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Dear 狂愛  作者: みの
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25話 視点:主人公 目覚め…パート2

視点:主人公:トワ


 身体がふわふわする――私は……私は刺されて! 死んじゃったのかな!?


 外から扉を激しく叩く音が聞こえ、目が覚める。


 布団で寝てたんだ……ここは何処なのかしら? 見た感じワンルームマンションね?


 知らない部屋を観察していると再び、ドンドンっと大きな音で扉が叩かれる。


 ま、まさか借金取り!? お金なんて借りたこと一度もないのに……ここは正直に、お金は借りてませんって言わなきゃ、はじめが肝心!


 扉にチェーンをしっかりかけて、勢いよく扉を開ける。


「うちにお金はありません!」


 あれ? なんか違う?


「あ゛あぁ!?」


 顔は怖くて見られないけど、声がめちゃくちゃ怖い! ヤのつく職業だっ、絶対に臓器売買とかされちゃうよ!?


「ほげっ、わ私、臓器とかありませんから!?」


「それじゃあ、どうやって生きてるんだよ。ボケが!」


 聞き覚えのある声に、ふと意識がむく。


「藤宮先生?」


「わかってんなら、さっさとチェーン外して出てこいボケ女」


 藤宮先生、めっちゃ口悪い。安心半分、緊張半分でしぶしぶ扉を開けると、いらいらしている先生が仁王立ちで目の前にいる。


「おい、お前まだ着替えてないのかよ! 早く学校行くぞ!」


「え? どういうこ、ぎゃっ!」


 話の途中で部屋の中に押し込まれて、近くにあった適当な服に一瞬のうちに着替えさせられる。


「は、早業っ!」


「脱がせるだけならもっと早いぞ。 というか女が勝手に脱ぐがな」


 まったく自慢にならないことなのに胸を張って話す藤宮先生……っというか裸見られた!?


「変態! エッチ! スケベ!」


 自分をぎゅっと抱きしめるようにして防御の体制をとる。その姿をみた先生は、はっと鼻で笑う。


「お前みたいな“まな板”に興味ないぞ」


「ひどいですよ、先生!」


「おう、悪かったな」


 くっ、本当のこと言ったな! 許せないけど――潔く謝る先生に許してあげようと口を開こうとしたが、先に先生が話し出す。


「“断崖絶壁”だったよな! 佐藤」


 藤宮先生は私の肩にポンと手をおろした。まるで同情するように?……おいぃぃ! 僅かにっ、わずかに胸のふくらみがあるだろ! 認めろ!


 うん? というか先生は“サトウ”って言わなかった?


 サトウ・さとう・砂糖・佐藤!? 私の本当の苗字! 嘘、もしかして!


 急いで鏡を探しだし、中に映ったのは30代の本当の姿に戻っていた。

 

 やった~! 戻ってる! この顔の皺はまさに本物よ!……って、私まだゲームの中にいるの?!

 

 呆然としている私にかまわず、藤宮先生にぐいぐい腕を引っ張られ学校に着いた。そして、先生の数学準備室テリトリーに連れて行かれる


「おい、佐藤! なんかボケっとしてっから、もう一度言うぞ。俺はお前専属の新人指導担当の藤宮だ」


 先生の話をまとめると、私は昨日この高校の新人数学教師として赴任したらしい。昨夜の新人歓迎飲み会で酔いつぶれ心配?した先生が“わざわざ”迎えにきたらしい。どこまでも偉そうな先生にそっとため息をつく。


 私は、Dearの主人公は刺されてからどうなったの? 


 藤宮先生にそれとなく聞くしかないと、煙草をふかし始めた先生に距離をとって聞く。


「藤宮先生、簾穣寺さんって知ってます?」


 先生は主人公ヒロインの名前を聞いた途端に眉をよせて、いかにも不快という表情になる。


「佐藤は簾穣寺の知り合いか?」


「えーと、ほら彼女は絶世の美少女って有名だからっ」


 我ながら苦しい言い訳に目を泳がす。


「……簾穣寺はここの生徒だ。この前、2年になったばっかりだ」


 2年生!? 私がいた時は1年だったから成長してる!


 驚きで先生の言葉に適当に相槌をうちながら考えていると、数学準備室に誰かが入ってくる。そこにいたのは私が一番会いたかった人。


「綾君……」


「あ゛ぁ、あんた誰だ?」


 綾君は今までに見たこともないような不機嫌そうな顔で睨まれる。


「えっと……」


 私がトワだと言いたいがなんて説明しようかと言いよどむ。沈黙に包まれた準備室で藤宮先生が話しに入ってくる。


「あんまイジメんな弟、こいつは新任の教師だ。手ぇ出すなよ」


「ちっ、新しい先公かよ。こんな奴興味ねぇし!」


「だな、お前シスコンだもんな」


「っ/// うるせぇ! 不良教師!」


「シスコン不良のガキンチョに言われたくねぇ」


 綾君と先生が不毛な子供の喧嘩を止めようかどうしようか戸惑っていると、背後から女の子の声が聞こえ振り返る。


「藤宮先生! 綾っ! もう、2人とも探したんですよ」


 鈴のよな澄んだ声を出し、回りに幻想の大輪の花を背負って走ってきたのは完璧な美少女・主人公ヒロインだった。


 この子は……本物のヒロイン? ヒロインは可憐ちゃん? それなら可憐ちゃんは何処?


「姉貴……」


 綾君の声に我に帰って、綾君を観察する。いつも私が主人公ヒロインだった時に声をかけると、尻尾(幻想の)を振り千切らんばかりに嬉しそうにしていた。でも、今は何だか戸惑ってる……私の気のせい? 希望?


 ヒロインが先生と綾君を引き連れてもと来た道を楽しそうに歩いていく。私に背を向けて歩き始めた綾君がどこか手の届かない遠くに言ってしまいそうな不安にかられる。


 そうだ! 信じてもらえるかはわかないけど、本当のこと話して綾君に好きって伝えなくちゃ!!


 私が簾穣寺=トワだよ! 綾君のお姉ちゃんだよ!――――綾君に届くように勇気を振り絞って出した声は、ヒューヒューと息が漏れた音だけで声にならなかった。


 どうして!? どうして声がでないの!? こんなに伝えたいのに……綾君が好きって思いを伝えられたら、もう声なんて出なくてもいいのに!


 両手を首にあてて誰もいなくなった準備室に立ち尽くす。

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