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平穏な日々

「くそ……重い……っ」


先程狩った獲物を引きずり、やっとの事で村の入り口まで辿り着いた俺は、ボアの体を離すと同時、その場でへたり込んだ。



いくら血を抜いたとは言え、この大きさ。


その上全身筋肉の鎧で覆われた体を持ったボアは、まだまだそれでもそこらの大人より重い体を持つ。


なんとか森の奥から引っ張ってきたとはいえ、流石にここらが限界だ。


額から滝の様に流れ出る汗をぬぐいつつ、俺は大きく息をはいた。


体力を回復しようとぼーっと空を眺めていると、辺りから村の住人が顔を出し始めた。


「おうカイト、今日はまたえらくデカい獲物を獲ってきたなぁ!」


そう言いながら、よくやったとでもいいたげに肩をポンポンと叩かれる。


「たまたま運がよかっただけだよ。後で捌くから取りにきて」

「いつも悪いなぁ。この村で狩りができるのは、もうお前しかいないから」

「気にしないで。ベルクさんにはいつもお世話になってるし」

「悪いなぁ。俺も、こんな体じゃなければ…」

そういって自分の左半身を見るベルク。


そこには、本来あるはずの左腕が無い。


彼は、隻腕だった。


身体中にいくつもの古傷を抱えた彼は、元冒険者だったらしい。


自分が幼い頃に村の側で行き倒れていた所を村人が介抱し、なんとか一命をとりとめたという事だった。

だが、失った片腕はどうする事もできず、この村に留まって助けてくれた恩を返しているらしい。


だが、既に村では彼を余所者とは見ておらず、村の一員として既に暮らしている。


実際彼は、早くに父親を亡くした俺と妹の親代わりのような存在だ。


母親すら数年まえに亡くした今は、ある意味父そのものと言ってもいいかもしれない。


その後も村人達と話をしていると、村の奥から一人の少女が両手にいっぱいの道具を抱えながら走ってきた。


「遅いわよ兄さん!まったくどこまで行ってたのよ!帰りが遅いから心配……って……またこんな大きな獲物をとってきて……」

「ただいま、リース。道具持ってきてくれたんだな、ありがとう。」

「あぁ……うん。はい、コレ」


呆れながら解体道具を渡してくる妹。


小言が多い妹は、黙っていればそれなりの容姿をもっているのに、未だに仲のいい男の一人もいない。


今年13になる妹は、早くに両親を無くして、俺と二人で生活しているからだろうか……そこらの男共より手が早く、口煩い。


男勝りな性格と口が災いしているんだろうか……。


まったく兄さんは後先考えないで……

などと小言を言われながら、無言で獲物を解体する俺。


何故かニヤニヤとこちらを見てくるベルク達を睨みながら、この子の旦那になる人間は大変だろうな……とため息をついた。


きっと、その男とは色々と分かり合えるはずだ。


そんな事を考えつつ、手だけは器用に解体を進めて行く。皮はなめして街に持って行くとして……肉はこの位で分けて行けばみんなの家に行き渡るかな?



「聞いてるの兄さん!?」

「はい、はい、聞いてるよリース。」



おっと危ない。もう少しで拳が飛んでくる所だった。


あれは痛いんだ……


以前街から来た男がちょっかいを出そうとして殴られ、顎の骨を砕かれたのはそう昔の話じゃない。


「だから、もう無茶はしないでよね!?んじゃ、私は先に家に帰ってご飯の支度してるからね?」


そう言って来た道を戻っていくリース。


思わず溜息をついていると、


「っと、兄さん!……15歳の誕生日、おめでと!」


振り返り告げられた言葉に「ありがとう」と微笑み返すと、妹は照れたように走っていった。


「相変わらずだな。愛されてるじゃないか」

「うるせぇよトリス。ほら、お前の分」


ニヤニヤしながら話しかけて来た男にひょいっと肉を投げる。


あぶねぇ!と、飛んで来た肉を慌てて受け取る。


「あぶねぇなぁ、貴重な肉を……」

「お前が余計な事言ってるからだ。さっさと持って帰って、妹に食わしてやれ。うちのみたいに頑丈じゃ無いんだから」


彼の家にはにはニーナと同じ年の病弱な妹がいる。


俺の家と同じ様に早くに両親を無くした彼の家には、もう他に養える人間がいない。


彼は一人、妹の為に幼い頃から畑仕事を続けていた。


へへっ、いつもありがとなっ!と、自分と同じ年の友が家へと帰っていく後ろ姿を見ながら、あいつが妹もらってくれたらなぁ……などと考えてしまう。


面倒見の良くて誠実なトリスなら、きっと妹を幸せにしてくれる。


まぁ、今すぐになんて話でもないからと、そんあくだらない妄想を振り払い、解体を続けた。

ボアはイノシシのおっきいvrを考えてもらうとわかりやすいと思います


12/5改稿

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