旅をするという事-1
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「では改めて自己紹介を。私はトルネ・ドランコ。
クラスト商会の長をしておりまして、ラスティカの街で商店を経営しています。
こっちは妻のアリシャ。その隣がルルカ。私どもの一人娘です」
「アリシャです。初めましてカイトさん。昨日は本当にありがとうございました」
「る……ルルカ……です。た、助けていただいて、ありがとうございました!」
「カイトです。よろしくお願いします。トルネさん、幸せですね。こんな美人の奥さんと娘さんがいるなんて」
目鼻立ちのすっきりとした、美人という言葉がとても似合うアリシャさんと、少したれ目の優しい顔をしたルルカちゃん。
きっと目鼻はトルネさんに似たのだろう。髪は母親と同じ淡いブルーだ。トルネさんが濃いブラウンなので間違いないだろう。
とても幸せそうな家族に見えて、思わず素直に感想を漏らしてしまった。
それを聞いてほんのり頬を染めるアイシャと、顔を真っ赤にして狼狽えるルルカ。
「あら……ありがとうございます。こんなかっこいい男の子に美人だなんて言われたら照れてしまうわ」
「あ、あ、あ、ありがとうごごございます」
「おいおい……早速妻と子供を口説かないでくれませんかね?」
妻と娘の様子に若干危機感を覚えたのか、トルネがジト目で見てきた。
「い、いや、ほんと、こんな家族がいたら幸せだなって、ほんと、ただそう思っただけで」
よくわからない圧力に負けて、狼狽えながら答えるカイト。
それを見たトルネは、軽く含み笑いをして、
「冗談ですよ。ええ、とても幸せです」
と答えてくれた。しかし、さっきの瞳は何かわからないが本気だった気がする……何に対して本気だったのか若干知りたいような気もする。
「まぁ、道中長いですし、さっさと荷物を積んでのんびり行きましょう」
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「成る程……大変でしたねぇ……」
あれから荷物を積み込み、見送ってくれたローツに別れを告げ、街道をひた走る馬車の上で、カイトとトルネは色々な話をした。
以前見た不思議な宝や曰く付きの逸品等を面白おかしく話してくれるトルネ。
そして話はカイトの旅の目的となり、そのままカイトの過去へと話は及んだ。
最初は奴隷であった事を隠そうとも思っていたが、この誠実そうな商人を裏切りたくないと思い、全てをありのまま話した。
そして、今向かっている街に妹がいる。
そこ迄話した所で、背後からすすり泣いているような声が聞こえた気がした。
気になって振り向くと、馬車の幌から両手でクルトを抱え、首を出したルルカがボロボロと涙をこぼしている姿だった。
「まったくお前は……お父さんは人の話を盗み聞きする様な子に育てた覚えはないぞ?」
「ご……ごめ、なさ、……ごはん……わたそう、と、おもって……うぅぅぅぅ」
涙で顔をくしゃくしゃにして謝るルルカを苦笑しながら注意するトルネ。
なんとかなだめ馬車の中に戻らせると、トルネがすまなそうに誤ってきた。
「申し訳ない。たまたまとはいえ、あまり他人に聞かせたく無い話をさせ、それを盗み聞かせる事になってしまった」
「気にしないでください。トルネさんだから話した事ですし、トルネさんの娘さんなら、聞かれても問題ありません」
トルネはホッとしたようにため息をつくと、じっとこちらを見てきた。
「しかし、そういう理由があるなら、カイト君の腕も、その落ち着きも理解出来る。ここ迄生きてくるのは、大変だったでしょう」
「いえ、自分は、とても良い所に買われましたから。妹を連れ帰ってもいいとさえ言われていますし」
成る程……と少し納得したトルネ。
「では、この旅が終われば、また屋敷に?」
「はい、戻ろうかと思っています。お世話になった恩も返したい」
どこか納得したような面持ちで頷くトルネ。
「しかし、妹に会った後、すぐ戻るのかね?」
「一応そのつもりです。……ラスティカに着いて直ぐに会えるとは思っていないので、どれだけ時間がかかるかわかりませんから」
「確かに。ならば、私も探すのを手伝いましょう。ラスティカの街に居た事があれば、必ず何処かの店で買い物をしているでしょう。店の伝を使い話を聞いて回れば、きっと何処にいるか直ぐにわかりますよ」
