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Dear 狂愛  作者: みの
23/30

21話 ここは?




 落ちていく藤宮先生に、開かない車のドアを必死に叩く。


 藤宮先生!――――ビックと身体が痙攣して、目が覚める。


 夢? ここは……?


 布団らしき物の上で横になって寝ていたらしく、ぼんやりと周りを見渡す。薄暗い部屋は湿気が強く、かびの臭いに眉を潜める。身体を本格的に動かそうとするが、全く動かない。


 え! これが噂に聞く金縛り?! 幽霊が出ないでよ!


 ギュッと目をつぶる。少しすると、何かが近づいてくる気配がある。


「目が覚めました?」


 知っている声がして、目を開ける。目の前には、火の点いたランプを手に持ったノリトさんが私を見下ろしていた。ランプの眩しさに目を細めて、慣れるまでの時間もなくノリトさんが話し出す。


「あの後、トワちゃんは車の中で眠ってしまったんですよ。覚えていますか?」


 あの後……ノリトさんが、藤宮先生を崖に落としたのは夢じゃなかったのね。


「ううううぅ?(先生はどうなったの?)――!?」


 声が出ない!?


 間抜けな自分の声に驚いて、ノリトさんを見るとニコニコと楽しそうに話しだす。

 

「トワちゃんが眠っている間に、口にガムテープを貼って、身体をロープで縛っておきました」


「ううぅう! うううう゛うぅ!(ふざけないで! 今すぐ外しなさいよ!)」


「少し可哀想だなとは思ったんですよ。だから、テープは粘着性が強いものを選びました。ロープは動けない程度にしか縛っていませんし!」


 いやいや、駄目でしょうそれ!


 ノリトさんは、他にも何か話をしたあと、木で出来た梯子を上って部屋からいなくなった。

 ランプは置いていってくれたので部屋は明るい。明かりがあるだけで少し安心できる。落ち着いて脱出方法を考えた。



考えた結果――――脱出無理!



 ロープでぐるぐるに縛られていては梯子も上れないし、声も出せないので助けも呼べない。早々に考えるのをやめて、木造の狭い部屋を見回したが、何もすることがなく飽きる。


 藤宮先生は、死んじゃったわよね。あの高さだし……私も死んだら、もとの世界に帰れたりしないかな……ん? あの木目は人の顔みえるわ。あっちは、お魚に見える。


 木目を見るのが楽しくなってきて天井を見終わると、ごろごろ寝返りをうって壁を観察する。


 壁の低い位置に傷があることに気づく。よくみると誰かが書いた落書きのようで相合傘に汚い字で名前が書いてあった。


『あや / とわ』


 これは……子供の時に書いたのかな? それじゃあ、ここは――ガタッ!


 天井で大きな音がして、ノリトさんが戻ってきたのかもしれないと、耳を澄ませる。


「ノリ兄! 姉貴がいなくなって! 姉貴の先公が事故で!」


 綾君の声!


「落ち着いて下さい、綾くん。どういうことですか?」


「今朝、姉貴は先公を追っていったまま帰って来ねぇんだ。それで、探していたら話が聞こえてきて姉貴の先公が車で崖から落ちて意識不明の重体だって! 姉貴も一緒に車に乗ってたかも!」


 噂では藤宮先生は車で事故ったことになっているのか……でも、生きているんだ良かった。


 少しだけ肩の力が抜けたところで、気づく。2人の声がこんなによく聞こえるなら、私のうめき声でも届くはず。


「そうですか…生きて……」


「うううう! うう!!(助けて! 綾君!!)」


 精一杯声を出して助けを求める。


「ノリ兄? 何か聞こえねぇ?」


「床下にハクビシンでもいるのでしょう。それより、今はトワちゃんを探す方が先です。僕はあの男が運ばれた病院を探して、一緒に彼女が居ないか調べます。綾くんは彼女が居そうな場所を、もう一度探して下さい」


「わかった」


 ドタドタと綾君の足音が遠ざかっていった。逆に近づいてくる足音がする。梯子を降りながらノリトさんが話し出す。


「トワちゃん、聞こえましたか? あの男はまだ生きているみたいですね。あの男は下等な虫のように君の周りを目障りにうろちょろして……」


 ノリトさんとの距離を取るため、部屋の隅にズリズリと下がる。


「トワちゃん、何でこっちへ来ないんですか?」


「うううう! ううぅ!(近寄らないで! 危険人物!)」


 ノリトさんは、私の言葉がわかったのか梯子の側に立ったまま近づく気配もない。


「はあ、僕は君のことをとても大切に扱っているのに……あの男が生きているせいですね。どこまで邪魔な男」


「トワちゃんは僕が守ります。ここには、僕の部屋の下にある地下室ですから、誰も来ませんから心配しなくてもいいですよ」


 君は僕だけ見ていればいい――――そう言って、ノリトさんは梯子を上って行った。


 きっと、藤宮先生の息の根を止めに行ったのだろう。今度こそ、確実に……心配はできても、どうすることもできない。


 音のない部屋で眠りに誘われるのに時間はかからなかった。ぼんやりと壁の落書きを見てから、瞼を閉じた。

 


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