降りかかる猛威
最近モンスターが大量発生している。どうやら発生源はあの森らしい。以前駆逐した巣に新たな種が住み着き繁殖した様だ。
ギルドに赴き聞いた話を纏めると、こういう事だった。
確か今日は、カイトが1人で狩りに出ているはずだ。あいつはまだモンスターとの交戦経験が無いし、巣の場所を教えた事も無い。まかり間違ってあの場所に近づいてしまったら…。
慌てて屋敷まで戻り、小屋まで駆けつけると、丁度森の中からカイトが出てくるところだった。
着ていた服はボロボロになり、ところどころ血が滲んでいる。しかし、疲れてはいるものの、致命傷という訳ではないようだ。それだけ理解したところで、ガゼットは安堵の息を漏らした。
「あ…ガゼットさん…」
どうやらこちらに気がついたらしい。
「無事だったみてぇだな。よかった」
「はい…森の中で、緑色の小人のようなものに襲われて…」
緑の小人…ゴブリンだろうか…?以前駆逐したモンスターもゴブリンだった。
「何匹いた?」
「罠をしかけたあたりに…最初は1匹だけだったんですが、どんどん増えてきて、最後は20匹位に…」
まず間違いないだろう。あいつの一番厄介なところは、その繁殖力と、数で押し包んでくる所だ。
「よく無事だったな」
「とにかく隙をみて脱出しようとだけ考えていたので…」
「そうか…とりあえず、小屋で休んでいろ。俺はアベル様と話をしてくる」
そう言うと、俺は執務室へと向かった。…しかし、思ったよりも数が多いな…ここまで増えてるとは…怠け過ぎたか…。
己の失態に舌打ちをしつつ、しかし、カイトの成長にも驚いていた。
並の大人ならば、20匹のゴブリンに囲まれれば、逃げ出すのも容易ではない。手練れの冒険者でも1人では苦労する。
…2年の間にそれだけ成長したって事か…
弟子とも言える存在の成長を嬉しく思いながら、足早に屋敷へと向かうアベルだった。
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小屋に戻り、自身とルリムの治療を終えたカイトは、そのまま横になっていた。
あのモンスター…いつからこの森にいたんだろうか…。
ここ最近ではあまり無かった『戦闘』とも呼べる行為に、カイトは身体を震わせていた。それは、あのモンスターだけによる恐怖ではない。3年前の、あの日の恐怖を思い出していたからだった。
自分の実力は、あの時よりも上がっただろう。だが、あの時よりも多い数、そして人間とは違う存在。それが、こも屋敷や近隣の街を襲う…。
そう考えただけで、身体が震えた。
簡単ではないだろう。だが…あのモンスター達を、根絶やしにしなければならない。
心の中で覚悟を決めたカイトは、倉庫の奥にあった防具類などを点検する事にした。きっとガゼットは行くだろう。ならば、自分もそれについて行く。そう、固く心に決めて。
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主人に事情を話し、これからの行動を相談し終えたガゼットは、小屋にいるだろうカイトをどうするか、決めかねていた。
近隣の街の脅威にもなる。森や周辺には、街で依頼をだして冒険者に駆逐させ、巣には自分1人で殲滅する予定だった。
おそらくこの分では、巣の中には100匹以上…そして、周辺にもそれなりの数が出ているだろう。以前よりも数を増したモンスター相手になれば、足でまといは要らない。
一体一体の脅威はそれ程でもない。囲まれないようにさえ気をつけさえすれば、どうとでもなる相手だった。
だが…カイトは…きっとついて来ると言うだろうな…。
ある意味実力でいえば問題はないだろうが、集団相手の戦闘ともなれば勝手は違ってくる。今更教えても付け焼刃であれば…。
そうこうしているうちに小屋にたどり着いたガゼットは、扉を開けるなり目に入って来た光景に驚きを隠せなかった。
そこにあったのは、倉庫の奥にしまってあった筈の、自分の装備一式と、おそらく自分で作ったであろう装備を身につける、カイトの姿だった。
綺麗になめした革を幾重にも重ね合わせたであろう、身体の急所を覆うレザーアーマーを身につけたカイトは、ガゼットの姿を見るなり、「俺も行きますよ」と言わんばかりの視線を投げつけて来た。
…これは…置いてはいけないな…。
苦笑と共に、覚悟を決めたガゼットはカイトに、対モンスター戦の心得を教えていった。
いよいよまともな戦闘シーンとなります。
これまではちょっとづつしか出て来ませんでしたしね。
グロ系好きでない方は、飛ばすほうがいいかもしれませんが…