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旅をするという事-2

翌朝、日課の鍛錬を終えたカイトが戻ると、顔を赤くしたルルカが待っていた。


「あ、あの、昨日は、ありがとうございました。部屋まで運んでいただいたみたいで」


あー、アリシャさんが言ったのかな?


視線が合ったアリシャさんが、面白そうに微笑んでいる。


……トルネさんは相変わらず怖い顔で睨んできてる。


内心冷や汗をかきつつ、「気にしないで」と笑ながら食卓へと座った。



どうしてこうなったんだろう……などと思いながら。






「あなた、そんなに心配しなくても、意識してるのはルルカだけで、カイトさんは何とも思ってないみたいですよ?ルルカの事は」


昨夜からルルカの事で頭を悩ませていた夫に、内心呆れながら声をかける。


私としては、意識して欲しいのだけれど。


そう心の中で付け加えながら。



娘のルルカも、先月で16になった。早い者では結婚していてもおかしくはなく、今まで特定の誰かに思いを寄せる様な事がなかったルルカを少しだけ心配していたのだが。


今回の旅行はとてもいい収穫があったみたいね。


モンスターに襲われる等と、危ない事もあったが、連れてきてよかったとアリシャは思った。


いつもなら、黙って見送る筈だった今回の買い付けだったが、誕生日を迎えるルルカへのプレゼントとして、家族旅行の様な形にしたのは、普段街から出る事がない娘の視野を広げる為でもあった。



きっと、殆どの人は、一つの街から出る事はあまりない。


村で生まれたり、住む場所を変えたりする事がなければ、危険な街の外に出る必要がないからだ。


しかし、アリシャとトルネは、娘のルルカにもっと広い世界を見て欲しいと思っていた。


確かに街の外は危険でいっぱいだ。しかし、だからこそそこでしか見れないものもある。


違う街、違う国だからこそそこでしか見れない、聞く事ができないもの。


それは、きっとこの先の彼女の一生を、深く、豊かな物にしてくれるに違いない。



最も、これといった護衛が雇えず、途中まで他の商隊と一緒に移動していた私達が、帰る時にその商隊から離れ、単独で国境を越えて戻らないといけなくなったのは、大きな誤算だったけれども。


国境に着いたら、そこにいる信頼できそうな腕の立つ人を雇って護衛してもらおう。


そう考えて入った国境の砦で、カイトに会えたのは幸運でしかなかったけれども。


きっとそれは、娘にとっても……よね?



カイトの隣で少し頬を染めながら、楽しそうに話をしている娘を見ながら、アリシャは微笑んだ。


そして、それをじっと見続ける夫の横顔を見ながら、「この人にもそろそろ娘離れをして貰わなければいけないのかしらね」と思うアリシャだった。





*+*+*+*+*+*+*+*+*+






朝食をとり、村を出たカイトは、御者台の上でとても肩身の狭い思いをしていた。



……というのも、どうにも昨夜からトルネの様子がおかしい。



さっきの朝食の時も、怒っている様な雰囲気を醸し出しつつ、ひたすら食事をとっていた。


たまにこちらを見ていた視線が……怖かった。



そして今は、昨日とはうって変わって無言を貫き通してくるトルネの姿に、どうしてこうなった……と、悩むカイトだった。





「なぁ、カイト君」


先程渡された昼食を取りながら……ルルカから渡される時の視線が痛かった……馬車に揺られていると、トルネが声をかけてきた。


「は、はい」


思わず姿勢を正すカイト。


「君は、娘の事をどう思う?」

「ルルカ……ですか?……可愛いなと思いますが。い、いや、その、ほら、なんていうか、妹みたいな?」


一瞬殺気が(みなぎ)った気がする。


「ほう、妹?」

「は、はい。……自分の妹は、とても世話焼きで、融通がきかなくて、口うるさくて。そんな妹を、俺はいつも困らせていました。


狩りに出たら、すぐには戻らない事も何度もあって、そんな時はいつも、獲物の事なんかどうでもいいから、必ず無事で帰ってきて……と、よく言われてました。


いつも俺の心配ばかりして、自分の事なんか二の次で。


俺は、そんな妹がとても、好きでした。


ルルカは、そんな妹に似てるんです、顔も、性格も違う筈なのに」


妹の事を思い出しながらそう語るカイトを、じっと見据えながら話を聞くトルネ。


その表情は、何時の間にか優しい物に変わていた。


「……そうか。君は、妹に会えたら、そのまま連れて屋敷に戻ると言っていたね?」

「はい。すぐ……かは分かりませんが、出来るだけ早く戻れたらと、思っています」

「なら、戻る前に一度、うちに顔を出してくれないか?」

「……?はい、わかりました。」



でも、いつになるかわかりませんよ?と言うカイトに、それでもいいんだと笑うトルネは、どこか清々しげに笑うのだった。





*+*+*+*+*+*+*+*+*+






「ところでカイト君、恩返し云々は置いておくとして、旅を続けたいと思う事はないのかね?」

「いや、特に考えた事はなかったですが」


カイトにしてみれば、ある意味最初の旅は奴隷の旅だったと言っても過言ではない。


鎖に繋がれ長い距離を歩き、日々擦り切れていく心をなんとか繋ぎ、同じ境遇の仲間と、只この旅がいつ終わるのか、それだけを話して過ごしていた。



正直、いい思い出は、ない。



だから、改めてそう問われる事が不思議だった。


カイトにとって旅とは苦難でしかなく、今回ものはそれとは別物のような気がしていたからだ。



「自分にとって、旅は面白いと思えるものではなかったので」



ただその一言に全てを込めた。



「確かに、君の過ごした日々は辛いものだったろう。


だけど、それが全てではないんだよ?


むしろ、今のような旅の方こそ、“普通の旅”と言える」


何が言いたいのかわからないカイトは、ただ首を捻るだけだ。


「君の人生は、苦難続きだっったからこそ、他の人とは少し違う。


……歪んでいると言ってもいいかもしれない。


本来、旅とは危険がつきものではあるが、苦難のみだけではないのだよ。


もし君に余裕ができたら、一度ちゃんと旅をしてみて欲しい。


勿論、今回の旅を続けてしまってもいいんじゃないかとさえ思っている。



……きっと、君の屋敷の主も、そう思ったんじゃないかな?」


そうなんだろうか?


確かに自分がまともな感性を持っているとは思えない。


歪んだ価値観でしかいられない場所にいたのだから。


しかし、この人は、まるでそれが直せるといっているように聞こえる。


いや、もしかして、ほんとうに?


「私はね、たまにこうして自分で買い付けをしに行っている。それは、同じ場所に居続ける事で、同じ考えしか出来なくなるのが怖いからだ。


場所が違えば物の値段も変わるし質も違う。


そもそも使い方が変わる物さえある。


人だって同じだ。いろんな人がいる。


でも、それは同じ場所に居続けてはわからないし、一度わかったつもりになっても、すぐに忘れてしまうものだ。


人はどうしても、自分の目にはいる範疇の事にしか気が回らないからね。


カイト君、いろんな世界を見てきなさい。


世界には、君の考えつかないような出来事が沢山ある。


それを出来るだけ吸収して、大きくなって欲しい。


君には、それが出来ると私には思っているよ」


そういうと、トルネはただ前方を見据え、馬車を走らせていく。


これから待ち受ける、様々な事へカイトを(いざなう)うように。



意外と?モテるカイト君ですが、果たして彼の恋愛事情は……。


また、次話から少し加速していく事になります。


感想、ご指摘、応援メッセージお待ちしてます。

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