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Dear 狂愛  作者: みの
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15話 蒼井 則斗視点:宝物に告ぐ?

 ☆14話の蒼井 則斗視点


 彼女には妹に会って欲しかった。僕の大切な家族に――

 

 落ち着いた色の服を来たトワちゃんは、実際の年齢より大人びて見えた。彼女はもともと大人びた雰囲気を持っていたが、今日は一段と大人のようだ。


 彼女に白い百合の花束を托す。


「妹と同じ名前の花です。あの子は、その花を一番、好んでいました」


「そうなんですか……綺麗ですね」


 生きていた頃の妹の笑う顔が浮かぶ、と自然に微笑でしまう。同時に、虚しい気持ちにもなる。


「それではお願いしますね」


「……はい、任せて下さい」


 彼女を見送った後、神社の管理を行う。昨日よりは、人が多くないことに、ほっとした。


 妹の命日になると思い出す、昔のことを――――


 よくある悲劇を見せられているように、僕の生活は、音を立てて崩れていった。

 蒼井あおい 百合ゆりは、僕のたった1人の家族にして、最愛の妹だった。


 両親は、僕が19歳の時に死んだ。2人して、車中で練炭を使って心中したらしい。その連絡を警察から聞いた時には、“やっぱり”としか感じなかった。もともと、僕や百合は、空気のように扱われていた。2人にしてみれば、生きてればいいくらいの認識だっただろう。


 入学したばかりの大学をすぐに辞めて、沢山の仕事をかけ持ちして働いた。若かった僕は、たいした給料も稼げずに貧乏だったが、小さなアパートで百合と2人で幸せに暮らしていた。他のものは何もいらないかった。

 間違いなく、百合は俺の宝物だった。

 僕が26歳に、百合が21歳になったある日、百合は恋人を連れてきた。軽薄そうな男は、藤宮 恭といった。初めは反対したが、百合の一生懸命さに、藤宮の真摯な態度と、交際を許した。


 それから3年後の春に、百合は死んだ。交通事故だと聞いて、会社の上司に断り、病院へ急ぐ。慌てていたため、よく分からなかったが、電話では、藤宮が運転する車が崖から落ちて、助手席に乗っていた百合も重症だと言っていた。百合が心配で、不安を隠せない。


 病院についてから受付で百合の病室を聞き、行ってみると、頭と左腕に包帯をした藤宮が椅子に座っているのが見える。藤宮は下を向いている。


「百合は?」


 僕が藤宮へ詰寄ると、無言で首を振る。


 百合が死んだ?………


「嘘だろ……どうしてっ!」


「…………」


「なんでお前だけが生きている!? 」


「……………」


「妹を、百合を幸せにするって言ったじゃないか!! お前が……お前が、死ねば良かったんだ!」


「……………」


 なんで、なんでお前は何も答えない!


 藤宮は、何も答えなかった。病室に行き、顔にかけられた白い布をゆっくり捲る。その顔を見て絶望する。目の前が、真っ暗になって何も見えなくなる。頭に浮かんでくるのは、今日の朝に会った最後に笑っていた姿だけ。



 神なんていない――――僕は、あの瞬間から神というものを信じなくなった。



 病室から出てきてからも、藤宮は、何かを言う事も、涙を流す事もなかった。藤宮を何度も殴る。病院の職員に止められるまで殴った。


 認めない――――お前が、妹を愛していたなんて。



 落ち着いてからは、いろいろな手続きをしたり、百合の葬式をしたりで瞬くように過ぎていった。これ以上、あの男とは関わりを持ちたくなかった僕は、海外に出た。


 目的もなく、放浪としていた。


 偶然だった、トワちゃんの両親に、話しかけられたのは。日本人が珍しかったのだろう。家族の自慢など様々な話をしてくる。適当に相槌をうっていただけなのに、どういう話の流れか、僕に、神社の管理者になって欲しいという話もしていた。


