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Dear 狂愛  作者: みの
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26話 遅れてきた春?

 誰もいなくなった数学準備室。藤宮先生が積み上げたプリントが雪崩を起こした音で我に返る。


「どうして……なんで」


 不条理な殺人ゲームから逃れられたのに嬉しいどころか悲しいとしか感じられない自分に乾いた笑いがおきる。ドアの開く音がして藤宮先が来たのかと振り向く。


――――嘘でしょ……


 目の前にいたのは見た目も何もかも始めてあった時の可憐ちゃんだ。


「……可憐ちゃん?」


 勝手に口から声がポロリとでた。可憐ちゃんは眉を寄せ、ビクリと肩を震わせる。


「あ、あの私の名前を知って?」


 私のことがわからない? 可憐ちゃんの困った顔に謎が増える。


「さ、さ佐藤先生ですよね? あの授業……呼びに」

「え? ああ授業ね!」

 可憐ちゃんは私に気づいていない様子なので、先生を演じてみた。また、刺されるのも嫌だし!


 可憐ちゃんの案内で教室に向かう途中で話をする。


「どうして可憐ちゃ……あなたがお迎えに?」

「あ、あの私は2年になって学級委員に指名されてしまって」


 可憐ちゃんは押し付けられて学級委員になったんだろうな――今の可憐ちゃんの目に、あの夜の狂気は感じられない。


「……あなたはトワさんの友達だったわよね?」


 迷った末に確信的な質問をする。反応を見ながら何かあった時のために間合いをとる。可憐ちゃんはキョトンとした表情をした後―――「ほえっ! わ、私が学園的アイドルの簾穣寺さんのお友達!? ありえません、話したこともないです! ファンの人達に殺されちゃいますぅ」


 必死で手足をバタつかせながら否定する可憐ちゃん。私を名前じゃなくて苗字で呼んでいる。


 どういうこと?


 よくよく考えれば、ゲームの中では可憐ちゃんなんて存在するかもわからないほどのモブキャラ。私が主人公に憑依してなければ友達になることも、話すこともないのだ。彼女の今の性格でいうなれば、まさに羨望と憎悪の対象である学園アイドルの主人公と友達になれば格好の苛めの対象になる。よくて不登校、悪くて死亡エンドがありえる世界ゲームだ。


 とりあえず、まだ否定のため手足をバタつかせていた私よりよりやや背の低い可憐ちゃんを抱きしめる。胸部が断崖絶壁の私と違い、可憐ちゃんの発育よい胸があたる。


「最近の学生は発育がよ過ぎる! けしからん!」

「はうっ! ご、ごめんなさい?」


 私の変態発言を受け入れてくれる所も可愛すぎる。可憐ちゃんは私の癒しとして再確認する。

 黒幕がわかるまでは教師の振りをしろといたほうがいいという結論にいたったが教室について愕然とする。


―――この子達に何を教えろと!?


 席に座っている(元同級生の)生徒達は私をじっと見つめている。とりあえず――――「皆、私が新しく赴任した佐藤です。よろしくお願いします。さっそくですが皆さん教科書を出して下さい」


 無難な言葉を選んで話すと、生徒は真面目に教科書を机の上に出した教科書を見る。


 へえ、私は英語の教師か……ガッテム! 私は主人公時代?に29点を出した女なのよ!?


 くるりと生徒に背を向け黒板と対じしてチョークででかでかと一言。


“自習”


 生徒のざわめきを背に受け、無言で教室をでる。数学準備室に舞い戻り、頭を抱えていると窓の外から声が聞こえる。無意識に目を向けると藤宮先生と主人公が楽しそうに話をしていた。


 そいうえば、あの教室に主人公はいなかったなあ……授業をサボるとはけしからん!


