27話 普通とは程遠い日常
春君のお腹がギュルリと鳴ったのでとりあえず夜ご飯だなと、カップラーメンを用意する。春君は文句も言わず、カップラーメンを食べ始める。
バリッボリッと春君の口から硬い音が聞こえる。
「美味しい?」
「あうっ、すす少し硬いですけど。食べられます!」
だって、ねえ、お湯入れてら3分たってないよ、それ。毎日、子供にカップラーメンは身体に悪そうね。私は料理できないし、冷凍食品でも仕入れるか。
「あの、僕料理できます」
考えが言葉に出ていたのか遠慮がちに手を上げる春君。
「そう? でも火とか包丁とか危ないし…」
「ひ、火とか刃物とか使わなくてもできます!」
火とか包丁使わないでできるもの? サラダとか?
とりあえず明日の朝からお願いした。
次の日、目が覚めると台所に向かう春君。背が足りないので椅子の上に乗って一生懸命に料理をしている。
「おはよう」
声をかけるとビックとして振り返る。
「お、おはようございます。もうできるので座って待っていて下さい」
顔を洗った後、言われたとおりに座っていると、コトコトと目の前に食器?が置かれる。
「あのー、春君。これは?」
どう見ても、フラスコ、ビーカー、試験管にしか見えないんですけど。なかには色とりどりの原色の液体が入っている。
→フラスコ・赤い液体
「フラスコの中にはお茶と同じ成分の液体が入っています」
→ビーカー・ゼリー状の蒼い固形物
「人間の構成に必要な栄養素を入れてあります」
→試験管・紫や虹色の液体
「調味料です。味が薄かったら使ってください」
「トワさんが火を使っちゃいけないって言っていたので少し苦労しました」
ニコニコと満面の笑みで進めてくる春君。せっかく春君が作ってくれたんだから食べなきゃ駄目だよね。
「い、いただきます」
女は度胸よ!……感触はともかく味は思っていたより悪くない。ぺちゃぺちゃと2人で食事して、お弁当を持たされる。お弁当を軽く振るとカタカタと固定物の音が聞こえる。
これはこれで怖い!
「昼は咀嚼機能を生かした料理です」
おもいっきり、見送りをしようとしている春君の腕を掴み引っ張る。
「君も行くの!」
「ほええっ!」
春君を職員室で担任に預ける。私は……今日も自習にしようかと考えていると藤宮先生と先生の腕にくっついた主人公が職員室に来た。
「簾穣寺、早く教室に行け!」
「先生と離れたくない」
「っ、次のテストのことで職員会議があるんだ。お前に聞かせるわけにいかないだろうが」
「……わかったわ。じゃあお昼は一緒に食べましょう?」
「今日は昼に佐藤先生に学校のことを説明する約束があるんだ」
私、そんな約束知りませんけど?
「テス……私、英語苦手だから、なんとかなくならないかしら」
「なくなるわけないだろ阿呆」
藤宮先生が軽く主人公の頭を小突く。恋人同士のような甘い雰囲気だが、私はめっちゃ主人公に睨まれる。藤宮先生が言い含めて主人公は教室に向かったようだ。
「朝からおモテになりますね」
藤宮先生を冷やかすと拳骨を食らう。
「簾穣寺はそんなんじゃねえ、そんなんじゃねえんだよ」
藤宮先生は何かに耐えるように眉を寄せる。英語の担当教師達に呼ばれ、席に着く。剥げてて偉そうなおっさん教師が話し出す。
「今回の試験範囲は45pから……うっ!」
おっさんはお腹を抱えて倒れる。何事かと見ていた他の英語教師もバタバタと倒れる。
「な、ななななんで!」
パニックになりかけていると藤宮先生に肩を叩かれる。
「佐藤、落ち着け!」
なんとか落ちついた時には私以外の英語教師は皆病院送りになった。タイミングを見計らったように、まったりと達磨顔の校長先生が近づいて来た。
「次回のテストは佐藤先生に作ってもらわないといけませんな」
はあ!? 私は英語できないって言ってるでしょうが!
「冗談は顔だけにっ、ふがっ!」
藤宮先生に口を塞がれる。校長先生がいなくなると頭を叩かれる。
「この馬鹿! お前が余計な面倒起こしたら指導員の俺の責任になるだろうが!」
こってり搾られ授業に向かい、昼に藤宮先生に捕まった。弁当の中身は緑色の乾燥した固形物だった。それ以外に表現のしようがない。弁当の蓋で藤宮先生に中身を見られないようにガードしたが、努力空しく弁当を見られる。
「おまっ、それ食いもんじゃねえだろ!」
「バリッバリッ……栄養は……ガリッ…痛っ……抜群なんれふ!」
「食いながら喋るな!」
ああ、綾君の料理食べたいとか思っていると主人公が現れる。
「先生に会いたくなっちゃて……私がいたら駄目かしら?」
私なんか目にも入らないようで藤宮先生にしな垂れかかる主人公。29歳の私より色気がある高校生ってどういうことじゃ!