 興味がなかった。しかし、トワちゃんの両親が出したのを見て……


 っ!?――――


 その写真をみて、目が離せなくなる。百合に似ている……そう思ったのは、一瞬だった。よく見ると、容姿も何もかも、百合とは違った。ただ、纏う雰囲気が近かった気がした。トワちゃんに興味を持った僕は、神社の管理者になることを承諾した。


 日本に戻ってきて、すぐにトワちゃんに会ったが、写真と雰囲気が180度も違っていた。写真では、内気そうな印象だったのに、実際の彼女は生命力に溢れていて活発な子だった。


 妹と完璧に似ていない……


 正直言って、がっかりした。せっかく、日本にまで帰って来たのに、彼女にはとっては理不尽だろうが怒りを覚えた。だから、腹いせに、この子で遊ぼうと思った。

 

 僕が近づくと大抵の女は顔を赤くさせるのに、彼女は顔を蒼くさせる所も、僕を怖がっているだろうに、からかうとすぐに怒る所も面白かった。何もかも、他の子とは違う彼女に惹かれていった。

 ただの興味が好き変わって、それから彼女を愛しいと思うのに時間はかからなかった。彼女で、遊ぼうとしていた自分を殴りたいくらい反省している。しかし、そのおかげで彼女を知ることができた。彼女の前では自然に笑える。


 僕は、いつの間にか、新しい宝物を手に入れていた――――



 命日には、百合のお墓参りに行きたかった。でも、僕から妹を奪った男がいるかも知れない。それだけで、僕の足が動かなくなる。妹に会って欲しいと思ったのは嘘ではないが、怖くて、憎くて……彼女に頼んでしまった。



 考え事をしながら仕事をしていると、すぐに夕暮れになってしまった。


「あの!……」


 人もいなくなったと思っていた境内に、1人だけ残っていた少女が話しかけてきた。


「なんですか?」


「とても素敵な神社ですよね。私、ここに来ると落ち着くんです」


 ここは、どう見てもボロ神社にしかみえないけど……


「ありがとうございます。それでは僕は、神社の掃除がありますから失礼します」


 とりあえずお礼を言って、去ろうとすると――――


「待って下さい!……鳥居のほうに、結構、木の葉が落ちていましたよ」


「はあ? そうですか、行ってみます。伝えて下さってありがとうございます」


 少女は付いて来ることはなかった。僕は、鳥居の近くに着くと、トワちゃんが見えたので、声をかけようとしたが、やめた。彼女と話している人間が見える。


 何故、あの男がいるんだ? 彼女と一緒に……


 僕が、見間違えるはずない、この魂に刻んだ憎しみと怨念が、藤宮を忘れたりはしなかった。しかし、あの男を殺したいと思う程、憎んでいたというのに……僕の身体は動かなかった。目が行くのは、彼女が楽しそうに、あの男と話している姿。それだけなのに、名も知れぬ黒い感情に飲まれる。


 あの男は、百合を失っても、まだ笑うことができるのか。


 男は、再び、僕から大切なモノを奪おうとしているのか。


 許せない


 許セナイ


 ユルセナイ

 


「ノリトさん、ただいま…………え?」


 近づいてきた彼女を、腕の中に閉じ込める。


「お帰りなさい、トワさん」


「の、ノリトさん?」


 腕の力を、強くすると彼女の身体が強張るのが分かる。


「今日は妹の所へ行ってもらえて、助かりました。ありがとうございます」


 その後、ほうきを置いてくると言って、彼女が怖がらないように笑顔を作った。彼女から離れ、掃除用具入れの倉庫へ、歩く。



 「ふふふ……」


 何故か気分が高揚して、笑えてくる。何もかも、悲劇だったはずなのに。


「今度は、必ず守ってあげるからね……」


 僕の宝物トワちゃん――――


 2人で一緒にいよう?


 僕から君を奪う“男”は全て排除してあげるから



 「ねぇ? それくらい許してくれるでしょう?」――――


 ――僕から宝物ユリを奪った神様



 この世界に、君と僕以外いらない。



 これから、君のための喜劇を――――



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