再会と出発
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「な、なんだ?トリスを知ってんのか?」
突然大声を出したカイトに驚き、思わず後ずさる。
そのまま詰め寄ってきたカイトは、俺の肩に手を置くと、そのままの勢いでまくし立てた。
「トリスがここに居るのか!?女の子を連れて?今は?今は何処で何をしてるんだ!?」
「あ、あぁ、確かにパーティーに女の子がいた筈だ。
だが、なぁ、とりあえず落ち着けよ。お前の知ってるトリスってやつと同じかどうかもわからねぇし、連れてる女の子も妹かどうかはわからねぇんだ。
あんまり期待しすぎると、違った時辛いぜ?」
兎に角落ち着かせようと必死になだめる。だが、今のカイトに効果はあまりないようだ。
「なぁ、トリスは何処の宿に泊まっていたんだ?
冒険者なら、何処かの宿に泊まっていたんだろ?」
「……あー……何処だったかな……俺がこの街を出る前は、飛竜の鋭角ってとこにいたかな?」
「わかった。ありがとう!」
カイトは宿の名前だけ聞くと、そのままギルドを飛び出していった。
「……俺が街を出たのは一月前だったんだが……。
それに、あいつ宿の場所知ってんのか?」
あまりの無鉄砲さに、よくこれまで生きてこれたな……と疑問に思うオールだった。
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宿の名前を聞いて飛び出したカイトだったが、飛び出してすぐに、自分が宿の場所を知らない事に気が付いた。
今更ギルドに戻るのも恥ずかしい。
それなりに人通りが増えて来た街路を行く人に聞けばいいかと気を取り直し、一番近くにいた人から声をかける事にした。
あれから半刻ほどかけ、飛竜の鋭角亭へとついたカイトは、意を決して扉を開け……ようとして、突然内側から開いた扉に強かに額を打ち付けられた。
それなりに硬い木を使っていたようで、開けた時の勢いとあいまって素晴らしくいい音を辺りに響き渡らせる。
激痛に思わずしゃがみ込んだカイト。
だいじょうぶ?と声をかけながら心配そうにこちらを見てくるクルト。
なんとか返事を返そうとしたところで、
目の前の扉がゆっくりと開かれた。
「あ、あの~……だいじょうぶ……ですか?」
恐る恐る扉を開け、こちらを覗き込んで来た少女と目が合う。
大丈夫だ……と声をかけようとしたところで、どうも目の前の少女に見覚えがある様な気がした。
どうやら、その少女も同じ事を考えているらしく、頭を傾げながらこちらをみてくる。
誰だ……?一度何処かで会った事があると思うんだけど……。
その疑問は、宿の中から聞こえて来た声にかき消された。
「ニーナ!なにやってんだい!?さっさと買い物にいってきな!」
ニーナ……!?
その少女の名は、病弱だったトリスの妹の名前と同じものだった。
慌てて宿を出たその少女を追いかけ声をかけたカイト。
「ちょっとまって!……君、トリスって名前に聞き覚えは?」
「え……お兄ちゃんを知ってるんですか?」
「あぁ、やっぱり。君はトリスの妹だったんだね。トリスは?今何処に居るの?」
矢継ぎ早に質問をするカイトに不信感を抱いたのか、警戒感を顕にするニーナ。
「あなたは、誰なんですか?」
どうやらもう俺の事は忘れられているらしい。
苦笑しつつ、少しだけ寂しげに自分の名前を告げるカイト。
すると、彼女はそれで思い出したのか、大きく目を見開くと「カイトさん!?」と大声をあげた。
たちまち辺りから不振な目を向けられる二人。
嫌な雰囲気になりそうな気がしたカイトは、「こっちに」と、ニーナの手を引き走り出した。
「はぁっ……はぁっ……!」
「ごめん、大丈夫?」
胸を抑え苦しそうにする彼女を気遣うカイト。
走っている間に、彼女が昔病弱だった事を思い出したのだ。
「はぁっ……はぁっ……だ、だいじょうぶ……です。……えへへ、カイトさん、足……速いんですねぇ」
