1話 トリップ!初めましてツンデレ弟君?
「ここはどこなのよ」
目を開けると、見知らぬ住宅街が広がっていた。
さっきまで私は、ごろ寝してスナック菓子を食べながら、家でゲームしてたよね? 夢にしてはリアルすぎる。誘拐だったら、こんな路上に放置とかしないだろうし。残るは、私は、実は夢遊病でこの場所に、一人で来たとかしか思えない。
「あはは、ありえないぃ!」
叫んだ私に、近所の住人であろう、おばさま達がヒソヒソと話しているのが見える。確かに状況を知ろうと周囲を見回す、私は、挙動がおかしい不審者にしか見えないだろうが……そんな、そんな、痛い子を見る目で観察しないで!
流石にこの場所にいるのも気まずいから、移動する。まあ、ここがどこかはわかんないけどね☆――――でもなんか、見覚えあるような?
歩きながら、頭の中を整理する。自分の名前は、佐藤 永久で、乙女ゲームが大好きな29歳。普通に働いて、普通に生きてる一人暮らしで独身女性。
ドクシンとでもヒトリミとでも呼ぶがいいわ!普通に生きて、必死にゲームしてきた結果だ。やってきた乙女ゲームは星の数程ある。初恋の相手もゲームのキャラクターだった。家に帰ればダーリン(ゲームのキャラ)達がいてくれる。
寂しくなんてない!……コンビニ弁当を買っての帰宅途中以外は。
気がつけば神社の境内にいた。横には、神主が住んでいそうな家らしきものがある。もう一度言う、家らしきものである。良く言えば、伝統の日本家屋。悪く言えば、ボロい木造平屋、確実にデるだろう。黒い服のG様ではない、白い服のU0様が!
それにしても、良い匂い。もう夕飯の時間。私が最後に食べたのって、スナック菓子だけだ。このままじゃ、飢え死にする!ヤバイよ、私!
お腹の虫が鳴く音で我に返る。
「……お、落ち着ける場所を探していたんであって、断じて、家庭の、手作りカレーの匂いにつられたわけじゃないからね!」
「手前、人の家の前で何を騒いでんだ! 近所迷惑を考えろ! 殴り殺されてーのか!」
「うわぁ、ご、ごめんなさい!」
「あ゛、姉貴かよ? 怒鳴って悪かった」
え?と首を傾げつつ出てきた銀髪不良美少年を観察する。私には姉がいるが、弟はいたことはない。生き別れの弟なんて絶対にいない。でも、知っている気がする。
つり目+銀髪+美少年+不良+弟=ツンデレ弟
ツンデレ弟?ボロ神社に住んでいるツンデレ弟だと!知っているよ!多分、合っているはず、自信ないけど。私は、銀髪不良美少年を見て、遠慮がちに声を出す。
「綾君?」
「ん? 姉貴、腹減ってんだろ。姉貴は昔から腹減ると、ボケッとしてるからな。飯できてるから、さっさと入れ」
目の前には現実にいちゃいけない人がいる。
呆然としている私を、トロいとか何とか言いながら、ボロい家の中に引っ張っていくツンデレ弟。
ツンデレ弟、綾君はDearという乙女ゲームに出てくるキャラクターだ。
苗字は忘れたけど、日本人の母と、イギリス人の父とのハーフで、銀髪と蒼眼の美少年。中学三年で姉大好きの超シスコン。姉に男を近付けないために不良になった。家事と料理が趣味。姉には不良であることを隠しているらしい。
古い畳が引いてある居間に連行され、ちゃぶ台の前に座らせられる。
ぐぅー……と私のお腹が鳴る。
カレーライスを持ってきた綾君と目が合う。
み、みてんじゃないわよ! 恥ずかしい……
綾君は、顔を下に向けた後、笑いをこらえきれなかったのか噴出した。
「わかりやすい奴」
言い返そうとしたが、ぐっと堪えた。今は、ご飯が先よ!
綾君に、一応、お礼を言い、食べ始める。お腹が減りすぎて、自分が姉と呼ばれたこととか、この場所はどことか、笑われたとか、今はどうでもいい!
これが背に腹は変えられないってやつ?