一人で旅をするよりも
出来るだけ急いで……まだ少しフラフラしていたから走れない……カイトが宿舎に着くと、待っていたのだろう。昨日の兵士が立っていた。
「やぁ!体のほうはもう大丈夫かい?」
「……おかげさまで、色々と面白い体験をさせて頂きました」
ニヤニヤとこちらを見てくる、この頭痛の元凶を、少しだけ恨めしそうに睨む。
そう、この頭痛は、昨日この兵士……ローツが、散々カイトに酒を飲ませてきたからだった。
カイトが初めて酒を飲むと聞いた彼は、酒場にあった多種多様な酒をカイトの前に次々と出してきたのだ。
奢りだから、お礼だからと散々言われれば誰でも断りにくくなる。
その結果が今日のコレだ。
「まぁまぁ……普段は飲めない様な物も飲めたんだし、役得と思わなければ。で、用件と言うのはだな……」
悪びれもなくそう言ったローツは、西門前にある馬車庫の方を見た。
つられる様にそっちを見たカイトは、そこに見知った人間の姿を見つける。
それは、昨日助けた商人だった。
「昨日飲んでた時に話してたんだがな、お前さんと彼等の向かう場所は同じらしい。で、折角だから一緒にいかないか……と言われた所で、君が潰れてしまってな。で、とりあえずその話の続きをしようと言う事で、ここで待っていたんだ」
「なるほど……でも、それならここじゃなく、直接あの人の所へ行ってもよかったんでは?」
そう言うと、彼は困った様に笑いながら訳を話した。
曰く、昨日の活躍で自分達とは別に、砦の守護隊長の方からも礼をしたいとの事。
だが、本人はまだ仕事が残っていて手が離せないから、変わりに既に知人である俺から渡して欲しいと言われたと。
それならそうと先に言ってくれればいいのに……なんて事を考えながら、差し出された皮袋を貰う。中身はどうやら、それなりの量の銀貨だったようだ。
「まぁそう言うな。俺も別れの挨拶がしたかったんだ。
また、帰る時は是非立ち寄ってくれ。何か困った事があれば力になろう」
「ありがとうございます。また、きっと会いにきます」
そう言って。互いに手を取りあうと、カイトは商人の元へ向かった。
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「体調はどうですかな?」
「なんとか歩ける位ですかね」
苦笑いしながら言うと、商人は笑いながら「あれだけ飲めばそうでしょう」と言っていた。
どうやら、酒が好きな大人でもなかなか飲まない量を飲まされていたようだ。
「改めて自己紹介を。私は、クラスト商会のトルネと申します。カイトさんが向かわれるラスティカの街で店をやっています。
今回は買い付けを兼ねて家族で旅行をしていたんですが、帰る途中のあの砦であんな事になってしまい……。
ですが、カイトさんのおかげで、こうして命を拾い、家族も荷物も無事でした。
折角向かう先が同じという事なので、護衛として一緒に来て頂ければ嬉しいなと思いまして、今日はこうして待っていたのです」
当然護衛としての給金も払います……と言う。
カイトとしては、馬車に載せて貰え、さらに給金さえ貰えるという好条件だったから断る理由が無い。
「有難いんですが、本当にいいんですか?給金迄もらわなくても……」
「いえいえ、最近はモンスターの数も増えて来たみたいですし、腕のたつ方が一緒に来て貰えれば。私の方からお願いしてるんですから、どうか受け取ってください」
そこ迄言われれば拒否するほうが失礼だ。
カイトは礼を告げ、トルネと同道する事となった。
全体プロットをまとめていたら、また予想より長くなりそうな……そんな気がする……。