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Dear 狂愛  作者: みの
24/30

22話 視点:藤宮 目覚め…

 

 視点:藤宮 恭


――――恭くん。もう無理しなくてもいいんだよ。


 百合?

 

――――恭くん。目を開けなくてもいいんだよ。現実はつらいでしょ?


 百合はもう……これは夢か……


――――恭くん。ここにずっと一緒にいよう?


 百合……すまない。俺は、俺は生きていたんだ。


――――恭くん。ゆ……ない。…ゆ…さない。


 百合?


――――許さない!




 はっと目が覚めると見知らぬ天井が目に入る。ボーっと見ていると、段々記憶が鮮明になっていく。


「簾穣寺!ぐっ!?」


 勢いよく起き上がると全身に激痛が走る。


 こりゃあ肋骨が何本かいってんな……くそっ、簾穣寺は無事なのか?


 激痛が落ち着くのを待ち、必死に体を動かす。痛みから汗がじわっと出て白いシーツにシミを作る。ベッドから降りようと足に力を込めるがたえられず鈍い音とともに床に倒れこむ。


「つっっ!!」


「ははは、何か面白そうなことしてんな。虫の息って感じ、藤宮センセイ?」


「誰だっ!?」


 まったく気配のなかった部屋に、背後からいきなり声がして驚き振り返る。


「そんなに怯えないでよ。敵じゃぁないからさ」


「お前は……」


 目の前にいたのは俺が教えている学校の制服を着た2年の大谷拓真だった。大谷はこんな状況だというのに、いつもと変わりなく笑っている。


「どうして大谷がここにいる?」


「それよりさ、もうすぐここにノリト?とかいう奴がくるぜ」


「っ則斗さんが!?」


「そうそう、めっちゃ目すわってるからウケちゃった。早く逃げたら? あと、病院の裏にある中野公園に行ってみればいいと思うぜ」


 この部屋にいたことや、則斗さんがもうすぐ来ることを知っていることなど、大谷は不可解なことが多すぎて動く気にはなれなかった。大谷は呆れたようにわざと大きなため息をついてみせた。


「大人って頭固くてメンドイな。とーちゃん――じゃなくってトワちゃんがあんたのせいで行方不明になってんだから、早く助けてよ。彼女弱いんだから」


「簾穣寺が!?」


 俺1人なら殺されてもしょうがないが、簾穣寺を餌にしちまった責任はとらねーと!


 裏の公園を目指すため足を引きずりながら、病室を出る。大谷はついて来ることはなかったが、最後にみた表情は哀愁ただようような微妙な笑顔だった。ナースステーションの前を過ぎようとした時――――見知った顔を見て柱に隠れる。


「すみません。藤宮恭のお見舞いに来たのですが何号室ですか?」


 看護師に話しかけていたのは則斗さんだった。


「ご家族の方ですか? 藤宮さんは5日たっても意識が戻ってないんです。会っても話はできませんよ?」


 俺は5日も寝ていたのか!


 その事実に驚きつつ、隠れている間にも痛みがじんじんと身体に響き冷や汗がたれる。則斗さんは俺に気づかず、通り過ぎ俺は中野公園を目指した。

 公園につくと眩暈がして近くのベンチに倒れこむように座った。意識が朦朧としながらも、血が服に滲んできたことに気づく。


 ここに何があるってんだ? 大谷にかつがれたのか?


「おいっ姉貴の先公! 姉貴をどこにやったんだよ!?」


 呼びかけられ、目を向けると簾穣寺の弟が走ってきた。

 

 大谷は簾穣寺の弟が来ることを知っていたのか?


「居場所は知らないが、誰といるかは知っている。とりあえず、場所を変えるぞ」


 周りを注意深く見渡しながら移動する。だいぶ公園から離れたところで、弟が焦れたように話だす。


「それで姉貴は誰といるんだよ!」


「簾穣寺は則斗さんと一緒にいるはずだ」


「はあ? ノリ兄と? そんなはずねえって、ノリ兄は俺と一緒に姉貴探してくれてんだぞ!」


 頭に血が上った弟が、俺の胸倉を掴みに睨んでくる。普段の俺なら軽くいなしていたが、怪我のせいで体がどうにも鈍い。


 まったく、若いな……その血を分けろ。


「くっ!」


 格好悪く、呻くと弟がぱっと手を離す。何かをじっと見ているかと思えば、俺の服のシミに気がついたようだった。


「あんた血が……」


 弟は頭から血が下がり、話ができるようになった。


「則斗さんは、最近おかしな行動はしてないか?」


 むすっとした様子だが、弟は少し考えてから話す。


「……一緒に姉貴探してくれたりしてくれたけど、それ以外は家に……部屋にこもりっきりだよ」


「部屋に簾穣寺が監禁されているという可能性は?」


「まさか! 俺はノリ兄の部屋にも行ったけど誰も……」


 話の途中で何かに気づいたように言いよどむ弟を問い詰める。


「……ノリ兄の部屋には誰もいなかったけど、地下なら……」


 則斗さんの執着ぶりから考えて、遠くに監禁したりはしないはずだ。


「簾穣寺はきっとそこにいる。早く助けに行くぞ!」


「お、おう!」


 弟と足を引きずった俺は急いで簾穣寺の家へ向かった。


 簾穣寺っ、無事でいろよ!


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