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“奴隷”という名の存在価値-1

その日アリシアは、遅く迄物思いにふけっていた。

あの奴隷の青年…カイトといったか…彼が、どうにも欲しくて堪らなかったのだ。

彼の年齢は17~8といった所だろう。

その年で、ガイラルベアという、大人でも手こずる相手を軽々と倒してのけたのだ。

その才能は皇都でもなかなか見れない。

その上頭もしっかりしているようだし、今からきちんと鍛え上げれば、近衛になってもいい所迄いくだろう。


欲しい…


あやつが欲しい…。


等とブツブツ呟きながら部屋を時折立ってはウロウロ歩き回り、ふと何かに気がついたように顔を上げた…かと思えば首を降り、また椅子に座る。


そんな怪しい皇女の姿を、「また始まった…」だとか噂をする女中達。その上、中には「まさかあの年から男あさりを…」等と、不敬罪とも取られかねない…むしろそうとしか思えぬ発言をするものもいた。


だが、当のアリシアはといえば、そんな事など全く気づかず、只々どうすればカイトを自分の元へ来させるか。それだけしか考えていなかった。


しかし、この事をカイトが知れば、そのあまりの突拍子も無さに額然としていただろう。


彼にしてみれば、あの戦いで手を出したのはただ一度。

しかもそれさえとどめを刺せず、あのまま腕が振り下ろされればただでは済まなかっただろう。

そんな戦いが評価されてもどうしようもない…。


しかし、アリシアからしてみれば、全くの謙遜…となる。

少なくともアリシアが立っていた位置からは、弓を射たガゼットの側へと向かっていたガイラルベアへ、勇猛果敢に飛びかかり、腕をかいくぐって喉へ一突き!

ガゼットが魔法を使った事も、首から剣を生やし、なお襲いかかろうとした所に矢を額に突き立てる…などといった所は全く見えなかったのだから。

普通は剣を首に突き刺されたら生きてはいられない。

だからベアはあれで死んだのだ。

おまけに、髭の生えたむさくるし男より、顔のそこそこ整った若いものの方が…といった所でだいぶ美化されてもいたが。


結局のところ問題は、どうやってカイトを自分に側におく口実を作るか。


色々と頭を捻った挙句そう結論づけたアリシアは、翌日アベルにこの案をのませるために、あれこれと作戦を練るのだった。



*********



翌日アリシアに「カイトの件について話がある」と言われたアベルは、どうしてくれようかと途方に暮れていた。


と、いうのも、今回アリシアがガイランド家に来ている理由は、『社会勉強』という意味合いが強い。

どうしても世襲制の問題点となる、“限られた世界で過ごすうちに固定される視点”というのは、その制度からして避けては通れない。


皇族はどうしても狙われやすい。


だからこそ、万全な皇城に住むのであって、

決して権力を振りかざすためでも、贅沢をしたいからという訳でもない。


だが、そこで常に生活をする内に、どうしても考え方は歪んでしまう。


限られた場所で、限られた人にしか会わぬ生活。


それは歪んでいるとしか言えない。


価値観、考え方は、どうしても会う人間、生活する場所で変わってしまう。

皆が皆同じ生活をしているのならばそれでもいいのかもしれない。


だが、世界というものは違う。


目覚め


あるいは家事を


あるいは仕事を


人々はこなし、それによって生活していく。


その生活は千差万別。

ひとりとして同じものはない。


だからこそ法は、力無きもののためにあり、

その為に力を振るうのが、皇族たるものの義務でもある。


しかし、一部の者しか見えぬ場所にいては、如何に賢者と言われようと、その目を曇らせてしまう。

それが幼子ならば尚更に。


そして人は、自分が一度も見た事がないものは、想像すら出来ない。


だからこそ、このローゼスハイト皇国の皇族には、各国にはない、とある義務が課せられている。


『齢10を数えた皇族は、その領地内にあるいずれかの家に赴き、1年間生活すべし。その間その者は皇族としてではなく、“1人の人間”として生活し、街に赴き、己の生活を支える人々の生活をよく目に焼き付けるように。そして皇族としての義務を、しかとその心に刻むべし」


それがローゼスハイト皇族に課せられる義務であり、それをもって、晴れて皇族として受け入れられる、ある種の試練でもあった。


この考えが根幹にあるからこそ、ローゼスハイト皇国は、1000年の長きに渡り、その国土を維持し、大国としてこの大陸の中央に位置し続ける事が出来たのだ。


そういう意味では、魔物に襲われ命の危険と、その尊さを知るきっかけになり、奴隷という社会の仕組みに触れるきっかけにもなった。それはきっと、彼女の得難い経験の一つになるだろう…とは思う。思うのだが…。


「奴隷を連れ帰る側に召し置くのは流石に…冗談としても笑えんな…」




社会見学システムは、以前から考えていた、専制君主、及び王権と、民主主義政権との弊害その他を考えた時に、ぼんやりと考えていたものを使ってみました。


一応これだけでなく、他にもあれこれと制限などもあるんですが、それはいつか機会があれば晒そうかな…と。


それのお陰で、ローゼスハイト皇国は、多少のいざこざや問題はあるものの、他の国に比べれば、しっかりした土台と平和な生活が長く続いている大国であり続けています。


専制君主は、意外と悪い事ばかりでもないのですよ。

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