振り抜いた剣は、目の前にいたゴブリンの首を跳ね飛ばし、その息の根を止めた。
この迷宮に入って既に1刻。もう時間の感覚も無くなって来ている。
どうにかこれまでクルトと2人、ひたすら奥へ奥へと進んでいたが、こうも先が見えないと疲労感も大きくなってくる一方だ。
クルトの方も、倒したモンスターの血や、迷宮に篭る臭いのおかげで辟易としているようだ。
そしてさらに二人を襲うのが、数々の罠だった。
一度何者かが掛かった罠でも、大きな仕掛け以外……例えば、落とし穴のようなものは、ある程度時間が経てば元に戻る仕掛けのようで、
横の壁から飛び出た矢に貫かれた死体等、目に見えて何かある様な時以外は、常に細かい所に注意を払いながら進まなくてはならない為に、どうしても時間がかかってしまう。
削られる意識と集中力を必死に繋ぎとめながら進む二人。
幸い、モンスターの方はそこ迄多くない様で、散発的に襲って来ては返り討ちにされている。
最も、既に先に進んでいる者達が倒しているからかもしれないが。
そんな事を考えながら進んでいたカイトだったが、そっと手を添えながら進んでいた壁に、怪しい溝がある事に気が付いた。
その溝は、人一人入れそうな位の大きさの四角形をしており、よく探ると、取っ手のような窪みがあるのも発見した。
罠かもしれないと、手に持った松明の明かりを掲げ、窪みをしっかりと観察する。
だが、それらしい痕跡が見つからなかったカイトは、その取っ手に手を添え、押したり引いたりを繰り返してみた。
しかしそれはビクともせず、諦めようとした時だった。
足元でカリカリと扉のようなものを引っ掻いていたクルトの手元で「カチリ」という音がしたと思ったら、それまで少しも動く気配がしていなかった岩が、ひとりでに横へと動き出した。
ズズン……という重い音を響き渡らせて開いたその扉の奥にはまるで明かりが無く、警戒しながらその奥へと進んでいくカイト達。
そのまま薄暗い通路を進んでいたカイトの前に、石でできた人形の様な物が3体置かれていた。
人に似せて作られたように見えるその石像は、ピクリとも動く事無く、石室の中央に鎮座し続けている。
あの石像の背後には何があるのだろう?
と、横へと回り込み、背後を覗こうとしたーーその時。
突然背後で大きな物音がしたかと思うと、入って来た筈の通路が塞がれ、石室の周囲に置かれていた燭台のようなものが次々に音を立てながら燃え盛り始めた。
ボッボッボッボッという音をたてながら順々に壁に沿って火がついていく。
そのあまりの異常さに気を取られていたカイトだったが、中央に鎮座していた石像が、ゆっくりと腰を上げるのをみて、警戒感をあらわにした。
「汝、宝を求める者か?」
唐突に響き渡った声に驚きつつ、カイトは心を落ち着けながら答えた。
「……妹を探しに来た。財宝には、興味はない」
「では、疾く去るがよい」
「だが、妹はこの迷宮の奥にいるはずだ」
「……ならば、我を打ち倒し、この迷宮の深部へと進むが良い」
そう言うと石像は、腰にあった石の剣を構えると、カイトに襲いかかって来た。
咄嗟に横へ飛び回避するカイト。
それと同時に無防備になった石像の脇腹へクルトが噛み付いた。
だが、石像はそれを全く気に留めず、体を揺すり振り払うと、再びカイトへ向けて剣を振りかぶった。
……かたいー……。
クルトの声に、それはそうだろうと苦笑を返しつつ、石像の攻撃を必死によけるカイト。
重そうな見かけなのに、とても素早い。
縦に横にと剣を振り回しカイトを追う石像。
だが、予想よりは素早かった石像の動きも、慣れてしまえばよける事は難しく無く、その動きを予測しながらカイトは回避し続けていた。
だが、どうしても打つ手が見当たらない。
見た目からして石であるし、長い年月の間に風化しなかった事を思えば、なんらかの強化がされている事も想像できる。
更に、クルトの硬い牙でもまったく傷がつけられなかった。
下手に攻撃して剣が折れたら……。
そう考えると、なかなか手を出せなかった。
その攻撃を避けようと、動いていなかった他の二体の背後に回ったカイトは、そのうちの一体の腰に下げられた剣へと目を向ける。
ーー恐らく同じ強化が施された物。
それを直感的に手に取ると、攻撃して来た石像の隙をつき、思い切り剣を叩きつけた。
ビシッ……ビシビシッ……!
肩口へと叩きつけた衝撃でひび割れる剣。
だが、それと同時に打ち付けた場所から微細なヒビが石像全体へと広がっていく。
ーー今だ!
動きを止めた石像に、カイトは腰の剣を抜き去り渾身の力で振り抜いた。
降り抜かれた剣が、まるで手応えが無く振り切られるとその斬線に沿ってゆっくりと石像の体がズレ、重い音を響かせながら地へと横たわった。
はぁっ……はぁっ……。
荒い息をつきながら、そっと動かぬ石像の方を見る。
恐らく、最初はなんらかの力で3体とも動く仕組みになっていたのだろうが、長い年月の間にか、その仕組みが壊れたのだろう。
物言わぬ石へと戻った目の前の石像の残骸を見つつ、3体で襲われていてはひとたまりもなかったな……と、背筋を震わせた。
石像が倒れた事で開いた奥の扉へ歩いていくと、その奥にキラリと光るものがあった。
眩く輝くそれは、黄金と漆黒の、一抱えもある様な卵に見えた。
カイトは意外に軽かったその二つの卵を、持って来ていた袋へといれ、背中に背負うと、更に先へと続く通路を歩き出した。
その後いくつかの小部屋を抜け、襲いかかる魔物を倒しながら進んでいたカイトは、一際広い空間の入り口へと辿り着いた。
そしてその奥には、人の2倍はあろうかという巨大な姿を持った、半人半獣の魔物と切り結ぶ、4人の冒険者の姿があった。
深い迷宮の奥でカイトが見たものとは!?
次回はグロ表現がそこそこあります。