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閑話-とある皇女と侍女の日常

シリアスパートが落ち着いた所で、今回は

何気ない?日常を書いてみました。あまり本編では触れてない、彼女達の生活をお楽しみ下さい。



「街に行くぞ!」

「いけません」


その一声が出たのは、ガイランド家に着いて2週間後の事だった。


むしろ、2週間良く持ったな…と言いたい。


恐らくは、かの奴隷の事が頭にあったからだろうか。城を出る前から、着いたらすぐに街に出ると豪語して…その度に私に却下されていたが…いた彼女が、2週間もの間、その事に触れなかったのは意外でもあった。



…しかし、だからといって許可は出来ない。まだ街の者にとっても、「皇女が来た」という事実は大きな意味を持っている。…不貞を働くような輩は居ないだろうが、それでも、街にることで、すぐに住民の話題の的になる事は確かだった。



だがそれで退くアリシアではない。幼少の頃から世話をしていた私にはわかる。



このままではお屋敷を抜け出しかねない…



流石にそれはまずい。だから、マリアは幾つかの約束を守らせる事で、彼女に街に出る許可を与えたのだった。





************






「ふ…ふっふっふ…ふっふっふっふ…」



ついに来た…ついに…憧れの街へと…ッ!



城から出られず、本で読む話から想像するだけだったこの“街”と言う物に憧れてから幾星霜…妾はついに!ここに来たのであるッ!



あぁ…きっとこの街の中では、きっと商人の娘と農家の息子が恋に落ちていたり、悪人に連れ去られそうになった娘が冒険者に助けられたり…夜な夜な大商人が裏で悪事をおこなっていたりするんだろうなぁ…。



「うへ…うへへへへ…」

「汚いわよアイリス。よだれが垂れているわ」



…おっといかん…



「教えてくださってありがとうございますおねえさま!」



…そうっ!今の私はとある商家の末娘!お姉様が街へ買い付けに行くのを、無理矢理ついて来た箱入り娘なのだ!



普段使わない敬語を、侍従のマリアへ使い、付き従っているのもそれが理由。これが、アリシアが街に出る為の条件だった。




もちろんそれだけではない。



街での自由行動は無く、買った品物…ガイランド家で使う食材等で、すぐに持ち帰る物は優先的に持つとし、街にいる間はマリアの言葉に絶対に従う事。



それら全てに承諾したからこそ、アリシアはここに来れたのだ。



だからわらわは…いや、私は、街を楽しむ為に…この全ての任務を全うする所存であるっ!




「おねえさま、はやくいきましょ?はやくかえらないと、お父様が心配なされるわ!」



気合を新たにアリシアは、“自分が完璧と思う妹像”を守る為に、演技を再開した。




************






「ぐ…ぬぬぬ…お…重い…ですわ…おねえさま…!」

「我慢しなさい。それが約束だったはずよ?」



アリシアの両手には、先程買ったイモの山がぶら下がっていた。

買い物袋に入っているイモの数は50個程。普段から家事の手伝いなどをしていれば、そう重い物ではないが、10歳の、それも、今まで手伝いなどを何もしてこなかったアリシアには、拷問に近い重さだった。



…マリアの方は、それよりもさらに100個程多く詰まった箱を運んでいた訳だが。




何故…何故ああも軽々と大量のイモを運べるのか…ッ!?ヤツは…ヤツは化け物かッ!?



勿論、幼い頃から家事の手伝いをし、年齢も今19ともなろうマリアには、イモの10ドグルム程度などは造作も無く運べるものだった。



だが、その3分の1程でも必死になっているアリシアにとってみれば化け物と感じてもおかしくはない…マリアは少なくとも、街を歩けばそのほとんどの男が振り向く程、可憐な容姿をしているのだから。