そう言って微笑む彼女の顔は、確かに昔の面影がある。
「でも、驚いちゃいました。ずっと、姉さんや兄さんが探してるのは知ってたけど、まさか本当に生きているなんて」
そういった彼女は、ハッっとして「ごめんなさい、あの、私は、てっきり」と、申し訳なさそうな顔でこちらを見てきた。
「あぁ、まぁ、しかたないよ。いきなりだったし、俺も……あれから色々あってさ。
ギルドで、トリスがあの宿に泊まっているって話を聞いて来たんだけど、ニーナは一緒じゃないの?」
「あぁ、兄さんは今、北の森の中にある迷宮に行ってます。
ここでお世話になったパーティーの人達と一緒に。
姉さんも、一緒ですよ。」
「そうなんだ。
ところで、姉さんってのは……?」
なんとなく、だが、答えを予想しながら聞いたそれは、カイトの想像通り「あ、ごめんなさい。リースさんです」というニーナの答えで現実となった。
「そうか。トリスが兄で、リースが、義姉か」
一時期そうなる事を望んでいたカイトだったが、現実にそうなると意外と心にくるものがある。
リース……大人になったんだね……。
一人遠い目をしていると、「あ、あの?カイトさん?」と、かけられた声にハッと我に帰る。
「ニーナ、そんなに他人行儀な言い方はしなくていいよ。俺の事も、兄さんと呼んで」
なんだか雰囲気の変わったカイトに軽く怯えつつ、宿で頼まれた買い物を思い出し、カイトと二人、街の商店へと足を運ぶニーナだった。
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「そうか、なら、もうしばらくは帰って来ないのかい?」
「そうですね……街を出たのが3日前で、迷宮に着くのがそれ位と言われたので、探索し終えて帰ってくるのは、多分後1週間はかかるんじゃないかと」
買い物を終えて戻る途中に、色々な話を聞いていた。
2年程前から体調が良くなったニーナを連れて、冒険者登録をしたリースとトリスは、いくつかの街を渡り歩きながらこの街に来たという。
どうしてこの街に来たのか……という疑問には、「奴隷として売られた可能性もあるから、商人の集まる街や国を伝っていった結果」という事だった。
奴隷になっていたという想像は当たってはいたが、ローゼスハイトの方には目が向いていなかった様だ。
確かに、現在平和なローゼスハイトよりは、国境が荒れている場所もあるこちらのほうが奴隷商も集まってはいるらしい。
流石にもう売られてしまっただろうが、売った相手を聞き出せるかもしれないという事で、奴隷商を探しながら旅していたようだった。
他にも、二人に剣を教えた師や、闇雲に探そうとしていたリースに、唯一可能性のある奴隷という存在の方に目を向けさせたのは、生き残ったベルクだったそうだ。
だが、そのベルクも、あの盗賊たちに襲われた時に受けた矢が原因で、旅立つ前に亡くなってしまったようだが。
「私は、まだやっと普通の生活ができるようになっただけなんで、迷宮などにはついて行かずに、こうやって宿とかで働かせてもらってるんです」
おかげで、宿代タダなんですよ!
そう言って笑う彼女は、昔の病弱だった頃とは違う、とても元気な、素敵な笑顔を見せていた。
買い物が終わり、宿へ戻ったニーナと別れ、カイトはトリス達が向かった迷宮の話を聞くためにギルドへと向かった。
どうやらその迷宮はまだ発見されて日が浅いらしく、多くの冒険者がそこに潜っているようだった。
迷宮の場所を聞いたカイトはそのままトルネの屋敷へと戻り、今日あった事を話し、明日、街を出て迷宮へ出発する事を告げた。
いきなりの事に驚いたトルネ達だったが、探索を終えたらまた戻ってくるというカイトを信じ、それなら今日はご馳走にしようと張り切って用意をしてくれた。
翌朝、いくつかの道具と数日分の食料を渡されたカイトは、様々な人達に見送られ、迷宮へと出発した。
カイトくんは誤解晴れぬまま妹達のいる迷宮へ。
そこで待ち受けるものとは?