メロキャラン
日間ランキング9位!
まさかの一桁台へのランクインで、嬉しいやら恐れ多いやら…。
ほんとうにありがとうございます!
「兄様!あっちに行きましょう!」
今日はとある用事で街へと出向いている。
本来なら遠回りになる道だったから、その前で別れよう…と思っていたんだが、アリシアの「わらわも行く!」という鶴の一声で何故か順路まで変更し、このメロキャランの街へと来ていた。
「ほら!あっちにある屋台で何か食べましょうよ!お兄様!」
どうやら帰るまでもできるだけいろんな物を見せたいという事らしいが…。
「おいしぃ!あ、あっちの露店もよさげですわ!」
…何故…こうなったんだろう…。
以前から、街に行く時は身分を隠し、一緒に行く人間の妹として同行していた“彼女”。
今回も当たり前のようにマリアさんやルビアなんかと一緒にいくと思っていたんだけど…だけど…。
「なにをしておるカイト!あまり不自然にするとわらわが変装している事がわかってしまうではないか!」
「いや…そもそも俺と姫様が兄妹というのは無理が…「何をいう!完璧な変装ではないか!そして姫と言うでない!」…はい…」
どうやらこのお姫様は自分が完璧な妹を演じられていると思っているようだが…。
…無理がある…!
余りにも平凡な容姿をし、くすんだ茶色の髪と目を持つカイトと、丁寧に整えられた豪奢な金髪と、将来有望な容姿を持つアリシアとでは、どうあがいても“使用人とお嬢様”が限度だ…。
なんでこんな組み合わせにしたんだよぅ…
「あ、あっちに面白そうな物が!」
「ま、まってくだs「敬語!」…待つんだアイリス…」
あぁ…これじゃ用事が済ませられない…。
途方に暮れるカイトとそれを連れ回すアイリス。しかしその2人は、“わがままな妹に振り回される優しい兄”の図に、意外なほどピッタリとはまっていた事には気がついてないカイトだった。
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…ギィー…バタン…
「誰かいらっしゃいませんか…?」
あの後なんとかアリシアをなだめすかし、最初の目的地である“ロンデル武具店”へとついた。
「いらっしゃい。何かお探しかね?」
奥から出て来た禿頭の大柄な男が、意外と…といったら失礼だろうか?愛想のいい笑顔で迎えてくれた。
「ちょっとこれを見て欲しいんですが…」
そう言ってカイトは、背負っていた弓を差し出した。
「ふむ…しっかりした作りの、いい弓だね…だが、だいぶ傷んできているようだ」
「はい…なので、修理か、新しい弓が欲しくて来たんですが…」
新しい弓の調達。それがカイトの目的の一つだった。
今まで使っていた弓は、いくつかの素材を組み合わせた合成弓で、小柄な割りに高い威力と耐久力を持つ、なかなかの物だった。
使い勝手を良く、ずっと整備しながら使って来たが、もう使い始めて3年程…自分が使う前は他の誰かが使っていたようだし、いい加減寿命なのではないだろうか?と、最近思い始めていた所だった。
「んー…確かに、もう芯材に細かい亀裂が入っているようだ。サイズもどうやら少し小さめのようだし、新しい物に変えてみては?」
「…そうですか…わかりました」
屋敷に務めてからずっとお世話になっていた物だったが、しょうがない。愛着は持っているが、武器の質は命に関わる。
「とりあえず、そこにある弓をためしてみないか?」
飾り棚の弓を指す店主。
その、同じ合成弓の並ぶ列から、一番使いやすそうなサイズの物を手にとって試しに引いてみる。
「ん…ちょっと軽い…かな…」
「ほう…それが軽いか。なら、その上の物はどうだい?」
今度は強さはちょうどいいが、サイズが大き過ぎるような気がした。
よく森に入るカイトには、もっと取り回しのきく小さな物がよかった。
そうカイトが告げると、「もしかしたらアレがちょうどいいかもしれない」と言い、裏をゴソゴソと漁りだした。
これじゃない、あれでもないと、ぶつぶつ言いながら探していた店主が持って来たのは、一見何の変哲もない、無骨な弓だった。
大きさは以前使っていた物よりちょっと大きいだろうか?だが、それくらいしか違いがないようなその弓を手に取り、試しに軽く引いてみる。
…!…お、重い…!
まるで今まで使っていた物の2倍近くかかるその弦の負荷に驚きつつ、「流石にこれは使えない…」と店主に言うと、
「いいから、最後まで引いてみてくれないか?」
と言われた。不思議に思いつつも、言われた通りに普段の様に引き絞っていく…と、
…!引けば引くだけ軽くなっていく!?