「私は化け物じゃありません」

「ヒッ!?」



何故わかったのだろう…頭の中の化け物の単語に反応したマリアの視線は絶対零度…見た物全てを凍らせる、絶対零度の輝きを持って、アリシアを襲った。



「ぜ…ぜぜぜぜんぜんそそそんなことおおおおおもってもないですわ!い、いやだなぁおねえさまったら…お…お…おほほほほほほ」



…あ…あぶねぇ…あの目はマジだった…あの目を見た瞬間わかった…あれは、ヤる時の目だった…。




必死に体の震えを止め、体に鞭打ち、手の中にある物を、只々必死に、馬車庫へと運ぶアリシアは、二度とマリアに軽率な言葉は…頭の中でも使うまい…そう心に決めた。





************






…ふぅ…まったくしょうがない子。



前を必死に歩く、その体には不釣り合いな重さの袋を必死に運ぶ少女に、マリアは呆れつつ…しかし、どこか優しい姉そのものの表情を浮かべながら、後をついて行った。



普段であればこんな事は絶対にさせない。しかし、今日は良い機会だと、普通の市民が送る生活を体験させようと思っていたのだ。



彼女が思う普通とは、明らかに違うだろう。でも、これが“普通の日常”なのだ。



家の手伝いをし、街の人と顔を合わせ、他愛無い話に興じ、家族と共に平和な日常を送る。



その一端でも触れさせてあげたい。



それはマリアの願いでもあった。




マリアの家は、それなりに大きな貴族の家でもある。しかし、貴族の子女は普通王家の侍従にはならない。



それが何故マリアはアリシアの侍従となったのか。





それは、彼女の生まれに問題があったからだ。





彼女は、言ってしまえば、ルピス家の主人の“妾の子”だった。



マリアの母は当時、ルピス家に使える侍従の一人だった。ごく普通の家庭に産まれたルピスの母は、類稀な容姿と、穏やかな気性を持っていた結果、ルピス家の主人の目に留まり、侍従として召抱えられ、愛人となった。



しかし、あくまで妾は妾であり、公然として人前に出る事も無く、ただ侍従として働き続けた。彼女の優しい人柄のおかげか、屋敷の者にも邪険にされず、幸せな日々を送ってもいた。



しかし、やはり正妻はいい気分では無かったのであろう。事あるごとに嫌味をいい、それは、彼女が身ごもる事で限度を超えた。



今迄の生活を送る為には、お腹の子をおろすしかない。



しかし、愛した人の子をおろすことは出来ず、母は家を出たという。




そしてマリアを産み、ただ一人で育て続けたのだ。



しかしその苦労は並大抵では無く、子育ての傍、仕事をしていた母は、体を崩し亡くなってしまった。



そしてそれを知った父が、マリアを呼び寄せたのだった。




その頃には、既に正妻も亡くなっており…あまり体は丈夫では無かったらしい…その正妻との間に産まれた3人の子供と一緒に暮らしていた父は、ずっと母の事を気にかけていたそうだ。何度も援助を申し入れたが、断られたらしい。



それから過ごした数年間は、とても幸せだった。



しかしその後、マリアが13になった時に父が亡くなってより、兄妹の間で諍いが耐えなかった。


家督を次いだ長男と次男が争い、それに長女が油を注ぐ。



そんな中、妾との間に産まれたマリアは、邪魔でしか無かった。



居心地の悪い家での生活を送っていたマリアは、以前母がいた頃よくして貰ったという一人の女性から、私の所にこないか…と言う誘いをもらった。



私は今、皇城にいる、4歳の末姫の乳母をしている。まがいなりにも貴族であるマリアがする仕事ではないかもしれないが、そこにいるよりは大分マシだろう。ここでは云われ無い中傷を受ける事も無いからと。



そして、マリアはその誘いを受ける事にした。



兄達はそんなマリアを蔑んだ目で見る事はあっても、それ以上何かを言う事も無かった。厄介者が一人消えた事だけを喜んでいたのだろう。




それからマリアは、アリシアの事を実の妹の様に可愛がっている。


大きくなってからは侍従としての態度を崩さず接しているが、たまにいきすぎた時は容赦の無い言葉が出てしまうが…。



アリシアはアリシアで、やはり自分の事を姉と思って親しんでくれている様でもあるし、今日みたいな日もたまにはいいか…等と考えてもいるが。






しかし…






さっきから度々声をかけて来るこの男達は何とかならないのだろうか?






軽々しく声をかけ、「そんな物置いて一緒にお茶でも…」何て行って来る男もいる始末。





ほら…また一人…。





「こんにちは!今お仕事中?よかったら終わってからでも俺……ヒッ!!??」






…目を合わせただけで逃げ帰る位なら来なければいいのに…





はぁ…と溜息をつきつつ、せめてあの奴隷位の度胸は無いと…等と考えてしまった。





あの奴隷…カイトと言ったか…姫様を襲おうとした魔物を一刀で斬り伏せたと聞いたが…それだけの度胸があれば、せめて話し位は聞いたのに…。



最も、仕事をしていない時だけれど…等と考えながら、いけないいけない、奴隷相手にこんな事考えるなんて、毒され過ぎたかしら…等と自嘲してしまう。




今はただ、“妹と姉"である事を楽しもう。気分を変え、馬車庫へと向かいながら、後は何があったかしら?と考え込むマリアだった。

はい、今回はマリア嬢の過去話がメインでしたね…日常エッセンスは少なめでした?


もっと欲しかったですかね…。

毎回書き下ろしでやってるもので、ざーっと頭の中で書きたい物を整理した後、流れに任せて書いてしまう物で…スイマセン。



いずれ落ち着いた時に整理をするつもりですが、たまにはこんな話をのっけていこうかと思っています。


ご意見ご感想などお待ちしております。

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