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Dear 狂愛  作者: みの
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19話 回想:未読メール89通 着信履歴124件 蒼井百合

 

過去:藤宮恭視点


 大学の講義が終わり、友人に軽く挨拶してバイトに向かう。先月から始めた新しいバイトは家庭教師。高校生の教科は簡単で給料はいいし、教師を目指す俺にはうってつけのバイトだ。1つ問題を挙げるとすると、教え子が女子高生だということ。デリケートなお年頃、少し間違えればセクハラと言われる。


 こっちは全くそんな考えはないんだがな……


 今日は、数学のいくつかの公式を覚えるまで書かせ、その後は応用を正解になるまでやらせた。


「恭先生もう無理! 覚えられないから!」


「文句を言う暇があったら公式を唱え続けろ!」


「唱えるとか魔法!? 数学って人智を超えているの!?」


「∫{f(x)+g(x)}dx=∫f(x)dx+∫g(x)dx, ∫a*f(x)dx=a∫f(x)dx……」


「きゃー、やめてぇ!」


「今言った公式を100回紙に書きながら唱えろ。来週までの宿題だぞ」


「鬼! 悪魔! ドS!」


「……さっきの宿題について訂正する。1000回書きながら唱えろ」


 教え終わると、母親がお茶とケーキを持ってきて話しだす。


「藤宮先生、うちの愛ちゃんは頑張ってお勉強していますか?」


「ええ。お母さん、愛さんは優秀ですよ。これなら、すぐにテストの点数も上がりますよ」


この家でのびのびし過ぎている教え子にプレッシャーをかける。


「ちょっ、恭先生何言って「まあ! 本当に? 愛ちゃんすごいわね」……」


 適当に話を終わらせ、玄関で靴を履いていると母親に話しかけられる。


「藤宮先生、相談があるのですけど」


 普段おっとりした笑顔を浮かべている母親とは思えない沈んだ表情をしている。重要な相談であると判断して、向きなおり真剣な表情をつくる。


「何か?」


「実は……愛ちゃんが最近、ストーカーされているらしくって」


「ちょっとママやめてよ! あれは気のせいかもしれないし」


 自信なさ気に、言葉が尻すぼみになっていく。


「どういうことだ?」


「えっと、最近、気がつくと誰か知らない人に見られてて……でも、でも気のせいだと思うの! だってあの人、女の人だったし!」


 女が女のストーカー? 変に思いながらも、家の戸締りをきちんと行うことと、歩くときには人通りが多い場所を選ぶなど、いくつかアドバイスをして帰った。



 夜中2時過ぎにレポートが書き終わり、寝支度をしていると電話が鳴る。こんな時間に何のようだと画面をみると恋人の名前が表示されているのを見て急いで出る。


「もしもし、どうしたこんな時間になんかあったのか?」


「あっ! 恭くん、やっと出てくれた。心配したんだよ! 何回かけても連絡取れないし」


 心配? 俺は百合に何か心配されるようなことをしたか考えたが、何も浮かばない。


「それで何か用事でもあったのか?」


「酷い! それが心配して電話した恋人に対する言葉!?」


 何度か謝って、許してもらえた。今日の百合はどうもおかしい。何かに焦っているような、今にも泣き出しそうな不安定さがある。


「恭くん、明日って言っても今日なんだけどデートしたいな! ドライブにしましょう? 16時に恭くんの家に行くから、行き先は私に任せて! じゃあ遅くに電話してごめんなさい。お休みなさい!」


 百合は言いたい事だけ言うとすぐに電話を切ってしまった。今日は用事もないし、百合に会えば、何がおかしいのかもわかるかと眠りにつく。



 目が覚めると、時計が12時を指していた。随分、寝たなと思いながら服を着て食事をする。いつも通りにだらだら動いていると、16時になり百合が家に来た。白いワンピースは、曇り空のせいか澱んで見える。


「恭くん、ごめんね。無理やり約束しちゃって……」


「俺も暇だったし、気にするな。お兄さんにはちゃんと言ってきたのか?」


 俺は、百合の兄――則斗さんに嫌われている。というか、認められていない。父親代わりでもある則斗さんは百合のことが心配なのだろう。


「うん。デートだって、自慢してきちゃった」


 則斗さんの不機嫌な顔を思い浮かべて、少し落ち込みながら百合を自慢の真っ赤なスポーツカーに乗せる。


「それで、どこに行きたいんだ?」


「きれいな夜空が見えるところがあって、そこに行きたいの」


「今、曇ってるぞ。雨が降りそうじゃないか?」


 天気予報は見ていないが、どう見ても晴れそうにない。


「大丈夫。これからきっと晴れるわ」


 百合は笑顔で自信がある様子だった。そうなのかと、深く考えずに百合の誘導で車を走らせた。2時間程、走ると大粒の雨が降り出した。山を登り続けて、道路の左、ガードレールの奥は断崖絶壁と言わんばかりに高所まで来た。


「百合、今日は帰らないか? 晴れそうもないぞ?」


「大丈夫よ。それより恭くん、家庭教師をしているのよね?」


「ああ、まあな。給料はいいな」


「……あの子、可愛いわよね。私より若いし、明るくて友達も多いし、あの子が好きなの?」


「おい、百合? どうしたんだ? あの子は、ただの教え子だろ」


 突然、泣き出した百合に混乱しつつも車を止めようと減速してウィンカーを出す。


「ひっく、うん。車、止めないで、もう少しで着くから……もう少しで」


「百合、本当に昨日から変だぞ」


「ご、めんなさい。お父さんとお母さんの命日が近くなると、自分が抑えられないの」


 百合の両親が心中したことは知っていた。なんとも言えない気持ちになる。百合は、ポロポロと涙を流す。雨脚もどんどん強くなって視界を奪う。


「恭くんが女と話しているのを見るの嫌なの。離れていても他の女といないか心配なの。恭くんが

好き、好き、好き」


「百合?……」


「ねえ? 恭くん。好きだよ。好きだから……一緒に死んで?」


 お父さんとお母さんみたいに――――笑顔で、そう言いながら百合は助手席から手を伸ばし、おもいっきりハンドルを左にきる。ブレーキを踏んだが間に合わず、車はガードレールを突き破って、崖を転がり落ちていった。


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