変わる日常変わらぬ平穏
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あの日から、何かにつけあの少女がまとわりついてくるようになった。
…というより、待ち伏せをされている感が否めない。
何がいけなかったのだろうか…というか、何故あの少女はこうも自分の居場所がわかるのだろうか?
見張られてでもいるのだろうか…
終わる事のない思考の螺旋に呑み込まれながら、カイトは始めてあったあの日からの事をなんとなく思い出していた。
わらわの奴隷になれ!…間違ってはいないはずだ…と言われたあの日。
偶然狩りの途中で出会い、図らずも命を助ける事となったあの少女。
もう二度と会う事はないだろうと思いつつ屋敷に帰れば、件の少女が訪れて、更に1年間屋敷に住まう事になるという。
おまけにその正体はこの国の姫だという。
…どこの御伽噺だ…
おまけに何をそんなに気に入ったのか、勉強の合間に暇を見つけては小屋に姿を現す。
お付きの侍従等も最初は穢れるだのなんだの言って小屋から遠ざけようとしていたようだが、1月経った今ではもう、諦めたのかなんなのかよくわからないが、我関せず…といった態度を取るようになってしまった。
勉強さえちゃんとしていればいいのだろうか?よくわからない。ただ一つわかっているのは……この、背中に刺さる、ねちっこい視線から、どうにかして逃げなければならない…という事だけだった。
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「あやつは今日もくんれんかのぅ…あきもせずよくやることじゃ…」
「同じ台詞をそっくりそのままお返しします」
目の前でそんな事を漏らす少女の姿を生温かい目で見守りながら、マリア・ルピスは溜息をついた。
この目の前の少女…自分が仕えるべき主、アリシア・ローゼスハイト…彼女は、このガイランド家の屋敷についた次の日から、暇を見つけては、せっせとこの屋敷に飼われている奴隷の元に足を運んでいる。
最高級の手触りを持つメルク糸のような光沢を持つ豪奢な金髪に、淡雪のような白さを持つ肌。整った顔だつを持つ彼女は、ローゼスハイト皇国の第2皇女として申し分のない器量を持っている。
将来はさぞかし美しくなるだろう…見た目は。
問題はこの性格…皇女というには余りに好奇心旺盛…というか、後先を考えない性格のおかげで、ここに来る前から何度も…そう、何度も何度も何度も何度も煮え湯を飲まされている。
そして今回のこれだ。
皇族であるならば、確かに一度は奴隷に触れる機会を持つべきだろう。しかしこれは…
先程と寸分違わぬ姿で目の前の奴隷の姿をじーーーーーー……っと見続けるその姿は…
「あっ!姫様!また何かはじめるようですよ!」
ここ一ヶ月で確実に回数の増えた溜息を吐き、マリアは、そもそもこんな事の原因を作り出したきっかけ…を作り出した存在に目を移す。
ルビア・ルビニア…そそっかしくてドジな、何故姫様の侍従に選ばれたのかさえわからない、この見習い侍従が、あの子を逃がしさえしなければ…
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流れるような足運び…
鋭い呼気とともに突き出される剣先…
まるで剣舞のようなその動きを目で追いながら、私は何度めかの溜息を漏らした。
…かっこいいなぁ…
あの日、姫様が飼っているルリムを逃がしてしましまい、森の中で大きな魔物に襲われた時から、彼の事が頭から離れなかった。
その日私は、アリシア様が1年間お過ごしになられるお屋敷にむかう馬車の中で、姫様が飼っているリルムの世話を任されていた。
ふわふわの尻尾を持つ、そのとても愛らしい姿をした小さな生き物は、与えた餌を口いっぱいに頬張って、カゴの中をぐるぐると走り回っていた。
かわいいなぁ…撫でたいなぁ…もふもふだよねぇ…
なんて事を考えつつ、じーっとその愛らしい生き物を見つめ続け、例のあの森に近づいたあの時。
急にルリムが足を止め、じっと窓の外を見続け始めた。
どうしたんだろう?なにかあるのかな?
普通だったらその動きになんとも思わず…むしろ見てもいなかったのではないかとさえ思える…いただろう。だが、ルビアは気がついてしまった。
それが運の尽きだったのだろう。気がついてしまった彼女は、いつものように変わらず、楽観的に、かつ短絡的に考えてしまった。
窓の外が見たいのかな?
そう考えた彼女は、ちょっとだけなら大丈夫だよね?と考え、ルリムを籠からだし、窓へと近付けたのだ。
一緒に乗っていた先輩侍従が注意した時にはもう遅く、彼女の手から一目散に駆け出した小動物は、あっという間に森の中に駆け込んですぐ姿が見えなくなった。
どうしようどうしようどうしようどうしよう
いきなりの事態に混乱した彼女は、「探してきます!」と言い放ち、森へと駆け込んだ。
姫様があの子を可愛がっていたのはよく知っている。なんとかして連れ帰らなきゃ…
それだけの思いで森の中に分け入り、ルリムを探してどの位が経っただろう。
一刻とも思えたし四半刻しか経ってないようにも思えた。
森の中を彷徨っていた彼女は、目の前の草叢がガサガサッと揺れる音を聞き、思わず「リリア!?」と、その子の名前を呼んでいた。
しかし、そこから現れたのは、そこらの大人よりも大きな巨体を持った、巨大なベアだった。
驚きと恐怖で身体が竦み、力無くへたり込んでしまう。
…どうしよう…逃げなきゃ…
なんとかそれだけ考えるも、どうやって逃げたらいいかなど考えられるはずもない。
どうしようどうしようと考えている間にも、一歩ずつ近付いてくる魔物に怯え、脚には全く力が入らない。
…私ここで死んじゃうのかな…?
不吉な考えが頭をよぎった瞬間、今度は背後の草叢が揺れ、何かが飛び出してきた。
また何かが出てきた!と、思わず首を竦め目を閉じる。
…怖い…怖い…誰か…
恐怖で塗りつぶされた心に、凛とした声が響く!
「退け!手を出すでない!」
反射的に目を開けた彼女が見たのは、己が仕える主。10にしかならぬ彼女が、自分の目の前に身体を晒し、大きく手を広げて自分を庇っている姿だった。
なんで!?なんで姫様がここに!!??
驚きも束の間、今度は更なる恐怖が襲う。
自分の代わりに姫様が死んでしまう!
それでも力の抜けた四肢は動かず、魔物はどんどん近付いてくる!
誰か…助けて…!
先程とは違う祈りが天に通じたのか、どこからともなく飛来した矢が魔物の身体に突き刺さる!
突然の攻撃に怒った魔物はその身体を矢が飛んできた方に向け走り出す。
その後状況についていけない思考が辛うじて見出せたのは、唐突に響く爆音と、脇から風の様に飛び出し、かの魔物に剣を突き刺し仕留めた青年の姿だった…。
その後馬車に連れ戻され、激しく叱られたあと屋敷に向け再出発し、ついた彼女達を待っていたのは、先程命を助けてくれた青年だった。
運命…そう、運命なの!
奴隷だとかなんて関係ない、これは運命なのよ!
自己完結した頭のなかで幾度もつぶやき、反芻した言葉を再度つぶやきながら、彼にひたすら熱のこもった視線を向ける。
彼女の主と同じ、しかし、微妙に意味の違う
視線を、近くにある小屋に影から、ひっそりと…
ストーカーじゃん!
とかってツッコミは無しの方向で。