任せなさいと、ドンッと強く、自らの胸を叩くトルネだった。
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「カイトさんには、そんな事情があったのね……」
「あぁ。とても過酷な人生だ。彼にはこの先、幸せな人生を歩んで貰いたいが……」
命を助けられた事もあり、彼の今後を思うトルネは、心底彼の幸せを願っていた。
しかし、きっと彼の事だ。この先も、ずっと苦難の道が続くかもしれない。
それを考えると、少し憂鬱な気分になった。
命を助けられるという事は、それ迄の、そしてこれからの自分も、その全ての可能性を救われたという事になる。
しかも自分だけではなく、自分の命より大切な、妻と子供の命も一緒にだ。
これはきっと、一生かかってもこの恩は返しきれない。
これから先は、出来る限り彼の力になろうと、トルネは決意した。
「そういえば、ルルカとカイト君は何処に行ったのかね?」
「それなら、カイトさんが日課の鍛錬をするからと宿についてすぐ庭に出て、ルルカもそれについて行ったわよ?」
「……ルルカも……?」
妻は何処か面白そうに含み笑いをしながら、
「えぇ。最初は照れてるだけみたいだったけれど、あの話を聞いた後は、カイトさんカイトさんって、ずっと言ってたわよ?あの子も、もうそういう年頃なのねぇ」
ふぅ……と、わざとらしく溜息をすると、ちらちらとトルネの様子を伺うアリシャ。
しかし、トルネにはアリシャの視線に気がつく余裕は無いようだ。
「ルルカが……。むぅ……娘はやりたくないが……しかしカイト君なら……でも……」
「……もしもカイトさんでダメなら、よほど素晴らしい他人じゃないとうんって言えなくなるわよ」
妻の言葉にビクリッと反応するトルネ。
しばらくはこの話で楽しめそうね……と、ちょっと意地悪く、しかし、愛する夫の可愛い一面と、娘の成長を嬉しく思い、何処か優しげに微笑むアリシャだった。
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ヒュンッ……ヒュンッ……。
静寂の中、剣を振る音だけが響いていた。
ヒュンッ……ヒュンッ……。
毎日の日課となっている素振りは、最初にショートソードをもらった時から続けている。
先ずは剣を手に、身体に馴染ませるために。
ヒュンッ……ヒュンッ……。
馴染んだ後は、無駄の無い動きを身体へ覚えこませる為に。
ヒュンッ……ヒュンッ……。
そして今は、自分が思う通りの剣線を描ける様に。
ヒュンッ……ヒュンッ……。
慣れていなかった頃は、200も振れば腕が棒の様になり、掌にできたマメがいくつも潰れた。
それが1年、2年と続く間に、回数が増え、直ぐに破れていた手の皮は厚く、硬くなっていた。
ヒュンッ……。
今では朝晩千回づつとなった日課の素振りを終えて振り向いたカイトは、何時の間にか寝ていたルルカに目を向けた。
どれだけ回数を重ね、月日を重ねても、時間だけは短縮する事ができない。
鍛錬をするからと宿の庭に来ていたカイトに、なぜか一緒について来ていたルルカだったが、じっくりと1刻かけて素振りをしている間に旅の疲れが出たのだろう。
膝を抱え込んで眠ってしまっていた。
無防備過ぎないかな……と、苦笑し、眠っていたルルカを抱え宿に戻るカイト。
幸せそうに微笑みながら寝ている彼女は、一体どんな夢をみているんだろう?
ちょっとだけ羨ましくなったカイトだが、彼は知らない。ルルカの笑みの原因が、夢の中に出て来たカイトの姿にあった事などは。
宿に戻ったカイトを待っていたのは、少し怖い顔をしたトルネと、面白そうにこちらをみるアリシャだった。
「カ……カイト君……その格好は……?」
何を誤解したのだろう?だんだん険しくなってくる顔。ちょっと本気で怖くなってきた。
「い、いや、庭で素振りをしてたら何時の間にか眠ってて……起こすのも可哀想だったんでそのまま連れてきたんですが」
迫力に押され、軽くどもりながら答える。
……あれ?俺って、悪い事何もしてないよな?
何が彼を怒らせたのかわからないカイトは、見兼ねたアリシャが声をかける迄、必死に自問自答を繰り返していた。
ルパンの新作を見たら、敵役の氷室がラピュタのムスカ大佐と重なってツボにハマってしまいました。
石田さんのノリノリの声にも影響されて、しばらくは忘れられそうにありません。