暴虐の果てに
その日俺は、溜まっていた皮や牙等を近場の街に売りに出ていた。
牙や皮だけじゃなく、村で採れた野菜や果物なんかも一緒だ。週に1度、こうやって街に出て、売ったお金で消耗品を買い揃えて戻る。
どうしても、採れたものだけじゃ生活はできないから。
売れ残りや買った消耗品を馬車に載せ村に帰っていると、街道の向こうから、旅人らしき人影が必死に走って向かって来ていた。
「どうしたんだい?そんなに急いで」
「と…盗賊が…」
「盗賊!?」
戦争が起こってから、街や村では男が駆り出される。
そうして駆り出された男手の無い場所に、軍からの脱走兵や敗残兵が盗賊となって押し寄せる。今迄は戦場も遠く離れていたから比較的安全な場所だったのだが…
「お前も、早く逃げた方がいい。これだけ荷物を抱えていたら、きっと見逃しては「ダメだ!この先に、俺の村があるんだ!」…そこは…もうダメだろう…俺が盗賊を見かけたのは、1刻も前の話だ…きっと…」
唇を噛み締め、それでも諦めないと馬にムチをくれる。
「おじさんは街の人達にその事を伝えてくれ!俺はいく!」
脳裏にいろんな顔が浮かんでは消えていく。
リース…母さん…ベルク…トリス…
俺がいった所で何ができるかはわからない。それでも、見捨てる事はできなかった。
半刻ほど走らせると、ようやく村が見えてきた。しかし、村の至る所から煙が上がっている。
涙がこぼれそうになるのを必死で抑え馬車を走らせていると、村から何人かの人影が走り出てきた。
あの人影は…
「リーーース!!」
「…ッ!…お兄ちゃん!!」
馬車を止め、話を聞こうとする…が、
「あっちにいるぞぉ!!」
「く…ッ!皆はこの馬車で街にいけ!おれが食い止める!」
「無茶だ!一人でなんて…「トリス!妹達を死なせる気か!?」…でも…」
馬車から飛び降り弓に矢をつがえる俺に、なお渋るトリス。
「大丈夫だ、少しの間脚を止めたらおれもすぐに逃げる。森の中にはいれば俺なら逃げられる!早く行け!」
そう言うと馬に問答無用でムチをくれ走り出させる。
もう猶予はない。
「カイト!絶対!絶対死ぬんじゃねぇぞ!!」
…わかってる…こんな所で俺は死ねない!死んでやるものか!
馬車を追おうとする盗賊に矢を放ち牽制しながら、
必死に脱出手段を考えるカイトだった。