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面倒な客人

「そのほうら!たいぎであった!」


手にした剣についた血油をぬぐい、どうやってこれを持って帰ろうか等と考えていると、倒れたベアの向こうから、小柄な少女が近づいてくるのが見えた。


「そなたらのゆうし、しかとみとどけた!」


…うん、

ちょっと舌足らずな感じで偉そうにしゃべるその子は、きっとその手の類の趣味の人には、とても可愛く思えるんだろうなぁ。


そんな感想を抱きつつ、どうするんです?と、ガゼットのほうを見やる。


どうやらガゼットも少し困っているらしく、ちょっと考えた末に声をかけた。


「お嬢ちゃん、ここいらは魔物の数が少ないといっても、お嬢ちゃんの様な可愛い子供が入って来ていい場所でもない。そっちの子と一緒に、早く帰りな」


…もうちょっと言い方を考えられないのだろうか…。


軽く頭を抱えつつ、それでも言いたい事はほぼ同じであるカイトは、黙って経過を見守る事にした。だが結果は様相道理…


「姫様になんて無礼な口を!一介の狩人が、ただ顔を合わせるだけでもありがたいと言うのに!」

「よい、あのものがいっていることもどうりじゃ。たしかにこのような森にかるがるしくはいるべきではなかった」


…予想外に後ろの、恐らく同じくお嬢様を諌めるであろうと思っていた侍女に抗弁され驚く2人。そしてそれを逆に諌める“お姫様”


「しかし、命をたすけられて、なにもせぬままたちさるのも、れいぎにもとる。そのほうら、名前はなんともうす?」

「…俺の名はガゼット…こっちはカイトだ」

「そのほうらの名前はしかとおぼえた。いずれこたびのれいにまいろう。それではな」


そう言って森を街道の方に歩いていく。その彼女を追い、不機嫌なまま付いていく侍女。


なんとなしに顔を見合わせ、どうしたもんかなぁなどと考えつつ、とりあえず獲物を持って帰るのが先決と、どうして運ぶかを考える2人だった。




*********




バラすと逆に大変だからと、2人でかついで屋敷に戻り、味のいい部位だけを選んで屋敷に持って行くカイト。


それでも一抱え以上の大きさになり、汗を流しながら厨房に持っていくと、ちょうど中からフィリップが出てくる所だった。


「おや、今回はなかなかいい獲物がとれたようだね」

「はい、だいぶ奥の方迄行っていたので」


あれからだいぶ時もたち、その間何度も顔を出してくれていたフィリップとも、だいぶ親しくなっていた。


「今回の獲物はなんだったんだい?」

「ガイラルベアです。端の方はよけてきました」

「なるほど…なら夕食が楽しみだな。お姫様もきっと満足するだろう」


普段なかなか出ない食材に満足そうに頷くフィリップ。

だが、その言葉にふと、危機感を覚えた。


「お姫様…今日来られるので…?」

「あぁ、どうやら少し早めに着くらしい。道中で何事かあったようでな。お陰で大忙しだよ」


そう苦笑いで返したフィリップの言葉も半分ほどしか聞こえていなかった。



姫様



たしか、あの侍女もそう言っていた。

…変なことにならなければいいが…。

不意に、ぞくりと背筋を悪寒が走ったような気がした。




*********




肉を運び終え、そういえば何故わざわざお姫様がここ迄くるんだろう?なんて事を考えながら屋敷を出ると、丁度正門の所に、きらびやかな馬車が止まるのが目に付いた。


嫌な予感がして、足早に立ち去ろうと背を向けた瞬間…


「おお!そこのおぬし!もしやさきほど森で会ったものではないか!?」


その喋り方と声に、思い当たるのは一人…

恐る恐る振り向いたその先には、この家の当主に迎えられる、一人の小柄な少女がいた。




呼び止められたからには逃げるわけにはいかない。半ば諦めの境地でそちらに向かうと、満面の笑みを浮かべた姫様と、訝しげな顔をしているガイランド家のもの達が待っていた。



「やはりおぬしだったか!まさかこの家のものだったとは…さきほどは助かった!あらためてれいを言うぞ!」

「失礼ですが姫様…この者と知り合いで…?」


無礼を承知で話に割ってはいる当主。

それもそうだ、自分の家の奴隷が、まさか主君の姫君と知り合いであった等、笑い話にも出来ない。


「いや…来るとちゅうで馬車からペットがにげだしてな。それをつれもどすために森へ入ったら、巨大なまものにおそわれたのじゃ」


それを聞いて驚くアベル。姫君がいくらこちらに全く非がないとしても、任されている領地内で怪我でもしたとあらば一大事だ。


「そこへこのものと、もう1人ベアのようなものがあらわれてな、助けてもらったのじゃ」


「なるほど…」それならば納得。というより、家の危機を救われたようなもので、むしろ家からも何か褒賞を出さねばならない位の事でもあった。どうしたものかと考えていると、


「して、さきほどはきちんと聞きそびれたが、そなたのほうは何か、ほしいものはないか?わらわにできる事ならばなんでもよいぞ」


しかし、そう言われても特に何も出て来ない。そもそも、奴隷が何か望むという事自体がおかしい気がするし、ガゼットの方も「いらねぇ」と一蹴しそうな気がする。


結局「私は奴隷ですから、褒美なんてとても…」と、ありきたりの言葉を告げて辞去させて貰おうと口に出すと、逆にその言葉を聞いて彼女の瞳が輝いた。


「ほう!おぬしはどれいなのか!?あれだけのうでを持ちながらどれいとは…もったいないのう…ならばどうじゃ、わらわの元に来ぬか?」


その言葉に至っては流石のアベルも黙っていられず、「お待ちください姫様」と、割ってはいる事を余儀なくされた。



流石に姫様でも、いきなり奴隷を持って帰り、さらにそれを側に置くなど考えられない。奴隷を所有する事すらあり得ないのだ。


切々と説こうとするアベルだが、なかなか姫は言う事を聞かない。挙句、

「ふむ、そういえばこのものはそなたの奴隷であったな。ならば、わらわがこのものをそなたから買えばよい。いくらじゃ?5エルムか?10エルムか?」などと言い始める始末。


どうしたらよいか…と頭を抱えていると…


「ありがたいお言葉なのですが、私などが姫様のお側にいても役に立てる事などないでしょう。アベル様にも、とてもよくしていただいております。ですから、もうそのお話はこれで…」


と、カイトが言った事で姫もようやく折れたのか、「ならばしかたないのう…」などと肩を落とし、心底残念そうに言った。


「ならば、後日またほうびの話をするとしよう。わらわの名前はアリシア・ローゼスハイトじゃ。おぬしのなまえはもうおぼえた。ゆえにわらわのなまえ、しかとおぼえておくのじゃぞ?」


そう言い残し、颯爽と屋敷の方へ去って行った。それを慌てて追うアベル他一同。そのほぼ全員が鋭い視線をカイトに投げて行き、なんとも居心地の悪い思いをする事になった。

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