おおよその弓は、引けば引くだけ徐々に…ではあるが、重みが増していく。それはより遠くに、強い威力で飛ばす為に加重をかけるのだから当たり前の事かもしれない。
引けば引く程重くなり、限界に達した所で狙いを定め、射る。
それが弓だ。
だが、引ける限界の力で引いてしまうと、引き絞った場所で保つ事が難しくなり、狙いを定める事もまた困難となる。
だから殆どの人は、自分に余裕のできる加減の力で引ける弓を選ぶのだが…
「驚いたな、そこ迄綺麗に引けるなんてな」
「これは、なんですか?」
笑ながらこちらを見る店主に驚きつつ聞いてみる。
「それはな、最新式の複合弓で、知り合いの工房と作ったもんだ。より強い力で引けないか…という考えに沿って作った物で…まぁ、発想の転換に近いな。引けばそれだけ軽くなる。だから、強い力で引かなければならない弓でも扱える様になる」
だがなぁ…と、困った様に苦笑いをする店主。
「発想は良かった。予算も…まぁ、研究を重ねればそれなりに安くなっていっただろう。だが、どれだけ考えても、それ以上軽く引けるような弓を作れなかったんだ。構造の問題で、それが限界だったんだよ」
…確かに、強い力を、特に最初の引き始めで使う。
ずっと弓を使って来た人間なら、何とか引ける位だが、慣れてない人間や、力だけで引こうとすれば、使える様な物では無いのかもしれない。
「新しい材料なんかがあればなんとかなるかもしれないが、そんなものそう簡単に見つかるわけでもないしな。だから開発もそれが出来た所で終わってしまったんだ。その弓は、記念にとっておいたんだよ」
なるほど…と頷き、しかしもったいないな…と考えてしまった。おそらく研究を続ければ、世に出回る殆どの弓がこれにとって変わるかもしれないのに…。
「で…どうする?そこそこ値が張る弓だが…今の所理想に一番近いんじゃないか?」
「お幾らでしょうか…?」
「エルム金貨5枚…は欲しいとこだが…特別に3枚にしといてやるよ。いつ迄も置いててもしょうがないしな」
3枚…買えない訳ではないけれど…簡単に出すには考えられる金額だ…。
どうしようか…と悩んでいると、じっと後ろで話を聞いていたアリシアが、そっと服の裾を引いてきた。
ん?と、顔を寄せると「わらわが払ってやろうか…?」と、何かを企んでいる様な顔で言ってきた。
「いや…そんな事をしてもらう訳には…」
「よい。いいものと巡り合えた時には、金を惜しまず手に入れる事だ。それが、自分の懐が痛まぬのであれば余計にな」
でも…とまだ渋るカイトに、彼女はニヤリと笑うと告げる。
「それに、ただ買ってやる訳でもない。お主には金貨3枚を貸しておく。いずれ、旅を終えたら城に返しにこい。それまでの貸しだ」
そう言うと、一方的に話を切り上げ店主と向き合うアリシア。
「その弓、金貨10枚で買い取ろう。その代わり、研究を再開し、その成果を王城へと報告する事。出来るか?」
などと言うアリシア。あれ?金額違う…と言うか、変装は?などと呆気に取られているカイト。
どうやら店主の方も、いきなり金貨10枚出すと言い、城に…などと言い出した少女に疑いを持っている様だ。
「お嬢ちゃん、そいつは流石に冗談が過ぎるってもんじゃないか?」
「冗談ではない。ほれ、金貨もこの通り出そう」
腰の袋から金貨を取り出しカウンターへと出すアリシア。
何時の間に…なんて考えていると、「マリアが小遣いとして持たせてくれた」
とこっそり話してくれた。
…額がおかしくないですかマリアさん…。
金貨を調べ、本物だとわかると、違う意味で疑いぶかそうにこちらを見てくる。
「…お前さんら、何もんだ?」
「ふむ…わらわはアリシア。アリシア・ローゼスハイト。第2皇女といえばわかるか?」
その言葉に驚愕し、まじまじと見てくる店主。
「…確かに、今はこの近くで就学なさっていると聞いたが…本物か…?」
「わざわざわらわを騙るような物好きもおらんじゃろうが、気になるならば、城へ問いただせばよかろう。金貨も本物とわかったんじゃろう?」
「いや、いい、わかった。…いや、わかりました。そのお申し出、受け入れましょう。研究を再開し、その結果を後日城へお届けします」
うむ、よろしくたのむ。と、言い、行くぞ!とカイトを促し店を出るアリシア。
こうしてカイトは、新たな相棒と、アリシアに大きな借りができる事になった。
「くふふ…これでカイトはわらわの…」
...何だか取り返しのつかない事をしてしまったようだが…。
今回出てきた弓の構造は、現代のアーチェリーに使われているコンパウンドボウ…複合弓ですね。と、似たような構造を持っています。
まぁ、たどり着く先は自然と似通ってくるものと思っていますし。
気になる方は、アーチェリーWikipediaに載っているので読んで見るのもいいかも?
wiki面白いよwiki。
あWikipediaとかあるし。