「出席くらいとっておくんだったわね」


 妙なイライラ感に苛まれる。放課後になり、私は全ての授業を自習にしたことが藤宮先生にバレて拳骨を食らった。


「もう! 先生は私を女とは思ってないのかしら!」


 ワンルームマンションになんとか帰り、せんべい布団をかぶる。半目でウトウトしていると電話の呼びだし音に布団をかぶったまま受話器をとる。


「はい?」

「わたしよ!わたし!」

「新手の俺俺詐欺ですか?」

「違うわよ! 従姉妹の茜よ!」


 正直、誰だか知らんがゲームの中の私の親族らしいので話を合わせる。


「ああ~、そういえばいた気がする」

「もう正月に会ったばっかしでしょ。ところで、あんた1人暮らしで男いないんでしょ!」


 なぜに断定系の喋りなんだ従姉妹! 返事をする前に従姉妹は話を続ける。


「あんた男運悪いし、わかりきったことよね! だから、男送っといたから面倒見てね!」

「いや意味がわからなっ――――ツーツーと切れた音がする。


 送るって箱詰め!? 自分の想像に恐怖していると電話が再び鳴る。従姉妹からかと瞬間的に受話器を取る。


「冷凍便は駄目!?」

「はっ?」


 男性の声に人違いだと気づき謝る。


「すっ、すいません!」

「いえ……○×警察の者ですが」


 警察がなんの用!?


『あなたの滞在についてお聞きしたいことがあるので“ビザ”を持って出頭して下さい』

『ピザとか頼んでないですけど?』

『ビザです! もしかして持っていないんですか?』

『丸くてチーズがのってる食べも『違います!』』

『逮捕!』


「マジで!?」

「は? 本官まだ何も言っておりませんが?」


 はっ! 久しぶりにトリップしてた!


 電話の話によると迷子の子供が私の家の電話番号と地図が書いてある紙を握っていたらしい。


 不思議に思いながら交番に行って、警察の人に話をして子供が出てくる。子供は私より背が低く長い前髪に分厚い瓶底眼鏡。誰?と聞く前に子供が私に抱きついてくる。それを見た警察官が私を見て話す。


「お母さん駄目ですよ! 最近物騒なのに、こんな遅くに小さい子供1人で歩かせちゃ!」


 私はこんなでかい子供生んだ覚えはないので、帰ろうと歩き出す。ずるずる……ずるずる――――「だああ! 重い!!」


 子供は抱きついたきり、こ○きじじいの如く離れない。結局、家に着くまで離れず今はリビングで正座している。どうしようかと思案していると電話がかかってくたので出る。


「やっほー! わたしよ!」


 聞き覚えのある声。


「茜さん、何の用ですか?」

「もうテンション低いわね。届いたんでしょ!」

「え?」

「私の息子!」


 一瞬の沈黙の後――――「背の小さい、瓶底眼鏡の小学生?」


「そう、私の愛息子!」


 私は相手が気づくようにワザと大きな溜息をつくが、茜さんはKYさんらしく気がつかなかったが目の前の少年が肩を震わせた。


「ふふ、あとその子はあんたの高校の生徒よ! ついでに言うと不登校なので何とかして、あんた教師でしょ!」

「ちょっと、何言って――――ツーツー……またこのパターンか。


 これで高校生?目の前の少年をまじまじと見る。少年は顔を赤らめてもじもじとしている。


 これは年上の女性に見られて緊張するというあれですか?


「…………と、トイレ」


 はい、違った! 変な勘違いしてすいませんね。


 トイレが終わって少年は、また正座をする。ビッシと石のように動かないが私が少しでも動けば小動物のようにビクっとする。


「少年の名前は?」

「あう……二階堂 春です」

「正座じゃなくてもいいのよ」


「茜さんの子供なんだ?」

「ママ……ふぇ、ママあ」


 これのマザコン少年はマジで高校生なのか? 小学生の身体つきじゃなきゃ殴るところだ。春君にティッシュを渡すと眼鏡をとって一生懸命拭っている。


 うん? なんか見たことある顔だぞい。


 春君の前髪をしゃっと上げる。美少年だ、ミルクティー色の髪に澄んだ蒼い目の美少年。


「ねえ、春君?」

「あう?」

「ちょっと前まで海外留学してなかった?」

「あう」


 可愛らしく縦に首を振る。


「留学して飛び級で某有名大学卒業してるよね?」


 再び首を縦に振る。


 これは攻略キャラですね。二階堂 春君は天才美少年。留学して日本に帰ってきたけど回りに溶け込めず、引きこもりになり主人公とであって明るさを取り戻していく。もしくは天才にロボットにされたり、ホルマリン漬けエンドとかあった気が……


 なんでこんな所にいるんだ……


「あうっ、おばさん?」

「殴るわよ!」


 ギロリと睨み付けて拳を握る。


「ひっ、ごめんなさい!」


 春君との共同生活が始まった。



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