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Dear 狂愛  作者: みの
20/30

18話 先生!何しに来たの!?

あの後、無事に家に帰ることができた。最後に不思議な言葉を残して……


「なあ、とーちゃん」


「何ですか? 大谷先輩?」


「俺はお前のさ、目の前にいるか?」


 いつもの爽やかな笑顔がなく真顔で質問してくる大谷先輩に戸惑うし、言葉の意味もわからない。実は幽霊でしたとか言われても困るし、家の――神社の前で、その話は笑えない。


「どういうこと?」


「……やっぱり、いいや。なんでもない。それにして腹減ったな!」


 話を逸らして、大谷先輩は、何事もなかったように普通に帰った。本当によくわからない人だな……




 翌日、今日は休日! 神社の手伝いをするため、朝の5時に起きて、巫女服を着て掃除をしている。拭き掃除のため、外にある水道で、バケツに水を入れて運ぶ。


「よっこいしょ! う~、重たい。寒い」


 この非力で白い細腕は、今にも折れそうだ。見かけは高校1年生でも肉体年齢29歳とかいう設定は嫌よ。ふらふらしながら運んでいると、綾君が近づいてきた。


「おい!」


「綾君、おはよう。どうしたの? 」


「貸せ」


「へ?」


 私に手を差し出して何かを要求しているが、意味がわからない。綾君に何か貸せるものがあっただろうかと考える。


「バケツ貸せって言ってんだろ! 目の前でふらふら歩いてんなよ。目障りだ!」


 私の手からバケツを奪い、軽々と片手で運ぶ綾君。見かけは、私とそうかわらない、細腕美少年のくせに! それに、毎度、口が悪いツンデレのシスコンめ! 手伝うなら普通に言えばいいのに。


 イラッとしたが我慢して、先に歩き出した綾君の後を追う。


「綾君、ありがとうね」


「っ! 別にお前のためじゃないからな!」


 綾君は、こんなに朝早くに起きる用事もないのに、ここにいるということは、絶対にわたしのためだ。後姿だから、わからないが綾君は顔を真っ赤にさせているはずだ。


 ツンデレ美少年の赤面とか貴重! 絶対見るべし!

 

 回り込んで顔を見ようと早足になって頑張ったが、綾君の赤面は見られなかった。その前に、綾君は真顔で何かを見ている。その方向には人がいた。


「参拝者かな? あの人……」


 見たことのある人物だった。私の通う学校の数学のホスト教師だ。


「藤宮先生? どうしたんですか?」


 声をかけると藤宮先生はぎくりと身体を揺らした。どうやら私達に気がついて、いなかったみたい。


「お、簾穣寺か! ちょっとな――」


 少しほっとした表情と困惑したような表情が混ざって、複雑そうな顔をしている。いつもと違い、歯切れの悪い、もの言いに不思議に思っていると綾君が、藤宮先生と私の間に立つ。


「……姉貴、こいつ誰だ?」


「学校の数学教師で藤宮先生だよ」


「ふ~ん、先公かよ。こんな所になんの用だ」

 

 藤宮先生を睨みつけて、敵対心いっぱい、毛をさかなでた猫のようだ。


「綾君、口が悪いよ。すみません、藤宮先生」


「いや、別に気にしてねえよ。始めまして“弟君”」


 藤宮先生は、高い身長を利用して、綾君を上から見下し――――見下ろしている。


 いやいや、藤宮先生、子供相手にむきにならないでよ……


 睨み合う両者に弱冠、呆れつつ話を進める。


「ふ、藤宮先生、本当にどうしたんですか? 神社に御参りでもないでしょう?」


「まあな……則斗さんに会いに来た」


「ノリトさんに?」


「俺なりの、けじめをつけに来た」


 そう言った藤宮先生は、覚悟を決めたような表情をしていた。ノリトさんを探し、藤宮先生の所に連れてくる。ノリトさんは一瞬だけ驚いた顔をした後に、いつもの笑顔に戻る。


「則斗さん、今日は話があって来ました」


「そうですか……残念ですが、僕は話をする気はありません。帰ってください」


 取り付く暇もなく、ノリトさんは踵を返していなくなった。藤宮先生は、追いかけることもなく、それ以上は何も言わず、去っていった。


 藤宮先生は大丈夫かしら? ノリトさんも様子がおかしかったし……


 私はどっちにいったらいいの? もしくは、どっちにも行かなくてもいいのかもしれない。ゲームのように選択肢を悠長に選んでる暇はない。

 

 本当に年齢とともにおせっかいさが大きくなったのか気がするわ――――


「私、ちょっと先生を見てくる!」


「姉貴!?」


 綾君を残し、肩を落として落ち込む藤宮先生の後を追う。なぜ先生の所に来たかは自分でもわからないが、後悔だけはたくない。追いつくと藤宮先生は止めてある赤い車の前で、煙草を吸っていた。


「藤宮先生、大丈夫ですか?」


「……予想はしていたが、実際に拒絶されると堪えられないな。時間じゃ、解決できねえこともあるんだな」


 藤宮先生の表情は暗い。落ち込んでるところ悪いが聞きたいことがある。


「でも、何を話しに来たんですか? 今更じゃない」 


「そうだな……本当の話をしに来た」


「本当の話?」


「あの時は、話せなかった。話す勇気がなかった――――そういえば、お前、則斗さんと親しいのか?」


「普通の家主の子供と居候の関係よ」


 いきなり違う話を振られ、どうでもいいノリトさんのいたずらを思い出してしまい、むきになって刺々しい言い方になってしまった。


「そうか、親しいんだな」


 藤宮先生は苦笑しながら、煙草を道路に捨て踏みつける。


 ちょっと! どこをどう取ると親しいという結論になるのよ!?


 弁明をしようと口を開くが、藤宮先生が先に話し出す。


「これからドライブに行く」


「へあ? お気をつけて?」


「お前も行くんだよ。乗れ!」


「うお!」


 誘拐同然に車の助手席に押し込まれて、女の子らしからぬ声が出てしまったがしょうがない。せめてもう少し女の子らしくと思い、おしとやかに足を斜めにして座る。藤宮先生はまったく気にしていないようだが……


 藤宮先生は、車を無言で走らせている。適当に走っているのではなく、どこか目的地があるようだった。


「藤宮先生、どこまで行くんですか?」


 1時間程たったところで、我慢できずに質問する。車は山を登り、どんどん人通りがなく、他の車も見えなくなっていた。藤宮先生はバックミラーを落ち着きなく、何度も確認している。


「……事故現場だ」


「百合さんの?」


「ああ、楽しくはないが、昔話を聞くか?」


「……」


 ――――これはきっと大切な選択ね


 物語を左右する重大な選択肢。生き残れるかどうかの選択の1つ。


 私は……頷いて答える。


「聞かせてください」


 藤宮先生は、前を見て運転しながら、ぽつぽつと話し出した。


「あの日は、天気が悪くて、雨が降っていた。百合が前日、急にドライブに行きたいと言い出して……俺も用事がなかったから、車を出した」


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